南スーダン:「中途半端な治療しかできない」――E型肝炎/医師の苦悩

2013年02月15日掲載

南スーダン・上ナイル州マバン郡には、スーダン人難民キャンプが4ヵ所設置されている。国境なき医師団(MSF)のオランダ人医師のマールテン・デッカーは、そのうちの1つであるバティルで活動。現地で流行している"E型肝炎"の治療にあたった。根本的な治療法がなく、医師の苦悩は深い。デッカー医師に現地での対応を聞いた。

E型肝炎は肝臓を侵す病気で、解明されていないことも少なくない。根本治療の方法がなく、症状に対応する対症療法と、出血・低血糖・脱水症・感染症といった一部の合併症の予防しか手立てがない。肝臓が正常に機能せず、身体に毒素がたまる。患者は錯乱・せん妄状態に陥り、やがて4~5日間のこん睡状態へ移行する。その状態から回復する割合は50~60%にとどまる。

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バティルで感染が拡大、MSF独自の対応法を作成

MSFのマールテン・デッカー医師

バティルでE型肝炎の症例が初めて報告されたのは2012年7月。私はその10週間後に到着しました。その時は患者数が減少に向かっており、緊急事態は脱したと考えられていました。

しかし、この3~4週間、患者数は明らかに増えてきています。2013年1月第4週の新規患者数は494人。その2週間前は271人でした。MSFのE型肝炎治療施設の受け入れ患者数の週平均は、16人→23人→46人と増加が見られます。1日で26人を受け入れた日もありました。

亡くなる人の数も微増しています。私がここに来たころから、週平均で1~2人→4人→7人と増え、1月第4週には11人が亡くなりました。

E型肝炎は根本的な治療法がないため、NGOにも世界保健機関にもその他諸機関にも手に余る病気です。私もバティルに来るまで、この病気の治療に携わったことはありませんでした。

多くの関係者がE型肝炎に対する理解を深めようと努めています。バティルでは、世界中から集まったMSFの医療専門家とともに、この場所で最善の対症療法を行うための独自の「作業プロトコル」を作成しています。

患者の中心は20歳~30歳

E型肝炎でMSFの治療を受けたマリアムさん(左)と夫

E型肝炎の患者が命を落とす原因は肝不全です。根本治療ができず、本当に悔しさを感じています。医師として最善を尽くしていても、中途半端な治療しかできないのですから。

バティルにいる間、約20人を看取りました。医師というものは奇妙なものです。ある意味で人の死に慣れていくのです。最初の何人かが亡くなったときは悔しく腹立たしいのですが、次第に自身の内面に壁をつくり、感情的に反応し過ぎないようにするのです。

もちろん、患者との関係構築もお互いを理解するために重要です。患者を助け、その気持ちが理解できるように関係を築くことと、感情的に入れ込み過ぎないようにすることのバランスを取ろうとするわけです。そうしなければ、職務を継続できません。難しい仕事です。

E型肝炎になるのは通常、若く体力もある世代です。私と同世代の20~30歳くらいの若者が亡くなっていくのです。一方、子どもや40歳以上の患者はあまり多くありません。

妊婦の死亡率は平均の10倍

全体死亡率は、患者100人に対して2人の割合です。つまり、致死率は2%。ところが、妊婦の致死率は約20%に達します。理由は……実はわかっていないのです。患者の中には、無事に出産して、産後も良好な女性もいます。一方、早産の女性も大勢います。また、赤ちゃんは無事で、お母さんが亡くなってしまうこともあるのです。

病院で患者が亡くなり、人間の感情が爆発する光景を1度だけ目にしました。ですが、通常は、遺族は一刻も早い帰宅を望みます。どう手配しているのかはわかりませんが、亡くなった患者を運ぶために15人ほどを瞬く間に呼び集めてくるのです。

さもなければ、MSFからロバと台車を借り、亡くなった方を難民キャンプ内の居住地に連れて帰ります。臨終を"自宅"で見守れなかったことは、遺族にとってとてもつらいことでしょう。それでも「ご尽力に感謝します」と言われることがあります。その目に深い悲しみを垣間見るのです。

他の難民キャンプでも流行の恐れ

医師として、無力感を覚えることもあります。適切な処置を適切なタイミングで行えていなかったのではないかと。E型肝炎について、治療のやり残しや大きな過ちがあったと感じたことはありません。どの患者にも最善の治療を行ってきました。それでも、人命は失われていくのです。

バティルには、ドロで活動するMSF診療所の医師が視察に来ていました。ドロでも最近、E型肝炎が疑われる症例が多く確認されているためです。ドロの滞在者は約4万5000人。バティルと同じことが起こり、問題が長期化するのではないかと懸念しています。

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