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必須医薬品キャンペーンとは
必須医薬品キャンペーンを開始した理由

国境なき医師団(MSF)の医師たちは常に、患者に質の高い治療を行うための適切な医療ツールの不足に頭を悩ませている。「必須医薬品キャンペーン」は、この状況を変革するために1999年に立ち上げられた。MSFが活動しているさまざまな国でも医薬品、検査手法、ワクチンなど既存の医療ツールを利用できるようにし、また、人びとが緊急に必要としているより優れたツールの開発促進をその目的としている。
キャンペーンの開始直後から、MSFは2つの大きな課題に直面した。既存の医薬品が高価であること、そしてMSFが援助している患者を苦しめている病気の多くには治療法が存在しないことである。このためMSFは、既存薬の価格低下や時代遅れな治療方針の変更に取り組む一方、結核、アフリカ睡眠病、マラリアなどの顧みられない病気に対する新しい医薬品の開発研究を促進するための取り組みを進めている。
貧しい国において医療ツールの入手を困難にしている主な障壁
- 高価な既存薬
- 多くの医薬品、特にHIV治療薬などの比較的新しい医薬品は、貧しい国で利用するには高価すぎる。特許権を保護する動きが途上国で高まっていることが、薬価を引き上げる要因となっている。特許権により、薬を開発した企業には20年間の専売権が与えられ、価格競争が妨げられるためである。
- 新しい治療法の普及の遅れ
- 改良された治療法が新たに開発されても、薬事登録と治療方針の変更を経て、患者が実際に利用できるまでには長い時間がかかる。例えばマラリアに対する、古く効果のない薬に代わるより効果的な治療法、アルテシミニン誘導体と他の抗マラリア薬の併用療法(ACT)がその一例として挙げられる。
- すすまない研究開発
- 貧しい国の人びとのニーズに応えるための研究開発が進められていない。医薬品や診断ツールの開発は、今存在している患者のニーズではなく、将来の市場の可能性に基づいて行われている。過去30年の間に発売された医薬品の中で、熱帯病や結核を対象に開発されたものはわずか1%に過ぎない。一方で、これらの病気の既存薬はしばしば有毒で、あるいは耐性が生じているためにその効果が徐々に薄れつつある。
- 医療従事者の不足
- 医療ツールの不足が解消されたとしても、患者が治療を受ける上でさらなる障害が存在することもある。HIV治療のさらなる展開を妨げている主な問題は、医療スタッフの慢性的な不足である。これは特にアフリカ南部で顕著で、主に不十分な給料や劣悪な労働環境が原因となっている。
過去10年の医薬品の入手をめぐる状況の主な改善点と変化
依然として重要な課題が残っているとはいえ、MSFによる必須医薬品キャンペーンとその他多くの関係者の努力により、過去数年間で大きな進歩がもたらされた。
- 抗レトロウイルス(ARV)薬を用いた大規模なHIV治療が現実のものとなり、国際的な優先事項となった。ジェネリック競争により大幅に薬価が引き下げられ、ARVの第一選択薬の患者1人あたりの年間治療費用が1万米ドル(約108万円)から100米ドル(約1万800円)にまで下がり、貧しい国でも実際に治療が可能であることが明らかになったことで、これが実現した。しかし、緊急に必要とされるさらに新しいHIV治療薬は今でもはるかに高価なままである。
- アフリカのほとんどの国が、有効なマラリア治療法であるACTを導入した。が、より広範に利用できるようにするにはまだ遅れが見られる。この治療法は、MSFが行った多くの耐性研究と「Act Now」キャンペーンを受けて、2001年に世界保健機関(WHO)が新たな勧告を出した後に各国で採用された。
- アフリカ睡眠病、リーシュマニア症、シャーガス病などの最も顧みられない病気のための新たな医療ツールが早急に必要であることへの意識が高まり、その開発が盛んになってきている。アフリカ睡眠病に対するエフロルニチンなど、収益性の低さから生産が中止されていた古い医薬品の中には、国際的なメディアの関心の高まりを受けて生産が再開されたものもある。
- 国際的な関心の高まりを受けて、顧みられない病気に対する研究開発が再開された。非営利の医薬品開発パートナーシップが複数設立され、MSFも「顧みられない病気のためのイニシアティブ(Drugs for Neglected Diseases initiative, DNDi)」の共同設立者となった。しかし、これらのパートナーシップによる研究開発の範囲、そして顧みられない病気のために利用できる資金は、依然として不十分なままである。
- 知的所有権の保護の高まりが途上国の公衆衛生に与える悪影響は、今日、広く認識されるようになった。TRIPS協定*と公衆衛生に関する2001年のドーハ宣言、およびインド、タイ、ブラジルなどの国による貿易協定の柔軟な利用により、いくつかの医薬品は入手しやすくなった。しかし、貧しい国では今後新しい医薬品のほとんどに特許が与えられること、だが特許はこれまで、主に貧しい国の人びとを襲う病気に対応するための新薬開発を促進してこなかったという事実は変わらない。その理由はただ、このような貧しい国の患者たちは、製薬会社の目には十分に魅力的な市場と映らないためである。
*知的所有権の貿易関連の側面に関する協定
- 今日の医療ツール研究開発システムには大きな不備があり、医療上の革新を最も必要としている貧しい国の人びとの期待を裏切っているという認識が、国際的に高まっている。各国政府は、WHOの政府間作業部会を通じて、研究開発の優先順位付けと支援の方法の変更について協議を始めている。
必須医薬品キャンペーンの今日の優先課題
必須医薬品キャンペーンは、既存の治療法をより利用しやすくすること、そして貧しい国の人びとのニーズを考慮した、より新しく改良された医療ツールの開発の促進に、継続して取り組む。MSFは自らの医療行為を継続的に進歩させようと努めている。また、現状のように市場重視ではなく、医療技術の革新がそれを最も必要としている人びとに役立つ状況を作り出すために、医学上の研究開発への出資方法を見直す試みについても支援を続ける。
主な重点分野
- 栄養失調
栄養失調が原因で命を落とす子どもの数を減らすために、そのまま食べられる栄養治療食(RUF)の生産と利用を早急に拡大する必要がある。 - 結核
改良された検査と治療薬の開発促進と利用拡大が至急の課題となっている。そのためには、薬剤耐性結核患者向けの臨床試験の促進や、これらの患者のために未承認の新薬の例外的な使用が認められるようにする必要がある。 - 主に貧しい国の人びとが必要とする医療ツールの研究開発に優先順位を付け、支援するために、各国政府が健康に関する本質的な研究開発の枠組みを作る必要がある。
- HIV治療の選択肢を拡大し、患者の手に届くものにすること。新薬は競争がないために非常に高価であり、また最も必要とする人びとが利用する目的では十分に研究されていない。
- マラリア向けのACTの普及を拡大すること。














