海外派遣スタッフの声

パレスチナ紛争の被害者に心のケア: 河野暁子

ポジション
臨床心理士
派遣国
パレスチナ自治区
活動地域
ナブルス
派遣期間
2006年9月~2007年4月

なぜMSFの海外派遣に参加したのですか?

学生の頃から外国に行くことが好きでした。アジアやアフリカを旅する中で、現地で活動するNGOに関心を持ちましたが、日本での臨床心理の仕事にもやりがいを感じていました。そのため、日本での仕事を辞めてまで、海外でボランティアをするという決心にはなかなか至りませんでした。MSF の活動は、自分がそれまで関心を持っていた海外での活動に、「臨床心理士」として参加できると知り応募しました。また、MSFの中立性を重んじる立場にも賛同しました。

今までどのような仕事をしていたのですか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?

公立の相談室と学校で、臨床心理士として9年働いていました。職種や立場の異なる人たちと一緒に仕事をしてきたことは、派遣されてからも役に立ったと感じます。日本にいる間は、もちろん紛争の被害者と出会うことはなかったのですが、困っている人や心に傷を負った人たちの話に長年耳を傾けてきた経験は、紛争地域での心理療法の基盤になったと思います。また、カナダでの語学研修中に老人ホームでボランティアをしていました。これは英語で仕事をする練習になったと思います。カナダではホームステイをしていましたが、これも共同生活の練習になりました。

今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

パレスチナのプログラムは、紛争で心に傷を負った人びとに心理療法を提供するというものです。私は、家族や友人を拘束されたり殺されたりした人、家を壊された人、脅迫や拷問にあった人、暴力を目撃した人などさまざまな人たちと会ってきました。多くの人が不眠や悪夢に悩まされ、また極度の不安や苛立ち、あるいは無力感を抱えていました。MSFの心理療法士は彼らを家庭訪問したり、オフィスで会ったりしながら心理療法を行ないます。通訳と二人三脚の面接になります。患者の中で医療が行き届いていない方や福祉的支援が必要な方に対しては、チームで協議し、チーム内の医者やソーシャルワーカーと連携を図りました。

週末や休暇はどのように過ごしましたか?

週末は家にいることが多かったです。2日間の週末のうち、1日は仕事、残りは休息という感じでした。料理をしたりDVDを観たり、のんびりするよう心がけました。日本食やジブリ映画が好評でした。時々、ナブルス大学へバドミントンをやりに行ったり、近くの村へ出かけたりしました。また現地スタッフや友人の家へ招かれたりもしました。6週間に1回エルサレムで会議があるので、会議終了後はエルサレム観光やレストランでの食事などもしました。他のNGOとの交流が盛んでした。

派遣開始から3ヵ月後の休暇ではヨルダンへ行きました。現地での活動から頭を切り替えるようにと言われていましたが、なかなか難しかったです。パレスチナに近すぎたと思います。年末年始のホリディでは、チームメイトとイスラエル国内を旅行しました。久しぶりの買い物がとても楽しかったです。

現地での住居環境についておしえてください。

おそらくMSFの派遣の中では、最も快適な住環境なのではないでしょうか。2階建てビルの1階にオーナー家族がいて、2階をMSFが使い、屋上は共有していました。3人の外国人スタッフにはそれぞれ個室があり、それにバスルーム、大きなキッチン、さらに大きなリビングルーム、ゲストルームがありました。エルサレムやパリからゲストが来ることが多かったです。ガス、水道、電気は特に不自由は感じませんでした。もちろんかなり節約はしていましたが。冬は寒く、湯たんぽが必需品でした。治安の関係で窓ガラスにはテープが貼られており、屋上には大きくMSFの看板を出していました。

良かったこと・辛かったこと

良かったことは、人との出会いです。外国人スタッフ、現地スタッフ、パレスチナ人の友人たち、そして患者さんなど、たくさんの人たちと出会いました。特に苦楽を共にしたスタッフとは、とても強い絆を感じました。また、心理療法を提供することで、患者だった人たちが回復していく過程を見られたことも嬉しかったです。

辛かったことは、紛争に終わりがないという現実を目の当たりにしたことです。いくら心理療法を行なっても、患者を取り巻く環境は変わっていかないという点で無力感を感じました。それから、出会った人たちとの別れがとても辛かったです。

派遣期間を終えて帰国後は?

ゆっくり休養しながら次の派遣に備えます。派遣中の振り返りをしたり、ずっと読めないでいた本を読んだりしています。フランス語、スペイン語の勉強も始めました。派遣先ではフランス語やスペイン語が飛び交っていたので、少しでも分かるようになりたいです。

今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

MSFの心理の仕事は、かなりの専門性と語学力が求められていると思います。MSFはプロ集団ですので、「ボランティアをやりたい」という気持ちだけでは、現地で役に立つことはできないだろうと感じました。私はMSFに参加しようと決めてから2年後に派遣が叶いました。周囲の人たちへの理解を求め、退職の準備をし、退職後は語学の勉強で泣かされました。派遣先では苦しいことがたくさんありました。それでも後悔したことはありません。努力して乗り越えたもの、得たものは大きいです。

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