
イラク:患者たちの証言「今起こっている事態を世界に知らせてください」
2007年10月10日掲載
イラクの多くの地域では治安が非常に悪化しているため、紛争や暴力の被害者の元まで赴く手段は限られている。しかし国境なき医師団(MSF)は、イラク国民に医療援助を提供する新たな方法を確立しつつある。イラク各地の病院に対する医薬品や医療物資の提供にくわえて、MSFのチームは今年、比較的安全なイラク北部の州にある病院での活動を開始した。これらの病院では紛争地域から移送された数多くの患者の治療を行っている。以下はこのような患者3人の証言である。
カマルは22才の青年である。左脚の手術を受けた後で、集中治療室のベッドに寝ていた。両腕と顔に重度のやけどを負い、傷跡をタオルで覆いながら次のように語った。
「バグダッド出身です。警備会社で警備員として働いていました。2週間ほど前、物資を運ぶ車列を護衛するため、車両で北部からバグダッドに向かっていました。私は先頭を走っていたトラックに乗っていました。その時突然爆発が起こり、私は意識を失いました。数秒間意識を取り戻して隣を見ると、乗っていた車の運転手が横たわっていました。運転手は亡くなっていたのです。同乗していたほかの男性2人も負傷し、皆この病院に運ばれました。私の左脚は多発骨折していて、顔、両腕、横腹にはやけどを負いました。体全体の皮膚の22%が焼けてしまいました。そして脚の手術を受けました。でもすべて考え合わせると、まだ生きているのでありがたいと思います。退院したら、また警備員として働くつもりです。何があっても生き続けなければなりません。」
同じ病棟では、ある少年のベッドの脇に初老の男性が腰掛けていた。
「ユーシフは私の姪の息子で12才です。2週間前にバグダッドにある家で身内が集まっているときに、テロリストたちがその家を襲撃したのです。ユーシフの父親と8才の弟は殺され、妊娠中だったこの子の叔父の妻と別の叔父も亡くなりました。家は完全に破壊され、持ち物はすべて無くなりました。ユーシフは脚を撃たれ、複雑骨折していました。初めにバグダッドにある病院に連れて行きましたが、そこも安全には思えませんでした。それで自家用車でこの病院まで来たのです。ユーシフは手術を受けなければなりませんでした。これからだんだんと回復して、元の生活や勉強に戻ることができるでしょう。でも私たちはバグダッドには決して戻りません。ユーシフの父親は優秀な男性でエンジニアでした。この子に父親はまだ生きていると言っても、彼の答えはこうでした。『僕に嘘をつかないで、おじさん。お父さんが横たわっていたのを見たんだ。死んだのは知っているよ。』ユーシフは目の前で起きたことを全部見ていました。弟の遺体にはたくさんの銃弾が撃ち込まれていました。テロリストは機関銃で彼を撃ったのです。ユーシフの母親は今キルクークにいます。襲撃以来、精神的な問題を抱えています。母親は長い間リウマチを患っており、今は全く動くことができません。今のところ、医療ケアもカウンセリングも受けていません。来週には母親もここに連れて来ることができると思います。この病院と、われわれを助けてくれる医師たちに本当に感謝しています。ここでは申し分のない治療を受けています。どうか、ここで今生じている事態を世界に知らせてください!」
30才のサイードも同じ病棟の患者である。
「モスル近郊の小さな町の出身です。5日前にいとこと通りを歩いていました。突然私の方に向かって機関銃が激しく火を吹いたのです。右半身に銃弾がいくつも当たり、激痛が襲いました。いとこは銃弾を逃れたのでこの病院に私を運び込んでくれ、ここで手術を受けました。医師たちは数日経てば家に帰れると約束してくれました。故郷の町ではガソリンスタンドを経営していますが、今は町に戻って仕事を続けたいとは思いません。通りを歩いていると、自分のそばでいつ爆弾や自動車が爆発するか分からないのです。今回のような事態がいつかは身に降りかかる可能性があるといつも思っていました。常にこのような事態を覚悟してきたのです。私には妻と8人の子どもがいますが、家にとどまりここに見舞いに来ないよう伝えています。通りを歩くのはあまりにも危険だからです。家族のことがいつも心配です。でもわれわれに何ができるでしょう、これが私たちの人生なのです。」
※患者の名前はすべて仮名です。
MSFはイラク国民に医療ケアを提供するために全力を尽くすことを決意し、2006年以降さまざまなプログラムを実施してきた。イラク中部と北部にある12の病院に向けて、医薬品と医療器具などの物資を提供している。また中部と北部の8つの病院では、医療スタッフと心理カウンセラーのための研修を実施している。さらに北部の3つの病院では外科チームを結成し、直接手術を行うプログラムを開始している。一方ヨルダンでは、紛争で負傷したイラク人に顎顔面の手術と再建外科手術を実施する外科プログラムを展開している。またヨルダンを拠点に、イラク国内の複数の病院に医薬品と医療物資を提供し、イラク人医療スタッフに指導を行うプログラムも立ち上げた。
