海外派遣スタッフの声

健康教育を通じて鉛中毒の予防と治療に取り組む:宮家 佐知子

ポジション
IEC(Information Education Communication)
派遣国
ナイジェリア
活動地域
2016年7月8日~2017年1月8日
派遣期間
ナイジャ州

国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

これまで2国間援助に関わり、2015年に学んだ公衆衛生の知識を生かして異なる組織形態での事業経験を積みたいと考え、MSFへの参加を考えるようになりました。初参加の南スーダンでの活動が充実していたので、さらにMSFでの経験を積みたいと考え今回の派遣に至りました。

派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?

前回の派遣から今回の出発までが1ヵ月だったので、南スーダンでの疲れをいやし、今回の派遣の準備をしている間に時間が過ぎてしまいました。

MSFはナイジェリア北部に位置するザンファラ州にて2010年から鉛中毒対策対応プロジェクトを実施しています。私が派遣されたプロジェクトは新規ですが、以前、同様のプロジェクトに同じポジションで派遣されていた園田亜矢さんから資料をいただいて勉強したり、インターネットで鉛中毒に関する情報を収集したりしていました。

過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか?どのような経験が役に立ちましたか?

政府開発援助事業での経験、そして南スーダンでの経験、そのすべてが生かせたと思います。

特に今回の業務では、鉛中毒患者とその介護者に対する治療サポートのための標準作業手順書の作成、鉛中毒患者の介護者を対象とした治療順守に関する意識調査、プロジェクトの健康教育活動の戦略文書の作成などが要求されたので、前職での経験が大きく役立ちました。

今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

服薬について母親に説明する健康教育担当スタッフ 服薬について母親に説明する健康教育担当スタッフ

ナイジャ州での鉛中毒対策プロジェクトは2015年9月から開始されました。対象地域はラフィ県シキーラ地区という推定人口1000人~1500人程度の小さな地域です。

シキーラ地区での鉛中毒の主な原因は、金の採掘・精製過程で発生する金鉱石に含まれる鉛の粉じんです。これを吸い込むことにより、鉛が体内に蓄積され、健康被害を引きおこします。特に5歳以下の子どもへの影響は非常に大きく、本プロジェクトでは私の活動期間中に対策が始まりました(2016年9月時点で218人)。

プロジェクトは3本の柱からなります。まず1つ目が、鉛が体内に入る仕組みや予防の知識を普及し、行動パターンを変えてもらうこと。2つ目が、家や農地といった生活環境に堆積した鉛を除去する作業です。

一軒ずつ鉛の濃度を測り、洗浄や汚染された土壌を除去します。非常に手間がかかる作業ですが、生活環境が汚染されたままでは治療の効果は望めません。そのため、治療プログラムを提供する前提条件としてクリーンな環境を作り上げる必要があります。

3つ目の柱が治療プログラムの提供です。まず、血液中の鉛濃度を測るために血液検査を行います。すぐに治療(鉛中毒の薬と栄養剤の服用)を開始する患者さんもいれば、数ヵ月の経過観察後に再検査を行う患者さんもいます。血中鉛濃度がMSFのガイドラインの規定値以下になるまで、定期的に服薬または血液検査が必要となります。

MSFが支援している診療所 MSFが支援している診療所

私が所属したチームの業務は、予防と治療の両方に関わります。ヘルス・プロモーターの役割は、鉛中毒予防のための啓発活動、治療を開始した患者さんとその介護者に対して正しい服薬の説明、患者さんの家を定期的に訪問して薬の服用や体調を確認、診療所への訪問日のお知らせなどを担当します。

コミュニティの人を集めてグループ・セッションを行うこともあれば、一軒一軒訪問して話をすることもあり、目的と状況に合わせて組み合わせていました。治療の対象は5歳以下の子どもですが、金の採掘に関わっているその家族や近隣住民に対しての啓発活動は非常に重要な活動の1つでした。

外国人派遣スタッフはプロジェクト責任者であるプロジェクトコーディネーター、医療活動の責任者であるメディカルチームリーダー、ロジスティシャン/アドミニストレーター兼任、健康教育担当の計4人でした。

医療チームに所属する現地スタッフはスーパーバイザーの役割を担う看護師(1人)、地域保健担当(3人)、臨床検査技師(1人)、医療データ管理(1人)、健康教育担当(2人)でした。その他の総務やロジスティック関連の業務を担う現地スタッフを加えると、合計25人ほどのプロジェクトでした。

