絶え間ない暴力に追い詰められる
コンゴ民主共和国東部の市民
2009年を通じて、コンゴ民主共和国(以下、「コンゴ」)東部の住民はさまざまな武装勢力から絶え間ない暴力を受け続けた。数百人が殺され、数千人の女性、子ども、そして時には男性も性暴力の被害にあい、数十万人が家を捨てて逃げた。北キブ州では様相が武力衝突からゲリラ戦へと変化し、戦闘員たちは、住民が異なる派閥を明らかに支援しているとわかると、その報復として略奪や家屋への放火によるテロ行為を展開した。
暴力と医療不足に耐えるソマリア国民
2009年も引き続き、ソマリア国民は無差別な暴力の犠牲となり、深刻な干ばつに苦しめられた地域もあった。数百万人が緊急医療を必要としているが、人びとのニーズと現地での人道援助対応には大きな隔たりがあり、その差は広がる一方である。現在も続く外国人援助スタッフとソマリア人スタッフを狙った拉致や殺害が、事態に対応しようとする人道援助団体の努力を阻んでおり、国内の公的医療制度はほぼ崩壊したままである。
医療が受けられない事態に直面する
スーダン南部とダルフール地方
2009年を通じて、スーダン各地では医療・人道援助上の緊急事態が続いた。
ダルフール地方で続く危機、南部の住民を襲う暴力の激化、病気の大流行、そして(今年3月にMSFを含めた13の人道援助団体がスーダン政府からダルフール地方からの撤退命令を受けたことから)一部地域では医療援助さえ受けられなくなる事態に直面した。
スリランカでは、数十年にわたる
内戦の最終局面で数千人が負傷
今年の初めにスリランカ北東部で政府軍と反政府勢力「タミル・イーラム解放のトラ」との戦闘が激化した際、数万人の市民は、ジャングルと砂浜だけの狭い戦闘地帯に、何の援助もなく、わずかな医療しか受けられない状態で、何ヵ月間も閉じ込められた。
数十年にわたる内戦が最終局面を迎えたその数ヵ月前、国境なき医師団(MSF)を含む人道援助団体はスリランカ政府の要請によって、紛争地帯から退去した。唯一、赤十字国際委員会(ICRC)だけが命をつなぐ医療援助の継続を認められ、負傷者の一部を保健省の運営する病院へと避難させていた。MSFの外科チームは、2009年2月以降、バブニヤ市に隣接するスリランカ保健省の運営する病院の一つで活動を行った。
パキスタンで暴力と無視に苦しむ一般市民
パキスタンは2009年を通して激しい暴力に揺さぶられ続けた。北西辺境州(NWFP)および連邦直轄部族地域(FATA)では、政府軍と反政府武装勢力との衝突によって200万人以上が避難し、また国内の主要都市への無数の爆撃で数百人が死亡、数千人が負傷した。バロチスタン州では、メディアの目の届かない場所で長年にわたって武力衝突が続いている。国内各地で人びとは医療不足に苦しみ、パキスタンは南アジア地域で乳幼児・妊産婦の死亡率が最も高い国の一つとなっている。
援助政策により、人道援助から隔絶されるアフガニスタン国民
2009年にアフガニスタン国内で戦闘が激化するにつれ、一般市民は国のいたるところで強まる暴力を耐え忍んだ。治安の悪化はすでに困難な状態にあった医療制度にダメージを与え、各州都には機能の不完全な病院と診療所がごくわずか残されているに過ぎない。今では、治療が必要な住民は、医療を求めて戦闘地域を何百キロも移動する危険を犯すか、一命にかかわる状態になるまで病状が悪化してから、サービスの質が著しく低下した医療施設に赴くかという決断不可能な選択をしなければならない。
イエメン北部の激しい戦争で身動きの取れない市民
イエメン北部サアダ州では、この5年間に5度の戦争が起きているが、そのいずれも決着はつかず、、2009年に、これまでで最も激しい6度目の戦争が勃発した。州内の支配地域から集められた反政府勢力に対して、イエメン陸軍は攻撃の手を強めており、人道面の影響はかつてないほど深刻である。軍事とは関係のない市民や病院なども標的となり、戦闘で甚大な被害を受けた。数十万人が避難し、人道援助は実質的に停止した。住む家を追われた子どもたちには、栄養失調の緊急事態が発生している。今回は隣国サウジアラビアが初めて紛争に巻き込まれ、市民の苦境をさらに複雑化している。
著しい資金不足が幼児期の栄養失調治療を阻害
毎年推定350万人から500万人、6秒に一人の子どもが栄養失調に関わる原因で命を落としている。しかし、幼児期の栄養失調は栄養価の高い食糧を適切に食べていれば予防が容易な病気であり、現在出回っている栄養治療食で治療が可能である。
近年、幼児期の栄養失調に関する研究は大きく進んでおり、5歳未満児の最も重度の栄養失調を治療するために、タンパク質、ビタミン、ミネラルの豊富なそのまま食べられる栄養治療食(RUF)を提供する手法についても国際的合意が生まれている。それでは、今なお5500万人もの子どもたちが、この悲惨な病気に苦しんでいるのは、いったいなぜだろうか。
数百万人がエイズ治療を必要とするも、資金援助が停滞
2005年に英国で開催されたG8サミットで、主要先進国の首脳がエイズ治療を2010年までにすべての人に行き渡らせるための支援を公約した。これに勇気づけられ、多くのアフリカ諸国政府は意欲的な治療プログラムを開始した。また、この公約のおかげで途上国の400万人を超える患者に治療が拡大された。しかし現在、首脳陣がいったん掲げた公約の履行を後退させたため、アフリカの政府と数百万人のHIV/エイズ患者は新たな難局に直面している。
研究開発と治療の停滞が患者を苦しめる、顧みられない病気
顧みられない熱帯病――カラアザール(内臓リーシュマニア症)、アフリカ睡眠病、シャーガス病、そしてブルーリ潰瘍によって、4億人を超える患者が危機に瀕している。最初の3つは顧みられない病気の中で致死率が最も高く、この4つはすべて世界保健機関(WHO)によって特に治療困難な病気と指定されている。その理由は、治療法と診断法が時代遅れで効果がないか、あるいは存在せず、また患者がほとんど医療を受けられない遠隔地や治安の不安定な地域で通院が難しい状態に置かれているためである。さらに、新薬と新たな診断法の研究開発のための資金援助は大幅に不足している。患者に積極的な診断と治療を推進する政府レベルでの疾病対策、予防法への投資、新薬専門の研究開発に適用できる大規模な資金増強がなければ、顧みられない病気の患者は今後も顧みられないままだろう。
