アフガニスタン: 膨大な援助ニーズと活動リスク、MSFの判断は?

2013年09月20日掲載

紛争が続くアフガニスタンでは、人道援助が軍事行動に利用されたり、人道援助団体が襲撃されたりと、混迷の度を深めている。国境なき医師団(MSF)は、活動上のリスクを減らす方針を取りつつ、膨大な援助ニーズに対応するため、活動規模の拡大を模索している。MSFのオペレーション・コーディネーターであるレンゾ・フリッケに話を聞いた。

MSFは首都カブール東部のアーメッド・シャー・ババ病院、ヘルマンド州ラシュカルガのブースト病院で活動。また、北部のクンドゥーズ州では外傷外科病院を運営し、周辺地域の人びとに救命手術を提供している。さらに、東部のホースト州にもMSFの産科病院があるが、いずれの地域でも無償で医療を行っている。アフガニスタンにおけるMSFの活動は民間からの寄付のみを財源とし、いずれの国の政府からも資金提供を受けていない。

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アフガニスタンの安全状況は悪化しているのでしょうか?

MSFのレンゾ・フリッケ MSFのレンゾ・フリッケ

アフガニスタンは依然として戦争の最中にあります。2013年6~7月に首都カブールで頻発した攻撃もその一環です。人びとは今後も、国内の広い地域で、年間を通して紛争被害を受けることになるでしょう。この10年間で、MSFを含む人道援助団体が、政情不安の地域へ行って援助活動を行うことが極めて難しくなってきました。

こうした地域の人びとこそ、戦争の被害を直接受けています。しかし、人道援助ニーズを正確に把握するために重要な"信頼性の高い情報"が得られなくなっています。

現在のアフガニスタンの人道的状況を正確に把握することは可能なのでしょうか?

爆発事件で負傷し、MSFの治療を受けた少年 爆発事件で負傷し、MSFの治療を受けた少年

この国で活動してきた経験から、アフガニスタンの人道援助ニーズは膨大で、大部分が充足されていないということはわかっています。アフガニスタンの健康指標は世界でも最悪の水準で、妊婦や幼い子どもには極めてリスクの高い国の1つです。

はしかのように命を脅かす病気が繰り返し発生し、洪水や地震といった自然災害もたびたび起こります。一方、都市圏外の多くの保健医療施設は機能不全に陥り、技能の確かな保健医療スタッフは危険地域を離れています。薬剤や医療物資の供給も安定せず、場合によってはまったく行われていません。

治安が悪く、地域住民が病院に行けないこともしばしばです。こうした保健医療体制の崩壊は、紛争が長引くにつれ、いっそう深刻になっていくと考えられます。

過去12年間、国際社会から多額の援助金がアフガニスタンに注入されています。保健分野ではどのような効果があったのでしょう?

公的保健医療の枠組みは再建され、施設などの医療インフラも拡充されました。ただ、机上と現場の間に大きなずれが生じています。建設された診療所などの多くが無人のままで、物資も、薬も、職員も、患者もいません。アフガニスタンが"戦後"であることを前提として整備が進められたため、依然として戦争中である現実を反映したものになっていないのです。劣悪な治安、費用、物理的距離、そして、多くの保健医療施設が十分に機能していないことから、人びとは今も適切な医療を受けられない状況です。

援助はどのように展開を?

重傷者を手術室に運び込むMSFスタッフ 重傷者を手術室に運び込むMSFスタッフ

戦争の初期から、アフガニスタンは北大西洋条約機構(NATO)による軍事・政治・人道を包括したアプローチの試験場となってきました。MSFが目撃したその実態は、人道援助が一貫して軍事行動に利用されているという"危険な状況"です。援助は人びとのニーズに基づき提供されるのではなく、紛争当事国の国防に関する利害と外交政策に左右されています。

巨額の援助資金がアフガニスタンに注がれたのは、人心掌握が目的と思われる"即効プロジェクト"の展開のためです。例を挙げれば、短期的な保健医療活動を、多国籍軍が戦線付近で開始しました。医療提供と同時に、対ゲリラ戦略の一環で軍事目的の情報収集を行うのです。

こうした援助の軍用化で、軍隊と、独立・中立・不偏の活動組織との境があいまいになってしまい、援助を求めるアフガニスタンの人びとも危険にさらされました。一部の患者は、軍が運営する最寄りの病院に行くと報復を受ける恐れがあるため、移動に長時間かかったとしてもMSF病院に行くほうがいいと言っています。

国際NGOが人道援助提供で担ってきた役割とは?

