シリア: 内戦下の出産、MSF提供の援助とは?

2013年09月27日掲載

シリア北部の国境なき医師団(MSF)病院で、マージー助産師は7週間活動した。紛争被害者や広範囲熱傷の治療にあたる手術室や救急部門があり、マージー助産師の持ち場である産科部門も備えている。内戦で保健医療施設が破壊され、女性が十分な医療を受けられる場がなくなっているためだ。病院の存在は口コミで広まり、週平均12人の新生児を取り上げている。マージー助産師に活動の様子と印象に残ったできごとを聞いた。

MSFは現在、シリア北部で6病院を運営。2012年6月~2013年8月までに行った診療は6万6900件、手術は3400件、分娩介助は1420件を超える。また、周辺国のシリア人難民を対象に合計20万240件以上の診療を提供している。このほか医療センター4ヵ所も運営している。

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Q. MSFが産科部門を設置した理由は?

マージー助産師 マージー助産師

女性が十分な医療を受けられる場がなかったためです。妊娠合併症の女性も、事実上、産科救急医療の受診ができません。正常分娩の介助であれば、対応可能な助産師が地元にもいるのですが、合併症が起きると搬送先を見つけるのが大変です。

保健医療施設は一部が紛争で破壊され、残った施設も十分に機能していません。私立病院もあるものの、その医療費を払える人はわずかです。以前は産前ケアを行う助産師のネットワークがありましたが、現在はそうしたケアをまったく受けていない妊婦が多いようです。

紛争で、滋養のある食べ物も手に入れにくくなり、住まいを追われた人もたくさんいます。そういったことのすべてが、妊娠に影響を及ぼす恐れのあるストレスを生むのです。

Q. 産科部門が提供している援助とは?

MSF病院で新生児の体重を量るMSFスタッフ MSF病院で新生児の体重を量るMSFスタッフ

産科救急医療などの安全に分娩を行うための援助を提供し、帝王切開の必要な患者については外科チームに引き継いでいます。子だくさんの女性が多い一方、帝王切開での出産経験者も多いことから、内戦以前に行われていた保健医療の水準の高さが想像できます。

産科部門では、妊娠貧血の予防的治療といった産前ケア、分娩直後から一定期間の経過観察を行う産後ケアも提供しています。さらに、MSFの活動は産科医療だけにとどまりません。シリアの女性がなかなか受診できない医療分野である婦人科医療も提供しているのです。受診可能な医療分野が内戦で減少してしまった上、イスラム教的背景から、女性は同性の医療スタッフがいなければ、受診すること自体を諦めてしまうこともあります。

MSFの患者の約半数が近隣の住民だと思います。女性たちは、MSFの産科部門を訪れたことがある人の案内で来院する傾向がありました。口コミでMSFのことを知ったのでしょう。

Q. シリア人のスタッフもいましたか?

はい。シリア人の助産師4人の優秀なチームとともに活動しました。分娩介助をした新生児は週平均12人、診療は約50~60件に及びます。

シリア人の助産師たちは、正常分娩であれば対処できます。ただ、合併症が起きた際は、私が補佐し、協力して必要な医学的処置を行いました。それぞれの訓練・実務経験はまちまちだったので、介助技能の向上を図っています。私も指導にあたりました。

皆、新しい技能を学ぶ機会を得られて、とても喜んでいました。内戦の影響で、研修が中断されてしまったスタッフもいたからです。有資格人材が少ないため、MSFが採用した助産師の中には看護研修は終了しているものの、産科研修は未修了というスタッフもいました。

ただ、そのスタッフはスポンジのように知識を吸収する女性で、私の教えたことを漏らさず実践していました。感銘を受けるほどのひたむきさでした。

Q. 特に大変だったことはありますか?

何件もの正常分娩を介助しましたが、難産もありました。4人の子どもを持つ女性の例をお話しましょう。内戦で自宅を離れ、家族とともに学校の一室に滞在していました。彼女は来院時点で5人目を

妊娠していました。血圧が非常に高く、深刻な子癇前症を起こしていました。胎児の発育不全から、一定期間、症状が続いていたことは明らかでした。

結局、私たちが母体の命を救おうとしている間に、胎児は亡くなってしまいました。妊娠中に必要なケアを受けられず、悲しい結果になってしまった事例の1つです。彼女自身の命が危ぶまれたため、胎児の命に優先させたのですが、なかなか受け入れがたい、苦渋の決断でした。

ただ、そこで驚かされたのは彼女の気持ちの強さです。どれほどの悲しみだったか計り知れませんが、それでも自身の受けたケアやサポートに感謝していました。とても心を打たれました。

そのほかに強く印象に残っているのは、産前ケアを受けに来院した女性です。子ども7人のうち4人が、少し前に隣町で起こった爆発で亡くなったそうです。MSFの介助で、彼女は無事に健康な赤ちゃんを出産しました。さまざまな体験を経て、新たに生まれた赤ちゃんを抱く姿に、本当に報われる思いでした。

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