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報告書
価格引き下げの謎を解く 第10版
2007年7月発表(2007年9月修正)
国境なき医師団(MSF)が作成し、2007年7月に発表した報告書「価格引き下げの謎を解く」の要点は、以下のとおりである。本報告書は、HIV/エイズ治療に用いられるさまざまな抗レトロウイルス(ARV) 薬の製品情報や価格の変動を網羅し、世界各国で治療に取り組む医療従事者が、必要な薬を入手する際の手引きとして作成された資料の第10版である。
要点1 HIV/エイズの第二選択薬:価格が下がり始めているが、十分ではない

  • 治療プロトコルの標準化や価格競争の開始、そして特許障壁を打開するためにタイやブラジルなどの国々が発動した強制実施権によって薬の製造元が薬価の引き下げを行い、エイズの第二選択薬の価格が下がり始めている。
  • しかし、これは単なる出発点に過ぎない。今後ますます多くの人びとが第二選択薬を必要とするようになるため*、さらなる薬価の引き下げが求められている。数種類の第二選択薬は現在インドで特許を申請中であり、これらの薬についてはジェネリック版が普及しない恐れもある。
  • *国境なき医師団(MSF)がエイズ治療を実施している南アフリカのカエリチャでは、抗レトロウイルス(ARV)薬を用いた治療開始から5年が経過した患者の20%が、第二選択薬への切り替えを必要とした。

    要点2 第一選択薬:より効果の高い第一選択薬の価格は、薬が高価だった6年前の状況に逆戻りする

  • 現在、第一選択薬の価格は、最も低いもので患者1人あたり年間100ドル(約1万2千円)以下にまで下がったことは朗報である。ランバクシー社製造の多剤混合薬(スタブジン(d4T)/ネビラピン(NVP)/ラミブジン(3TC)」の価格は、患者1人あたり年間99ドル(約1万1千円)である。しかし、新たに改良されWHO(世界保健機関)が推奨している、フマル酸テノホビルジソプロキシル(TDF)を主成分とする第一選択薬の混合薬は、最も価格が低いものでも患者1人あたり年間426ドル(約5万1千円)の費用がかかる。これは、価格の上で6年以上前の状況に事実上逆戻りすることになる。

  • 今日最も一般的に用いられている第一選択薬による治療はd4Tによる副作用を伴うため、WHOは治療を行う医療従事者に対し、この新しい薬への切り替えを推奨している。開発途上国では、現在5百万人が緊急にARV治療の開始を待ち望んでおり、劇的な価格の上昇は治療を行うための財源に深刻な影響を与える恐れがある。

  • MSFは、レソトとモザンビークで新たな第一選択薬を用いた治療を開始する準備をしている。MSFが把握している限りでは、レソトは南アフリカ地方において自国の治療プロトコルに新たな第一選択薬を取り入れた最初の国である。ザンビアの保健省もプロトコルを変更し、他の国々もこれに続くことが期待される。
  • 要点3  小児用のHIV/エイズ治療薬:いくらかの進展はあるが、依然遅れている

  • ようやく小児用の多剤混合薬(FDC)が登場した。これにより、治療を行う医療従事者は大人用の錠剤を砕く手間がなくなり、冷蔵保存が必要なシロップ剤*や、調合に清浄水が必要な粉末剤を用いなくても済むようになった。これは朗報である。しかし、大人には標準的に用いられ、現在徐々に使われなくなりつつあるd4Tを含んだ第一選択薬は、大人への投与が開始されてから6年後の今になってようやく小児患者に投与されるようになった。大人向けに新たに改良された第一選択薬の主成分である「TDF」を、小児向けに用いるための研究はまだ終了していない。小児向けの薬の多くは、第二選択薬も含めてなおも不足し続けている。
    *シロップ剤は乳幼児用には今後も必要

  • しかし、WHOが薬の推奨投与量の指針を発表するまでに長い時間がかかったため、インドの3つの製薬会社がこれに先んじて、同じ種類のFDCを3種類の異なる用量で製造し始めたが、そのどれも専門家が推奨する好ましい用量(WHOが近く発表する小児投与量の表)とは一致しない。この状況は、各国で治療に携わる医療者が国レベルで処方を決定するのをさらに複雑にする。HIV/エイズ専門家は、推奨投与量においては合意したが、製造業者に向けた指針がWHOから発表される予定はまだない。

