ナイジェリア:ラゴス市のスラム地区での診療

2010年12月07日掲載

国境なき医師団(MSF)は、ラゴス市内にあるスラム地区マココ、オットー、バディアにおいて無償で医療を提供している。これらの地区では、人びとは過密状態の環境下で生き延びることに必死で、医師にかかる経済的な余裕のある人はほとんどいない。


貧窮したスラム地区3ヵ所で活動

スラム地区マココにあるアイエトロ・ヘルスセンターの前に並ぶ人びと。
スラム地区マココにあるアイエトロ・ヘルスセンターの前に並
ぶ人びと。

朝早く、まだ7時10分前だというのに、マココのスラム地区にある医療施設、アイエトロ・ヘルスセンターの門の前では、すでに10人ほどの人びとが診療の開始を待っている。ポール・ギドヌも、根気よく並んでいる1人である。2日前、ギドヌは木材を切り出している最中に足首を切った。自宅で傷口を洗い流し薬草を塗ったが、痛みがひどく傷も治らないので、医師の診療を受けることを決意した。この施設は開所してまだ3ヵ月だが、地元の住民たちはギドヌと同じく、ここが医療を受けるのに適した場所だと知っている。熟練したプロのスタッフがいて、医薬品の質が高く、サービスも無料だからだ。列を作っていた人びとは、評判のいい理由をこう説明する。

ラゴスは約1800万人の人口を擁し、ナイジェリアのみならず、おそらくアフリカ最大の都市であるが、マココはそのラゴスにおいて最も貧窮した地区の1つである。数千人の人びとが、基礎的なインフラもサービスもなく、不衛生な生活環境のスラム地区で暮らしている。公立病院でも医療費を支払わなければならないので、スラムに暮らす貧しい人びとは医師の診療を受けることが困難になっている。このため、MSFはマココ、オットー、バディアの3ヵ所のスラム地区内で、一次医療とリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)のプログラムを開始することにした。

一次医療、産科、移動診療など多方面から支援

移動診療に集まる人びと。スラム地区オットーにて。
移動診療に集まる人びと。スラム地区オットーにて。

MSFは7月5日にアイエトロ・ヘルスセンターでの活動を開始し、一次医療、リプロダクティブ・ヘルスのサービス、入院および救急医療を提供している。開所からの3ヵ月間で、診療件数は1万2000件以上にのぼっている。マココではマラリアと呼吸器感染が最も多い。さらに専門的な治療が必要な患者は、地域の病院に搬送される。

28歳のブレッシング・アブバルカルは、陣痛が始まるとすぐに夫とアイエトロ・ヘルスセンターにやってきた。正午に産科病棟に入り、その4時間後に息子ムハンマドを産んだ。この日からさかのぼること3ヵ月前、アブバルカルはこの施設でMSFの産前ケアを受けた初の女性であった。

ナイジェリアは世界で最も妊産婦死亡率が高い国の1つである。多くの妊婦は、病院に行く経済的な余裕がないため自宅で出産する。さらにその多くは、伝統的助産師に有料で分娩を手助けしてもらうが、他方、自前の医療スタッフを持つ教会に支援を求める女性もいる。MSFがマココに施設を開所して以来、産前ケアを受けにくる女性の数は増加する一方である。現在では毎日40人が産前ケアを受けており、需要はいまなお増え続けている。

さらにMSFは、移動診療を通じて市内の他の3地域に活動の場を広げようとしている。10月6日には、最初の移動診療がオットーのスラム地区内で行われた。すでに315人の患者が治療を受け、産前ケアの診療90件が行われている。バディアでは、MSFは小規模な診療所の再建に取り組んでおり、年末までには医療活動を開始する予定である。また、マココのラグーン(潟湖)にも、週2回の診察日が予定される小規模な水上医療施設を建設中である。

巨大都市で医療を提供するという挑戦

スラム地区マココにあるアイエトロ・ヘルスセンターの診察室の様子。
スラム地区マココにあるアイエトロ・ヘルスセンターの診察室
の様子。

アフリカの巨大都市の1つであるラゴスは、国内農村部からの出稼ぎ労働者、およびベナン、ガーナ、トーゴなど周辺諸国からの移民の流入によって、いまなお拡大を続けている。また、よりよい生活を求めて、長く危険な陸路の旅に出るヨーロッパへの出稼ぎ希望者にとっての出発地ともなっている。新たにやってきた人びとの大半が行き着くスラム地区では、貧困、人口過密、暴力、そして劣悪な健康状態が当たり前となっている。

ナイジェリアにおけるMSFの活動責任者、ブレット・デイヴィスは語る。
「ラゴスで私たちが直面している問題は、適切な保健インフラがなく、政府の目も届かない農村部で想定されるものと同じです。すなわち、マラリア、呼吸器感染、下痢、栄養失調、心的外傷を併発しており、予防ワクチンの接種率は低く、産前ケアのサービスはなく、安全で衛生的な分娩施設もありません。MSFの課題は、ラゴスのような大都市に存在するこうしたニーズに応えることです」

MSFのような医療・人道援助団体にとって、ラゴスという巨大な都市におけるプログラムは大いなる挑戦である。デイヴィスはさらに語る。
「私たちの医療施設に診療を受けにくる人びとの数は驚異的です。そもそも毎日約2000人がラゴス市にやってくるのです。人口過密な地域で人びとのニーズに応えるのは途方もない挑戦ですが、本当に援助を必要とする人を助けられるチャンスでもあるのです」


ラゴスで活動するMSFの大半はナイジェリア人の医療スタッフであり、外国人派遣スタッフ8人の援助を受けている。MSFは今後2年間、国内にある保健省の医療施設を支援する予定である。

育ての母フローラと姪のキャロラインの事例

フローラは、兄の娘キャロラインが誕生してわずか1日でその世話を引き受けた。キャロラインを生む際、異常分娩で母親は命を落とし、また、生まれてきた彼女自身も健康状態が良好ではなかった。生後3ヵ月で体重は3.5kgに満たず、ミルクを飲むのが困難だった。家族はキャロラインを連れて伝統的治療師を渡り歩き、絶望に打ちひしがれて隣国ベナンへと向かい、彼女を救ってくれる人を探し求めた。だが、うまくいかなかった。

アイエトロ・ヘルスセンターが開所してすぐ、フローラは栄養失調のキャロラインを連れて行き診療を受けさせると、すべてが変わった。フローラはこう語る。「あの子は栄養治療乳を与えられ、すぐに回復していきました」。10日間入院したあと、キャロラインは現地の小児病院での長期栄養治療プログラムに1ヵ月間受け入れられた。小児病院を退院してからも、フローラは毎週アイエトロ・ヘルスセンターにキャロラインを連れて行き、体重測定と健康診断を受けている。現在、彼女は生後6ヵ月である。体つきは細いが、丈夫で生き生きとしており、フローラのひざの上に座ってずっと笑顔を見せている。フローラは語る。「だれもこの子を助けられないと思っていましたが、MSFが助けてくれました」。

関連情報