ジンバブエにおけるHIV被害:「正常ではない状況を正常化することはできない」

2013年01月09日掲載

ジンバブエはHIV/エイズの流行により甚大な影響を受けている。国境なき医師団(MSF)のマリ・カルメン・ヴィニョレスとジャン・フランソワ・サンサヴールは、2009年4月に首都ハラレに到着。マリ・カルメンがジンバブエにおける活動責任者、ジャン・フランソワは医療コーディネーターとして、3年以上にわたり、HIV/エイズの治療・予防に取り組んだ。着任当初と現状の比較や、今後の課題について聞いた。

記事を全文読む

着任当時のジンバブエは、どのような状況でしたか?

マリ・カルメン(MC):2009年4月当時、ジンバブエは深刻な経済危機に直面していました。多くの商店は閉店していましたし、スーパーも品薄状態でした。そんな状況でしたが、閉鎖に追い込まれていた診療所は、少しずつ診療を再開していました。国際資金が入るようになり、長らく滞っていた医師や看護師への給与が可能になったからです。医療制度はほぼ崩壊し、必死に持ちこたえているという状態でした。

ジャン・フランソワ(JF):ジンバブエに到着した頃には、コレラの流行は落ちつき始めていました。一方、HIV/エイズに関しては、抗レトロウイルス薬(ARV)治療を必要としている患者のうち、実際に治療を受けている人は30%にも満たない状況でした。つまり、重症になる頃にようやく治療を開始できるという具合だったのです。

着任から3年以上がたちましたが、事態は改善しましたか?

治療を受けることで患者は未来に希望を持てる

MC:まず、大きな状況の変化がありました。政治レベルでは統一政府が発足しました。多くのことでは失敗したものの、野党を政府の一員として受け入れ、連立政権を樹立することに成功しました。また、2009年2月に米ドルを自国の通貨として導入したことで国内の経済が安定しました。その結果、公的機関や保健省が援助資金を提供する団体・個人の信用を得ることができ、HIV対策の実施につながったと言えるでしょう。

ARV治療を緊急に必要としている成人患者で、治療を受けている人は80%に増加しました。V治療を提供している診療所も、100施設に満たない状況から、今では約500施設にまで増えています。全国の診療所の総数が約1500施設だということを考えれば、まだ十分ではありません。しかし、良い方向に向かっていると言えるでしょう。2013年に予定されている選挙の後の動向を見ないことには、改善傾向にあると断言はできませんが。

JF:これまでには、毎月8000人の患者がARV治療を開始するという時期もありました。医療制度に回復の余地がある証拠です。資源と正しい政策があれば、多くのことが実現可能なのです。一方、ゆっくりとした変化もありました。ジンバブエの制度は規制が強いため、政策を全国レベルの戦略として実現させるのには時間がかかるのです。

どのような困難に直面しましたか?

MC:最も難しかったのは、MSFが資金提供団体だと誤解されることを避け、医療・人道支援団体としての立ち位置を確立することでした。私の着任時は、保健省との協働が認められておらず、患者の生活向上に向けて戦略を改善する支援もできない状況だったのです。

個人的に一番辛いのは、やるべきことが数多く残っているという事実です。エイズは今なお、人道的緊急事態です。活動のペースを落とす余裕はないのです。ジンバブエでは、毎週1200人もの人が命を落としているのですから!

JF:ジンバブエ保健省と協働する土台を築くことができたのは、私たちの活動にとって重要な鍵となりました。例えば、保健省のHIV/エイズに関する治療プロトコル策定に携わることができました。その結果、MSFが直接医療を提供していた地域以外にも影響を与えることが可能になりました。

MSFのジンバブエでの活動はHIV/エイズ対策に焦点を当てていました。HIV/エイズに関しては、どのような緊急の人道的ニーズがありますか?