  • MSFは、ケニアで行うエイズ治療プログラムでFDCの使用を開始し、近いうちにARV治療を行う全てのプログラムでFDCを用いる予定である。
  • 第二選択薬のジェネリック薬が元の医薬品よりも価格が高い*のは何故か:
    (*必ずしも全てに当てはまるわけではない。- 下表参照)

    新薬のジェネリック版の価格は、そもそも価格競争が十分に、あるいは全く行われていないため依然として高いままである。価格競争なしでは、新薬の価格は第一選択薬と同様にまで引き下がることはない。新薬のジェネリック医薬品競争が不十分な原因には、数多くの要因が存在する:

  • これらの医薬品の市場規模が依然として比較的小さい。
  • 第二選択薬を用いた治療法がこれまで標準化されていなかったため、市場が分散しており、製薬会社にとってはどの製品のジェネリック薬を優先的に製造するかについての判断が難しかった。

  • 現在インドで申請中の特許の多くは、ブラジル、タイ、中国などの製造能力の高い新興国ですでに認可されている。たとえインドで特許権が認められなかったとしても、ジェネリック医薬品を製造する製薬会社は、これらの新製品のいくつかを開発するための投資を躊躇している。

  • たとえこれらの製品に対しインドでは特許が認められず、そのうち特定の製品がWHOに推奨されたとしても、これまでの経験から、そのジェネリック版が製品化されるまでには最低2~3年、価格が下がるまでにはさらに数年を要する。
  • プロテアーゼ阻害剤 低所得国 中所得国
    アタザナビル ジェネリック薬は入手不可 ジェネリック薬は入手不可
    ホスアンプレナビル ジェネリック薬は入手不可。
    製造元の製薬会社による価格提示なし
    ジェネリック薬は入手不可。
    製造元の製薬会社による価格提示なし
    インジナビル ジェネリック薬の方が安い ジェネリック薬の方が安い
    ネルフィナビル** ジェネリック薬の方が安い ジェネリック薬の方が安い
    耐熱性のロピナビル/ リトナビル配合剤 製造元の製薬会社が提示する価格がより安価 ジェネリック薬の方が安い
    (クリントン財団による提供)
    リトナビル 製造元の製薬会社が提示する価格がより安価 ジェネリック薬の方が安い
    耐熱性のリトナビル ロピナビル配合のFDC以外は入手不可 ジェネリック薬は入手不可
    サキナビル ジェネリック薬の方がより安価 ジェネリック薬の方が安い

    参照資料: 「価格引き下げの謎を解く」第10版、国境なき医師団(MSF) 2007年
    "Antiretroviral therapy for HIV infection in adults and adolescents: Recommendations for a public health approach” WHO, 2006年改訂版

    *クリントン財団が提示する同製品の価格は患者1人あたり年間$339 ドル(約4万円)
    ** ロッシュ社が製造するネルフィナビルの製造は異物混入により中止され、同製品はすべてリコールされている。

    過去1年間のロピナビル/ リトナビル配合剤の提示価格の下降推移:

    (資料提供: Ford, et al. Sustaining access to antiretroviral therapy in the less-developed world: lessons from Brazil and Thailand. AIDS 2007, Vol 21)

    表1 タイを含む中所得国におけるロピナビル/ リトナビル配合剤の価格

    グラフ

    注:タイ保健省は2007年5月の段階でも、ロピナビル/リトナビル配合剤をアボット社が2006年8月に提示した価格で購入していた。その後のアボット社の販売条件はタイ保健省にとって、受け入れ難いものであった。
    (さらなる価格引き下げはなく、タイ政府が発動した強制実施権の取り下げを条件とするもの)

    *報告書「価格引き下げの謎を解く」発表時のプレスリリースはこちら
    *報告書「価格引き下げの謎を解く」本文はこちら
    ("Untangling the Web of Price Reductions, 10th edition2007年9月修正版"、PDF形式、英文60ページ)