私はプロジェクトで2代目の健康教育・チーム長でした。対象地域の各世帯の5歳以下の子どもに関する情報収集、予防・服薬に関する要点の作成、視覚教育教材の作成、介護者を対象とした治療順守に関する意識調査、治療サポートのための標準作業手順書や健康教育活動の方針を示す戦略文書の作成などを行いました。主要な病気の予防に関する視覚教育教材の作成や蚊帳の使用方法に関する理解調査も行いました。

また、マネジャーとして日々のフィールドでの業務を通じて担当者への指導だけでなく、知識と技術の向上に関するトレーニングも行いました。

派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

勤務時間は月曜日から金曜日の午前8時~午5時です。ヘルス・ポストでの診療時間は午前9時から午後3時ぐらいでした。ヘルス・ポストまでは車で20分ほどでした。健康教育チームも同行し、啓発活動、戸別訪問、地域集会などを行います。私のポジションは、対象とする共同体の社会的・文化的な側面を理解することが非常に重要です。そのため、基本的にはチームに毎日同行し、現状把握に多くの時間を割きました。平日はほとんどフィールドに出ているので、事務仕事は夕方や週末にすることが多かったです。

勤務外の時間は、運動をしたり、読書をしたり、音楽を聞いたり、週末は料理をしたりと自分に合ったリラックスの方法で、ストレスマネジメントをしていました。

現地での住居環境について教えてください。

私が赴任する2週間ほど前に事務所と宿舎を引っ越したそうで、赴任当初はまだ整備中でしたが、徐々に整っていきました。バケツシャワーから蛇口を回すと水が出るようになり、手洗いの洗濯から洗濯機が使えるようになるなど、生活環境が向上していきました。

外国人派遣スタッフはそれぞれに個室が与えられ、キッチン・バス・トイレは共同でした。平日はコックさんが3食作ってくれたのですが、週末は自分たちで作りました。限られた食材しか手に入りませんでしたが、料理が得意な人は料理を、苦手な人は後片付けを担当するなど、お互いにできることを協力していきました。

電話回線はほとんど使えませんでしたが、インターネットは衛星回線を経由して使用できたので、特に問題は感じませんでした。

治安対策上、移動制限は厳しく、活動の対象地域に行く以外は事務所と宿舎のある敷地内で過ごす日々でした。私は対象地域に出向くことで気分転換をすることができましたが、事務所での業務が大半のスタッフは、ストレスがたまることもあったようです。

ただ、これらのストレス軽減のため、6週間に1度、首都に行ってリフレッシュする機会も与えられているので、ストレスマネジメントには役立ったと思います。また、任期後半には、週3日のスポーツ・デイが導入され、みんなでバレーボールをし、ストレス発散と健康維持に努めました。

活動中、印象に残っていることを教えてください。

雨期の移動では悪路に足をとられることも 雨期の移動では悪路に足をとられることも

現地スタッフの能力強化に非常に力を入れていたという点です。公式・非公式に研修の機会を用意し、独立して業務をするような機会を提供していました。現地スタッフの自立性を促し、能力を強化していくというプロジェクトの方針をより強く感じました。

他方、医療サービスの提供スピードとサービスの質の確保について、考えさせられることもありました。新規プロジェクトのため、みんながガイドラインを読みながら手探りで進めている状況でした。

緊急対応を要する子どもがいなかったのは幸いですが、元気に見える子どもに薬を飲ませることや定期的な血液検査を受けさせることについて、介護者(主に母親)やその家族が必ずしも積極的だとは言えないケースも多々ありました。

服薬を途中でやめたり、検査日に来なかったりするケースが時間とともに増えていきました。健康教育担当や医療スタッフが戸別訪問して話をしたり、地域の有力者と協議したりと対策を練りましたが、まだまだ改善の余地はあったのではないかと感じています。

対象地域はいずれも悪路で、雨期には車両が泥にはまってしまうことがたびたびありました。

今後の展望は?

1月初旬に帰国し、疲れをいやした後、3月下旬から3回目の活動に参加しています。

今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

参加動機や目的は人それぞれ異なると思います。私自身の参加目的さえも回数を重ねていく過程で変わっていくように思います。同じポジションであっても、プロジェクトのデザインやチームメンバー、対象国及び地域の社会的・文化的状況など、1つとして同じものはありません。

こういった流動性の高い状況に身を置き、成果を出していくことは簡単ではないかもしれませんが、それ以上に常に学ぶことが多くあります。また、プロジェクトはチームで実施するものなので、個々の技量以上にチームワークを大切にすることが重要です。それぞれの役割を尊重し、バックグラウンドが異なるメンバーとの協働作業に興味がある方は、ぜひチャレンジしてみてください。

MSF派遣履歴

派遣期間
2016年1月~2016年6月
派遣国
南スーダン
活動地域
上ナイル州ワウ・シルク
ポジション
IEC

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