国境なき医師団(MSF)の医療援助を支える"ロジスティックス"

2013年02月01日掲載

フランス・メリニャックのボルドー国際空港近隣に、国境なき医師団(MSF)の物流センター「MSF ロジスティック」がある。医療物資やその他の物資を調達・保管し、世界各地で行われているMSFの活動プログラムへ発送する。MSFロジスティック勤務歴17年のブルーノ・ドルーシュ副センター長に、物資を24時間以内に現地まで届けることも可能な配送プロセスについて聞いた。

国境なき医師団のロジスティクスってなんだろう?

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MSFロジスティックはどのような組織ですか?

A.医療・人道援助活動のための物資購入・配給を非営利で行う拠点です。スタッフは約100人。医療製品やその他の製品の購入、調達、輸送、検査、各国および国際社会の法令を順守するための事務処理などの業務を行っています。また、フランスの担当局から薬事機関としての認可を得ており、スタッフには薬剤師が4人含まれています。

物資を通関保留の状態で保管することも認められています。在庫物資は欧州内での使用を目的としていないため、書類の上では"輸送中"なのです。その状態であれば関税が課されません。そのため、在庫物資を実際に発送する際、改めて通関手続きでわずらわされることはなく、速やかに活動地へ送りだすことができるのです。

どのような物資を扱っているのですか?

フランスにある物流センター「MSFロジスティック」

A.この組織は、MSFが活動に必要な物資を自らの手で確保する手段として、26年前に設立されました。現在、データベースに登録されている品目数は約2万点に及びます。そのうち、常に約4000点が備蓄されています。約3000点が栄養治療食を含む医療物資、約1000点がその他の物資です。在庫がない物資は、メーカーやドバイにあるセンターから取り寄せます。

重要なのは、発送までの時間です。通常の活動であれば1週間かかっても問題ありません。しかし、緊急対応の場合は、全てを速やかに発送できる態勢が求められます。

MSFロジスティックの集積・運搬能力は、100トン以上の医療物資・その他の物資を24時間以内に届けることも可能です。2006年~2011年の実績では、毎年5000トンの物資を発送しました。

登録2万点のうち4000点を備蓄している倉庫

緊急時に、現地のニーズに応じた医療物資・その他の物資のキットを作り、すぐに使用できる状態で500組以上を供給する民間の物流拠点は、世界でも類を見ないでしょう。MSFは、この手法の先駆けであり、現在も実践している唯一の人道援助団体です。他団体からの問い合わせを受けることもよくあります。しかし、協力できるほどの余裕はないというのが実情です。

例外的に、アフリカ睡眠病(アフリカ・トリパノソーマ症)対策に関しては、世界保健機関(WHO)と協力関係にあります。治療薬の生産が終了してしまった際、WHOが製薬会社と生産継続の協定を結び、MSFに流通が委託されました。治療薬だけでは不十分だと考えたMSFとWHOは、アフリカ睡眠病対策キットを考案し、各国の保健省に提供を開始しました。この取り組みはWHOが費用を負担し、現在でも続けられています。

使用する薬はどこから調達しているのですか?

A.経口薬やワクチンの主要な供給元は「途上国の薬局」と呼ばれるインドです。インドのサプライヤーとの関係は、MSFがHIV/エイズの治療と「必須医薬品キャンペーン」を始めた2000年にさかのぼります。現在は、結核やマラリアなど他の病気の治療薬でもインド製を使用しています。

麻酔薬、抗菌薬、非経口薬など注射可能な薬の大半は、品質の評価方法が非常に複雑なので、主に欧州メーカーから購入しています。MSFにおける薬の採用承認の要は、MSFインターナショナル・薬剤師ネットワークとWHOです。そのため、MSFに在籍する薬剤師の人数はこの10年で増加しています。

品質は非常に重要です。グローバリゼーションに伴い、どこでもさまざまな薬が手に入るようになっていますが、価格のみを基準に調達はできないのです。

発注の手順は?

A.緊急対応の場合は、緊急援助物資の在庫目録を作成します。目録には、私たちが倉庫で組み上げた専用キットが掲載されています。

一方、通常の活動で継続的に使う物資については、"マラリア治療薬"、"髄膜炎ワクチン"、"そのまま食べられる栄養治療食(RUTF)"など、WHOの必須医薬品リスト(EML)に基づく注文票を用意しています。また、車やバイク、交換用部品、無線通信機器、水処理用品といった医療物資以外のものも調達します。

活動地のチームは、受け取りのため、倉庫、運搬、事務手続きなど全ての手はずを整えます。

活動地で購入する物資もありますか?

A.蚊帳や建築材など医療物資以外の一部の物資は現地で購入します。また、栄養治療食についても、現地の生産者からの調達が増えています。品質管理を担当するスタッフが、製造工場があるニジェール、ドミニカ共和国、ケニア、南アフリカなどを訪問し、使用の是非を決定しています。

特に印象に残っている物流はありますか?

ハイチの被災地に届けられた病院キット

A.直近の大規模なものとしてはハイチですね。

災害時には通常、国内の別の地域から物的援助を行います。しかし、ハイチの場合は、被災地となった首都ポルトープランスに物資を直接送ることができませんでした。代わりに、隣国ドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴに送り、ポルトープランスへの陸運を手配しました。

このとき運んだものの中には、1張90m²のテント14張と手術室2棟をまとめた"組み立て式病院キット"もあります。他の活動地への物資供給も続けつつ、24時間体制で数週間にわたって勤務しました。

このような疲労困憊の状況でも、私たちはMSFロジスティックの存在意義を明確に認識しています。その管理・運営は徹底しています。私たちは、活動地のMSFチームと患者のために、細心の注意を払っているのです。

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