この10年、アフガニスタンでは中立・不偏・独立の保健医療NGOが著しく不足しています。人道援助の主要な資金提供国の多くが、アフガン戦争に自国軍を派遣しているため、資金の投入先が開発や"安定化"事業の方向へ大幅に逸れてしまいました。2009年までで、開発援助資金は人道援助資金の12倍に達しています。

この方針は、現地の状況や膨大な人道援助ニーズを完全に無視したものです。一部の例外を除き、多くの国際NGOは、この安定化事業で積極的な役割を担っています。ある出資国が軍隊を派遣するとき、その派遣先を"援助対象"として定めて資金を拠出します。多くのNGOはその資金を受け取って活動しているのです。

多くのNGOのこうしたやり方は日和見的で、提示された開発援助資金を獲得するために、人道援助の専門的見識を忘れてしまっているのです。これが援助の軍事利用と相まって、アフガニスタンで独立・不偏・中立の人道援助が行われる余地を著しく損なっています。

多国籍軍の撤退は人道的状況にどのような影響を及ぼすでしょうか?

軍が引き揚げれば、相当額の資金の撤退も避けられないでしょう。大きな影響としては、紛争当事国の各政府が、運営・支援していた多くの診療所・病院の閉鎖が予想されます。医療インフラを整備した軍の目的に賛同できるか否かはさておき、一定の地域の住民の役に立っていたことは確かだとMSFも考えています。

現時点でも十分とは言えない保健医療の水準が、軍の撤退の影響でさらに低下していくであろうことは明らかです。同時に、情勢不安は確実に悪化し、人道援助ニーズは間違いなく増大していくでしょう。MSFは、多国籍軍が縮小されて軍事と人道援助の境が明確になることを望んでいます。アフガニスタンにおける独立・不偏の人道援助活動の回復を期待しています。

2013年5月の赤十字国際委員会事務所(ICRC)への襲撃でMSFの活動に影響は?

MSFは、ICRCが攻撃を受けたことを大変重く受け止めています。あの事件が単発のものなのか、それとも紛争の新たな動向の表出なのかは今も明らかではありません。そのいずれであろうと、信頼のおける中立団体を狙った襲撃事件には、非常に不安を感じています。

紛争の全当事者は、人道援助スタッフと医療施設を尊重するべきです。医療施設は常に安全で中立な場所でなくてはなりません。暴力は人道援助団体の活動能力をむしばみ、援助を頼るアフガニスタンの人びとに深刻な影響を及ぼすでしょう。

この襲撃事件後、MSFではスタッフの安全確保のためにどのような対策を?

アフガニスタンでも他の活動地と同様、スタッフ・患者の安全と、援助対象の人びとの医療ニーズ充足のバランスに細心の注意が求められます。

MSFのアプローチの基礎は常に、"受け入れられる戦略"です。つまり、地域住民が私たちの駐在を望んでいるという状況が、私たちを守ってくれるのです。MSFは(各国の思惑や資金ではなく)人びとのニーズにのみ基づく質の高い医療援助を提供しています。また、活動にあたっては、現地の文化的・宗教的価値観も尊重しています。

ICRCの事件は、こうした"受け入れられる戦略"で得られる安全水準の低下を示すものです。事件を受け、MSFもアフガニスタン全域の活動を見直しました。MSFの医療活動は有意義かつ重要で、活動地の人びとに大いに求められていることは確信しています。ですから、進行中のプログラム維持にも、引き続き力を入れています。ただ、リスク緩和のため、活動地の外国人スタッフの数は約20%減らすことにしました。

アフガニスタンにおけるMSFの今後の計画は?

国内避難民を対象とした移動診療用のテント 国内避難民を対象とした移動診療用のテント

未解消のまま膨張する人道援助ニーズを受け、MSFは現行の4件のプログラムにとどまらず、活動の拡大を検討しています。今後数年、複数の地域で新たなプログラムの展開を目指していますが、特に念頭にあるのは中央政府の統治の及ばない地域です。

また、病院の敷地を離れ、周辺地域の人びとに直接援助を提供する試みも本格化させたいところです。こうした活動は、今までのところ、安全状況のせいで極めて実践が難しいのです。既に先日、カブール郊外で、なかなか医療を受けられない人びとを対象とした移動診療を開始しました。また、いずれのプログラムでも、人びとが病院に行けない理由をよりよく理解するための調査が行われています。

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