HIV検査ツール

MC:ARV治療を受けられる患者を増やす努力も必要ですし、同時に、治療中の患者数千人に質の良い医療を提供し続ける必要もあります。この数年間で、治療拠点の分散化や国内の医薬品配給システムの改善など大きな進歩がありました。ただ、医療の質を確保するためにはさらに努力が必要です。治療を途中でやめてしまう患者が多すぎます。この状況を改善しなければなりません。

JF:エイズと診断されずに命を失う人が大勢います。これは容認できる事態ではありません。命を救う手だてはあるのですから。ジンバブエでは、約110万人のHIV感染者がいます。そのうち60万人が緊急にARV治療を必要としています。生きるためには、治療を始め、続けていかなければなりません。包括的な財務コストは高くなりますが、それを維持していく必要があるのです。

さらに、HIV/エイズに対する偏見や差別はいまだに大きな課題です。HIV診断は、簡単な問題ではありません。

今後はどのような課題がありますか?

MC:治療に関しては、子どもや10代の青年がなおざりにされています。ウイルスに感染した子どもが生まれるのを防ぐために、すべきことは沢山あります。

JF:不平等は子どもたちにはっきりと現れます。エイズに感染した子どもたちを大勢診てきましたが、感染は避けられたはずなのです。小児用製剤は不足していますし、より簡便な成人用製剤(1日1錠)も必要です。また、10代の青年に焦点を当てたリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に関するプログラムも必要です。

この数年間、世界の資金供与者はHIV/エイズ対策への支援から一歩退いています。この傾向は、2011年末に世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)がラウンド11を中止する決定を発表したことで明確になりました。ジンバブエの現状はどうなっていますか?

MC:ジンバブエは、ラウンド11の中止による影響が比較的少なかった国だと言えるでしょう。中止が決定する直前にラウンド8の資金を受け取っていたのです。世界基金の歴史上最高額となったラウンド8は、5年分の資金援助でした。そのため、ジンバブエの場合は2014年の12月までの資金が確保されています。

しかし、今後の資金調達先を見つけなければ、2014年には資源不足に苦しむプログラムが出てきます。世界基金はいくつか政策を変更する予定なので、状況を注意深く監視する必要があります。今後は、必要な資金を得ることが、不可能ではなくとも困難になるとみています。

ジンバブエでの活動中に、最も印象に残った出来事は何ですか?

母子感染予防の一環として
母子支援グループの活動も行っている

MC:2つあります。1つは、母子感染防止プログラムの一環である母親支援グループです。感染者である女性たちが、初めてプログラムに加わった母親たちを支援するのです。彼女たちのボランティア精神と、プログラムやHIV陰性の子どもを出産したことについて語る時の情熱は、とても印象的でした。

もう1つは、おばあさんたちです。ジンバブエでは、100万人の子どもがエイズによって孤児となり、ほとんどが祖母に育てられています。60代か70代の女性が7~8人の子どもたちの面倒をみているのです。生涯ずっと闘って女性たちですが、今後も彼女たちの闘いは続くのです。いつも両手に孫たちを抱きかかえて診療所にきていました。孫たちが診療の機会を逃すことのないように。彼女たちの勇気と情熱と希望は、人生の教訓です。

JF:裕福な国で1次医療に携わる小児科医が子どもを診るのは、主に予防接種か成長観察のためです。かかりつけの医者でも、10代の青年を診ることはほとんどありません。通常は健康な年代だからです。

しかし、HIV/エイズの流行が最も深刻なサハラ以南のアフリカでは、全く異なります。MSFがジンバブエで運営する診療所は、子どもと10代の青年であふれています。農村の小さなタショロトショ郡だけでも、10代の患者600人を含む1600人の子どもたちが治療を受けています。それでも、実際に治療を受ける必要がある人数の半分です。

私たちは、患者に合わせて戦略を調整する必要があります。予防せずに感染者が出ている状態は容認できません。正常ではない状況を正常化することはできないのです。

関連情報