TPP:ジェネリック薬を狙い撃ち?知財権の議論に懸念

2012年04月05日掲載

環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の知的財産権を巡る議論について、国境なき医師団(MSF)は、途上国の患者の命をつなぐ安価なジェネリック薬(後発医薬品)の供給・流通が妨げられる可能性が強いことを懸念している。交渉の鍵を握るアメリカが要求しているとみられる項目を整理し、その問題点を指摘する。

続きを読む


1.TPPとは?

環太平洋パートナーシップの略称で、「例外なしの関税撤廃」と「ルールや仕組みの統一」についての協定を結ぶことを目的としている。貿易、投資、企業の海外進出などが行いやすくなるとされる一方、参加国は各国内のルールの変更を迫られることになる。アメリカなど9ヵ国が交渉を始めており、日本は交渉参加を検討している段階だ。

2.注目ポイントは「知的財産権」

TPP協議の対象となっている項目は、関税、金融、通信、公共事業、医療などさまざまだ。知的財産もその1つで、医薬品の特許権などが含まれる。世界貿易機関(WTO)で決められた保護規定があるが、アメリカはそれをさらに強化しようと考えているようだ。

国境なき医師団(MSF)は、この流れに強い懸念を抱いている。医薬品特許の保護規定の強化は、患者の方々から命をつなぐ薬を奪うことにつながるからだ。なぜそういう事態が起きると予想されるのか。次の項目でまとめた。

3.アメリカの主張/MSFの懸念

TPP交渉は非公開のため、各国の要望を直接知ることはできない。しかし、アメリカのNGO「ナレッジ・エコロジー・インターナショナル(KEI)」が入手して2011年2月に公開したアメリカ政府の内部文書で、アメリカの考え方が浮かび上がってきた。

A.既存薬の形を変えただけでも特許
WTOの「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」では、特許の対象となる「新薬」について加盟国が国内事情に配慮して国内法に反映できることになっている。
アメリカはこれに対し、各国の決定権を制限する新ルールを導入しようとしている。その1つが「エバーグリーニング」の手法を用いた医薬品への特許だ。
エバーグリーニングとは、既存薬の形や使い方を変えた医薬品を、効果がアップしていなくても"新薬"として特許申請する手法。既存薬の権利独占が狙いだ。
TPPでこのルールが認められると、ジェネリック薬(後発医薬品)が市場に参入するまでに長い年月がかかるようになる。その結果、MSFの活動地を含む多くの途上国で、患者の命をつなぐ安価な医薬品が手に入りにくくなってしまう。
インドでは、エバーグリーニングを認めなかった政府を製薬会社が訴えるという問題まで起きている。
B.特許付与について事前の異議申し立てを制限
TRIPS協定では、WTO加盟国や第3者(製薬会社や患者団体など)による特許への異議申し立てが認められている。これは不当な特許付与を阻止するために必要な手段だ。
HIV/エイズ治療に使う抗レトロウイルス薬(ARV)として普及しているネビラピンがその一例だ。インドでシロップ状のものが新薬として特許申請されたが、複数の民間団体が異議を申し立てた。これを受けてインド特許庁は2008年6月に特許申請を却下している。その結果、NVPの価格はここ数年で劇的に低下した。
一方、アメリカは特許付与前の異議申し立てを認めない姿勢だ。また、手続きを煩雑化して費用を上げ、申し立てを抑え込もうとしている。
C.知的財産権の保有者を厚遇
TRIPS協定では、取り締まりの対象となる不正商標商品(模倣品)や著作権侵害物品(海賊版)は、商業目的で故意に商標を侵害して作った製品を指すと厳密に定義されている。
一方、アメリカは「混同される恐れがある」というあいまいな基準を用いることを要求している。これは模倣・偽造・粗製品の製造といった犯罪行為の取り締まりと、パッケージが似ているかどうかなどの商標権を巡る議論とを取り違えている。
さらに「輸出元と輸入元の両国で合法と判断される製品でも、輸送中の経由国の引き止め命令には従わなければならない」というルールも要求している。適用されると、ジェネリック薬が輸送中に不当に差し押さえられる可能性が高まる。
知的財産権の侵害があった場合の損害評価について、「希望小売価格または権利者が提案する合法的な価格評価」を基準にすることを義務化しようとしている。つまり、中立の機関による客観的な評価ではなく、権利者を優遇する評価基準を求めている。
これらを総合すると、あいまいな基準でジェネリック薬の流通を阻害し、製造元に莫大な損害賠償を請求できることになる。
D.独占権で臨床データを囲い込み
ジェネリック薬の製造には、医薬品の安全性と効果に関する臨床試験データが欠かせない。販売の認可を申請する際に、既存薬と同質であることを証明するためだ。
臨床データの独占権が認められた場合、既存薬の特許が切れていてもジェネリック薬を製造できない。独占期間の満了を待つか、臨床試験を再現するかの選択を迫られる。
しかし、臨床試験の再現は現実的ではない。すでにわかっていることを改めて証明するために、莫大なコストをかけ、動物実験を行い、患者に負担をかけなければならないからだ。
アメリカ国内法では、特定の製品に対し5年の独占期間が認められている。一方、米国研究製薬工業協会(PhRMA)は最長12年を要求している。米議会からは異論も出ており、データ独占権に関するアメリカの対応は明らかになっていない。
E.その他
特許期間を巡る議論にも注意が必要だ。TRIPS協定では20年間までとなっているが、これを延長しようという動きが出ている。
また、薬事所管局に特許に関する判定機能を持たせる「特許リンケージ」というルールも議論されている。医薬品の安全性や効果をチェックするための薬事所管局が、特許侵害について審査し、侵害の恐れがあると判断した場合は医薬申請を却下できるようにするというものだ。これらはジェネリック薬の排除を目的とした攻撃的な議論である。

4.提言

アメリカは、患者の命をつなぐ医薬品を奪うこうした要求を撤回すべきだ。
TPP交渉の透明性を確保し、一般社会の監視のもとで進めるべきだ。
TRIPS協定などこれまでの成果を尊重し、調和するルール作りを目指すべきだ。

5.参考資料

『環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が薬の流通を脅かす』(和文、324KB)PDFファイルが開きます

関連情報