シリア:「子どもたちのおもちゃは......銃のカートリッジなのです」

2013年03月27日掲載

内戦が続くシリアで、国境なき医師団(MSF)は、仮設病院を3ヵ所運営している。政府認可は得られていないが、多くの人が医療を受けられない状況にあることを見過ごせないと判断した。MSFのロイク・イェーガーは、3病院の1つで"活動統括責任者"として活動。2ヵ月の任務を終了して帰国した。イェーガーに、現地の人道に関わる状況とMSFの提供する援助について聞いた。

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紛争は2011年3月から2年に及んでいますが、現状は?

シリア北部のMSFの仮設病院で、活動の安全性について
スタッフと話し合うロイク・イェーガー(中央)

A.厳しいです。多大なニーズに対し、人道援助はごく限られています。

シリア北部で活動し、外科医療を重視している人道援助団体は少数です。しかし、保健医療ニーズは膨大で、非常に広範囲に及んでいます。

内戦以前のシリアの生活水準は比較的高いものでした。MSFの活動地域はトルコ国境近くで、夏期休暇で使用される素敵な別荘が立ち並び、大都市に住む人びとが訪れていた場所です。地元の子どもたちは学校に通い、蛇口をひねれば普通に水も出たのです。

しかし、今は何ヵ月も電力が停止し、水道も止まっています。人びとは厳しい冬の寒さを暖房なしでしのいでいます。昔ながらの薪ストーブの使用も復活しました。どの家の壁にもドリルで開けた穴が見えますが、それは煙突を取り付けるためのものです。

MSFの病院からわずか20kmの場所に人口15万人の町があります。そこには、最新鋭の医療機器(私の故郷であるフランスの病院にも設置されているような水準の機器です)を備えた公立病院など複数の病院が建っています。

しかし、その病院とMSFの活動地域の間が内戦の前線です。そのため、大多数の人が往来できなくなってしまっています。かつて政府が助成していたガソリンも、今は法外な価格です。そのため、近距離の移動も高くつくのです。

民間人は大変な窮地に陥っています。皆、紛争というものに慣れておらず、そうした困難な状況を切り抜ける方法も知らないのです。備えなどもしていません。

MSFの活動内容は?

A.毎日のように民間人が爆撃に巻き込まれているため、外科医療が活動の中心です。

ある男性と話したことを思い出します。彼はひどく取りみだしていました。迫撃砲が、洗濯ものを干していた奥さんの近くに着弾したのです。奥さんは顔にひどい傷を負ってしまいました。1日に治療する重傷者は平均1人ですが、人の集まる場所に爆弾が落ちた場合は多いときで30人、大規模な戦闘があったときは80人にも及ぶことがあります。

活動は外科医療だけではありません。戦闘の前線から避難してくる人が増えたことを受け、外来診療所の運営も開始しました。慢性疾患の治療など外科とは異なるニーズも把握できるようになっています。

先ほどお話しした人口15万人の町では、住民は避難することに必死です。しかし、簡単ではありません。親類を訪ねるための外出というふりをして、何も持たず、タクシーや徒歩で抜け出す人がたくさんいます。

町を出た人びとは当初、家主のいなくなった住居に滞在していました。今では、山間部でテントを張り、キャンプを形成する例が増えています。非常に寒いので、MSFは援助の第一歩として、まず毛布を配給しました。

MSFの活動は少しずつ拡大しています。現在の重点分野は母子保健心理ケアです。

母子保健分野での困難とは?

MSFの仮設病院で、帝王切開で生まれた双子の女の子

A.内戦前は、車で20~30分も走れば、設備の整った近代的な病院に行くことができました。多くの妊婦は、妊娠中に3回の超音波検査を受けるなど標準的な医療を受け、専門家のもとで出産していたのです。

しかし、私たちが現地入りした当初、出産は緊急医療の対象外でした。妊婦は自宅で出産するか、徒歩やトラクターで国外まで出ていました。

そこで、MSFは、移動診療の一環として妊婦健診を開始し、病院には産科部門を設置しました。移動診療の範囲が拡大されると、病院での出産数も週2件から、1日2件に増加しました。

重傷者を治療したり亡くなった人の遺体や危篤状態の子どもを搬送したりする病棟から、わずか10mの距離に、新しい命を産む女性たちがいることは何とも不思議でした。新たに生まれる命は一種のなぐさめになります。私たちの活動における1つの支えです。

心理ケアの必要性とは?

MSFの移動診療チームによる診療を待つ親子

A.今は内戦です。人びとは非常な緊張状態の中を過ごしています。辺りには疑念と不信が漂っています。大勢が住まいを失い、愛する人を失い……。パニック発作を発症する人も多いです。

子どもたちは学校に行けなくなり、周囲には常に武装した男たちや負傷者がいます。それが子どもたちの今の現実です。MSFの外来診療では、多くの母親が困り切って、子どもの心身症のことを口にします。

心理ケア活動の見通しを立てたとき、地元の社会的指導者、宗教的指導者、反体制派の指導者、いずれの立場にある人びとも非常に協力的でした。家庭内の騒動が多発していますが、その理由が把握できていないのです。突然、夜尿症などの行動異常を示す子どももいます。子どもたちのおもちゃは……カラシニコフ銃のカートリッジなのです。

当面の懸念は?

A.現地の冬は厳しく、そのため、移動はかなり制限されています。居場所にできる家やテントが確実にあるとわかったときだけ移動している模様です。春になると人の移動が再び始まり、より多くの人がより遠くからやって来るでしょう。キャンプの数も大幅に増えることが見込まれます。

50世帯ほどだった村に、既に500世帯以上が滞在している例もあります。近いうちに、テント1000張規模のキャンプが複数必要になるかもしれません。

乾燥する夏が始まれば、給水衛生設備が問題になるでしょう。内戦が長引けば、爆撃の犠牲となった大勢の民間人が、今後も繰り返し来院することになるでしょう。

シリアの人びとを結ぶ絆とは?

A.現在のような危機に対応してきたはずの主要な人道援助団体が、今回は見当たりません。一方、国外で暮らすシリア人移民の団体から、相当の援助があります。

何よりも、国内の人びとの間の絆は非常に強いものです。住居や食べ物を進んで他人に分け与え、見返りは求めません。

私たちの駐留していた村では電力がなく、水道も機能していませんでした。発電機も故障してしまい、修理用部品も手に入りません。すると、近隣の住人が発電機とポンプを村のために提供してくれたのです。

負傷者の治療を手伝おうとする人も大勢います。また別の村には、基本的な外科処置を行っている歯科医や、15年前に受けた初歩的な応急処置の研修を思い返し、病人に看護ケアを提供する男性がいます。人びとの寛容な精神に感銘を受けています。

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