南スーダン:「8万人の人びとの命が危機に」――MSF看護師の報告

2013年09月10日掲載

国境なき医師団(MSF)のキャロリーヌ・ショルト看護師が、南スーダン・ジョングレイ州での3ヵ月の任務を終えて帰国した。ジョングレイ州では、ここ数ヵ月で暴動が頻発しており、現在も約8万人の住民の消息が確認できていない。身を潜めている人びとは、あらゆる人道援助から取り残されている状況だ。ショルト看護師に現状とMSFの取り組みについて聞いた。

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ジョングレイ州の現状は?

民兵組織と南スーダン軍との衝突が繰り返されており、同州南部に位置するピボール郡の住民はブッシュに避難しています。さらに、2013年7月には、ブッシュで民族間抗争が激化し、多くの人びとが負傷しました。

以来、人びとは攻撃を恐れ、帰宅も村を訪れることも市場へ行くこともできずにいます。首都ジュバに避難した人や、ケニア、エチオピア、ウガンダといった隣国へ逃れた人びともいます。消息が確認できているのは、グムルク村周辺に滞在している2万4000人と、ピボール郡内の2ヵ所の村に滞在する1万人だけです。まだ8万人の行方がわかっていません。どこかに隠れ、身を潜め、危険で厳しい状況を耐え忍んでいるのでしょう。

MSFの活動内容は?

移動診療でショルト看護師の診察を受ける母子 移動診療でショルト看護師の診察を受ける母子

診療所が略奪されたため、多くの人道援助団体が退避を余儀なくされました。MSFはグムルクの診療所で1次医療を提供しています。そこにテント式の手術室を設置し、負傷者や孤立した人びとに援助を届ける態勢を整えています。ただ、避難民がどのような健康状態にあるのか、把握できていません。

ヘリコプターを使った移動診療も行いました。持参するのは数箱の医薬品と、日除けのためのビニールシートと2本の杭。必要最低限のものだけで仕事をするのです。ローマ時代のように使者にメッセージを託し、ブッシュに避難している人びとにMSFのことを伝えてもらいます。すると、 すぐに何百人もの患者が集まってきます。優先順位を決め、感染症の重症者、栄養失調の子ども、感染症にかかっている妊婦などを毎日100人以上診察しました。

患者たちは、食糧の調達や治療などの必要に迫られても、村に戻ろうとしません。患者の中には紛争による負傷者もいましたが、ほとんどは女性や子どもでした。男性は隠れ場所から出て来ないのです。患者たちは、避難した時のこと、家族の離散、崩壊、あるいは死別について語ってくれました。大人が近づくと脅える3、4歳の男の子もいました。無理もありません。3日間、頼る人もなく、たった1人で沼地に居たそうです。

人びとは、本当に全てを失ってしまったのです。女性たちに今すぐ必要なものを尋ねると、全員が食糧と医療だと言います。これまで経験したことのない状況に置かれ、彼女たちは食糧不足を恐れているのです。7月中旬の抗争で家畜を盗まれ、畑を耕すことも家族を養うこともできない。村へ戻ることもできず、深刻な人道危機に直面して、必死に助けを求めているのです。

MSFチームが直面している課題は?

激しい雨で泥地となり、肌寒さに耐える少年 激しい雨で泥地となり、肌寒さに耐える少年

ここは広大な平原地帯で、複数の川が曲がりくねりながらナイル川へと流れ込んでいます。荒れ地で道路はほとんどありません。激しい雨が降れば、またたく間に水があふれて泥地となります。

つまり、ブッシュに避難している人びとに援助を届けるには、まず輸送上の問題があるのです。多くの場合、ヘリコプターが唯一の手段です。また、地理的な問題もあります。ジョングレイ州はベルギーの4倍(日本の3分の1)の広さですから、身を隠している人びとを見つけ出すのは容易ではありません。

さらに、感染症の流行リスクがあります。安全な飲料水や食糧が不足しており、コレラ、マラリア、はしかなどが懸念されます。E型肝炎の流行も警戒しています。MSFが活動しているスーダン国境沿いの難民キャンプでは、すでにE型肝炎が流行しているためです。

毎日が大変です。数万人の行方不明者の命が脅かされているのです。私が南スーダンを後にするとき、MSFは徹底的な捜索を行うためにヘリコプターを調達していました。また、他団体にも働きかけ、食糧、住居、浄水装置などの提供を呼びかけています。

今回の派遣で特に感じたことは?

現地での生活は決して楽ではありませんでした。テント生活でしたし、清潔な飲料水は限られている上、調理の燃料はたきぎでした。通信手段も衛生電話だけでした。

それでも、ヘリコプターでブッシュに着陸した私たちを取り囲む数百人の人びとが、想像を絶するような苦境にありながら、自尊心を保ち続けている様子を目の当たりにすると、無関心ではいられません。彼らの人生観や体力には敬服します。話を聞いているだけで背筋がぞくぞくしました。こうした人びとに会うたびに、限られたものしかない生活環境でも努力し続けなければならないと自分に言い聞かせているのです。

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