ケニア:ごみと暴力と希望の狭間で(下)

2013年03月12日掲載

ケリー・カバラ准医師

ケニアのスラム地区・キベラで活動する国境なき医師団(MSF)は、HIV/エイズの治療に加え、結核との二重感染の治療にも着手。成果をあげている。一方、一般的な医療が不足しているこの地域では、人びとの医療ニーズは依然として高い。MSFは基礎医療、慢性疾患、性的暴力の被害などを含む包括的な無償医療モデルを考案した。

ケニア:ごみと暴力と希望の狭間で(上)

記事を全文読む

強盗の少年5人、群衆から集団暴行に……

キベラでの生活はとても過酷です。大勢の少年少女が、ナイロビの一般的な交通手段である「マタトゥ」という小型バスの客引きとして長時間働いています。また、窃盗・強盗・売春に関わる子どもたちもいます。アルコールと薬物の乱用も普通のことです。強盗で捕まった子どもが、群衆から集団暴行に遭うこともあります。

最近の例では、5人の少年が強盗を繰り返したとして、激しく殴打され、そのまま置き去りにされました。私たちは治療しようとしたのですが、約200人の群衆と警察に妨げられたのです。彼らを助けようとする行為に驚く人も大勢いました。

私たちはあきらめることなく、最終的には治療を行いました。応急処置をし、病院に紹介しました。その後、ギャングの構成員の1人から接触を受けました。治療に感謝するとともに、そのことを必ず組織に伝えておくとのことでした。

集団暴行から治療までの一連の出来事は、キベラでのMSFの認知度をさらに高めた点で非常に重要です。急いで住民たちと接触しなければならない緊急事態への備えとして、特に助けとなるのです。

援助対象者のニーズに基づいて活動する――MSFの存在価値

キベラ地区の中心を貫くように鉄道が走っている(2011年)

キベラでのMSFへの認識は、来たる総選挙のためにいっそう重要なものとなるでしょう。2008年、ケニアは選挙後の騒乱と暴動を経験しました。1000人以上が亡くなり、50万人が避難する事態でした。

キベラへの影響も深刻で、特定の民族に属する人びとが、別の民族グループから追い出されてしまったのです。全ての保健医療施設が閉鎖される中、MSFは現地にとどまり、負傷者の治療や患者への薬の受け渡しを続けることにしました。

また、退避した人びとのために、援助物資の配給やスラム外の仮設診療所の設置も行いました。そのような状況で活動するには、独立・不偏であることと、地域のさまざまな集団に受け入れられていることが重要となります。援助対象者のニーズに基づいて活動するというMSFの存在価値も認識できました。

国内で最も包括的な医療モデルを提唱

キベラでのHIV/エイズ治療については、MSFが成果を上げています。しかし、一般的な医療の不足は依然として大きな課題です。例えば、「父親がMSFから無償のHIV/エイズ治療を受けているとしても、HIVに感染していない娘が無償治療の対象ではない肺炎で亡くなる」ということもあり得るのです。

そこで私たちは、基礎医療、慢性疾患治療、性暴力被害者の治療などを含む総合的な無償医療モデルを考案しました。これは、ケニア国内で最も広範で包括的なプログラムです。

私たちのこうした着想は非常に有効で、この地域にとって必須です。スラムの住民に加え、ナイロビの他地区や国内の他地域からも患者が訪れるほどです。

実は、この状況も新たな課題です。医療の質の維持が重要となるからです。MSFでは現在、患者の来院・入院から退院・帰宅までの流れ、つまり「ペイシェント・フロー」を最適化するための方策を講じています。また、人材・設備面でケニア保健省の協力を受けています。

活動の方法は更新されていくかもしれませんが、目的は常に変わりません。その目的とは、キベラの人びとに必須の医療を無償で確実に提供していくことです。

関連情報