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MSFと顧みられない病気
医学から顧みられない病気

顧みられない病気にかかるのは、主に開発途上国の人びとである。これらの病気は、患者に治療薬の購買力がないため、製薬会社にとって採算の合う市場とはならない。したがって製薬会社は、リスクが高く高額な費用がかかるこれらの病気の治療薬の研究開発に投資することに消極的である。 最も顧みられない病気は、多くの人びとがほとんど耳にしたこともない、分かりにくい疾患である。アフリカトリパノソーマ症(アフリカ睡眠病)、南アメリカトリパノソーマ症(シャーガス病)、ブルーリ潰瘍、デング熱、リーシュマニア症、住血吸虫症、リンパ系フィラリア症などがそれである。これらの病気は、製薬業界の研究開発の対象となっていない。
他の病気の中には、富裕国の人びとも感染するため比較的良く耳にするものもあるが、そうした病気であっても、世界中の圧倒的多数の患者が安全で安価な診断や薬、ワクチンを入手できないという点においては、依然として顧みられない状態が続いている。この状況は、「3大疾病」といわれるHIV/エイズ、結核、マラリアについても当てはまる。3大疾病については、例えば、マラリアは旅行者の健康を脅威にさらす恐れがあるため、採算の取れる一定規模の市場は確かに存在する。しかし、何より重要なことは、患者の大半が暮らす遠隔地や貧困地域の環境に合った治療薬については、採算の取れる市場が存在しないということである。
これらの顧みられない病気の治療薬のいくつかは、1990年代後半、その製造が完全に停止されたり危ぶまれたりする事態に陥った。世論と政治的圧力の結果、アフリカ睡眠病の治療薬エフロルニチン、シャーガス病の治療薬ベンズニダゾールとニフルチモックスなど、いくつか重要な薬の製造は何とか継続させることができた。
しかし、こうした取り組みの成功によっても、治療面での改善は限定されたものであった。例えば、アフリカ睡眠病の治療に用いられるエフロルニチンは、最も一般的に使われているメラルソプロールより毒性は低いが、1日に複数回の注射をする必要がある。また、シャーガス病の治療薬であるベンズニダゾールとニフルチモックスは、病気の初期段階にしか効果がない。より優れた医薬品が、さらに改良された診断ツールとともに、緊急に必要とされている。
これらの病気が依然として顧みられないのは、健康上のニーズよりも市場での利益を優先する医薬品の研究開発システムの必然的な結果である。
DNDi:開発途上世界の病気を対象とした医療ツールの開発に打ち込む
2003年、MSFは「顧みられない病気のためのイニシアティブ(DNDi : Drugs for Neglected Diseases initiative)」を他機関と共同で設立した。DNDiの使命は、最も顧みられない病気に苦しむ患者のために新薬を開発することである。DNDiは国際的な研究団体、公的セクター、製薬業界や他の関連する提携団体と協力して、医薬品の研究開発プロジェクトの立ち上げや調整を行っている。
2007年3月、DNDiはその最初の製品として、マラリア治療の混合薬「ASAQ」を発売した。
医学から取り残された病気
- アフリカ睡眠病(アフリカトリパノソーマ症)
- 6千万人がこの病気に感染する危険にさらされている。この致命的な病気の診断には脳脊髄液を採取して検査する必要があるが、この病気が見られる国々の通常の医療施設では実施することはできない。また治療には、非常に毒性の高いヒ素派生物を含有した医薬品が用いられる。
- 内臓リーシュマニア症
- インドではカラアザールと呼ばれるこの病気は、毎年6万人の命を奪っている。1930年代に開発されたアンチモン製剤による治療は、毒性が非常に強く、4週間の治療期間中に複数回の注射をする必要があるにもかかわらず、依然として一般的な治療として用いられている。
- シャーガス病
- アメリカ大陸で見られ、年間で最大5万人がこの病気で命を落としている。この慢性疾患には適切な検査方法がないため、診断が確認できた時には既に薬が効かずに手遅れとなる場合が多い。現在入手可能な治療薬は、ニフルチモックスとベンズニダゾールの2種類のみで、1960~70年代に開発されたものである。
- マラリア
- アフリカでは、30秒に1人の子どもがマラリアで死亡している。薬剤耐性により従来の治療薬は効き目がなくなっているが、新薬開発に向けての動きは許容しがたいほど遅く、さらに多くの不必要な死を招いている。
MSFの活動
MSFは、貧困国の人びとを襲う病気のほとんどに対する治療薬が存在しないという、この悲惨な状況に対する認識を高める啓発活動を続けている。治療や診断の方法が存在する場合は、それを安価で入手可能にできるよう製薬会社と交渉を行っている。また、治療手段が不足している病気については、その不足を補うための医薬品開発の代替モデルの積極的な調査と支援を行っている。
長期的には、MSFは世界保健機関(WHO)が後援する「公衆衛生・イノベーション・知的財産権に関する政府間作業グループ(IGWG)」を支援し、現在、市場主導型で進められている研究開発の枠組みを、開発途上国の数百万の人びとの医療ニーズにより適切に対応できるものへと転換することを目指している。














