マリ:「患者を置き去りにはしません」――空爆下のMSF活動

2013年02月14日掲載

紛争が続くマリ共和国で、国境なき医師団(MSF)は複数の地区で医療・人道援助活動を行っている。ジョゼ・バフォア医師もその一員だ。ガオ州で、医療チーム・リーダーとして5ヵ月の任務に就いた。同州の緊迫した状況下で、MSFの医療施設を訪れる患者の数は平時より減少している。外出への不安で、医療ニーズが潜在化しているとみられる。バフォア医師は「最優先事項は患者の治療継続です」と話す。

マリ北部におけるMSFの活動地は、ガオ、アンソンゴ、コナ、モプティ、ドゥエンザ、トンブクトゥ。1次・2次医療、外科医療、緊急援助を提供している。南部のシカソ州でも活動中で、包括的な小児科医療プログラム(1次・2次医療の治療・予防的処置)を運営中。周辺国のブルキナファソ、モーリタニア、ニジェールでもマリ人難民を対象に医療を提供している。

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外来患者の7割がマラリアに

ジョゼ・バフォア医師=1999年からMSFに参加し、マリのほか、
ウガンダ、チャド、中央アフリカ共和国、
祖国のコンゴ民主共和国で活動

MSFはガオ市の近隣のワバリアやソソコイラで医療施設を運営している。そこには1日平均120人の患者が来院する。患者の70%はマラリアだ。高熱と継続的な悪寒が特徴で、現在もマリにおける主要な死因。特に、5歳未満の子どもが危険で、大勢が亡くなっている。

バフォア医師によると、2012年9月に医療施設での活動を開始してから、患者数に大幅な変化は見られない。2013年1月半ばの空爆の際にはやや減少した。その後繰り返された戦闘で、ある診療所では患者数が1日平均10人を下回った。しかし、現在は1日平均60人まで回復したという。状況が落ち着き、外出への不安が和らげば、来院数は以前の水準まで戻るとみている。

ガオ市と周辺地域には、病院1ヵ所と診療所10ヵ所がある。対象人口は40万人で、一部の人は今も医療を受けられない状態にある。バフォア医師は「避難を繰り返している人ほど、さまざまなものが不足しています。無償で質の高い医療の提供は不可欠です」と話す。

MSF援助で死亡率低下

MSFの診療所で問診を受ける母子

1月11日、マリ・フランス連合軍が北部地域の複数の武装勢力に攻撃を開始。ガオ州では、「西アフリカ統一聖戦運動(MUJWA)」と、アルカイダの分派「イスラム圏マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」が標的となっている。

空爆と報復攻撃を恐れ、人びとは避難している。周辺国に逃れた人や、環境の厳しい寒村やブッシュに避難した人もいる。バフォア医師は「不衛生な環境が原因で、下痢や皮膚感染症が増えています。また、土ぼこりと風雨が原因で急性の呼吸器感染症の患者も増加しました。高血圧や胃炎でやってくる患者も増えています。おそらく、現状に大きなストレスを感じていることが原因でしょう」とみる。

現地のMSFの主な活動目的は、医療や緊急援助の拡大を通じた死亡率の引き下げだ。今回のプログラムを始める前は、MSFの支援するガオ州の医療施設3ヵ所で、少なくとも週平均1~2人が亡くなっていた。プログラム開始後の2012年10月以降は、亡くなった人は計5人にとどまっている。ただし、3ヵ所のうち、チャバリア(ガオ市の北140km)では、安全上のリスクから診療所での活動を一時中止。医療物資の供給のみ継続)。

ガオ市の南100kmのアンソンゴにある中央病院では、2012年末に8%を超えていた院内死亡率が、現在は1.2%まで低下した。

移動診療の対象地域に地雷

マリ北部の広大な砂漠地帯では、患者の近くまで治療を届ける手段も欠かせない。過去4ヵ月、複数の移動診療チームが砂漠で活動している。患者が来院できない状況では、こちらから出向く必要があるためだ。

ただ、各地に地雷が設置されていることから、現在は一時中止を余儀なくされている。バフォア医師は 「移動診療を通じて、1次医療や妊婦の定期健診を行ってきました。再開時期は未定ですが、間もなくであることを願っています」と話す。

MSFはそのほかの地域でも、診療所へ薬や必要物資の供給する形で支援を行っている。主な問題は、物資不足と労働環境の不備だ。MSFは施設の修復作業も積極的に行っている。アンソンゴの中央病院では、電力と水道を復旧し、手術室を修復中だ。

疫学上の監視体制も活動の軸となる。MSFのチームが病気の流行に速やかに対応できる態勢を確立するためだ。バフォア医師は「私たちは医療上のあらゆる事態に対応できる態勢を整えておかなければなりません」と話す。病気の流行、戦闘による負傷、避難に起因する健康問題など医療ニーズはさまざまだ。

戦闘による外傷治療の体制を増強

MSFの産婦人科医の診療を受ける若い母親

アンソンゴでは、2012年12月に病院支援を始め、現在、1日平均約100人の患者を診察している。以前から帝王切開や産科医療を提供していたマリ人スタッフ2人に加え、戦闘による外傷治療に優れた外科医を1人派遣してチームを増強した。

バフォア医師は「人びとは『唯一の望みは平和だ』と話します。MSFはそんな人びとに寄り添っているのです。空爆の間も撤退することはありませんでした。今後も患者を置き去りにすることはありません」と力を込める。

保健医療体制が拡充され、MSFによる援助の必要がなくなる日が来るまで、地域にとどまり、人びとに無償で質の高い医療を提供するべく力を尽くす。

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