背中をワニにえぐられた少女が、奇跡的に一命をとりとめた理由

2018年06月14日掲載

白ナイル川の流域にはさまざまな動物が生息している 白ナイル川の流域にはさまざまな動物が生息している

南スーダンを縦断する白ナイル川。その流域にはアフリカ最大級の湿地帯が広がり、ワニなどの野生動物が暮らしている。長引く内戦で医療が崩壊した同国では、凶暴な動物にひとたび襲われれば、手当てが遅れ命とりになるケースも。国境なき医師団(MSF)が現地で運営する診療所には、重傷を負った患者が運び込まれることも珍しくない。同国ジョングレイ州ピボール郡では4月、ワニに襲われた少女が搬送された。治療にあたったデンマーク人看護師が、その一部始終をつづった。

ワニに襲われた少女を救ったのは……/ハイディ・ストロームショルト

MSFのハイディ・ストロームショルト看護師 MSFのハイディ・ストロームショルト看護師

無線で知らせが入りました。MSFの車が、ワニにかまれた患者を連れてうちの診療所に向かっているというのです。手足を失っているのかなど、患者の容体に関する詳しい情報はありませんでした。きっと患者は大けがを負って血だらけだろうと思いました。

ピボール郡のMSFクリニック ピボール郡のMSFクリニック

車のドアが開くと、11~12歳くらいの女の子が床に横たわっていました。ロコリという名前のその少女はお母さんと妹に付き添われ、痛がる様子もなく落ち着いていました。車内に血痕はなく、体の上に薄いスカーフがかけてあったため傷の状態も見えませんでした。

自分の足で歩けないロコリさんをスタッフが救急処置室まで運び、そっとスカーフをとりました。手足は無事で、美しい顔にも傷ひとつありませんでした。でも、背中の下のほうがえぐられ、右脚の数ヵ所をワニが噛みちぎっていたんです。本人が平静を保っていられることに驚きました。

病院のベッドに横たわるロコリさん 病院のベッドに横たわるロコリさん

医師と看護師が診察し、鎮痛薬をたっぷり打って傷口を洗浄しました。ひどい痛みに時おり顔を歪めることもありましたが、ロコリさんは一言も発さず落ち着きを保っていました。私がこれまで出会った中で一番強い女の子です。

包帯を巻き終えると「飲み水を少し下さい」と言うので水を1杯あげたところ、何度かすすっただけで、残りは幼い妹に与えました。この子の気丈さには胸を打たれました。

「どうやってワニから逃げたの?」と尋ねると、信じられない答えが返ってきました。幼い妹がワニの背中に飛びつき、姉を救ったというのです。深い絆で結ばれた姉妹にはワニも勝てなかったのでしょう。

彼女が笑顔を取り戻すまで

栄養治療食を食べるロコリさん(写真中央) 栄養治療食を食べるロコリさん(写真中央)

私は毎日ロコリさんの様子をみて、きちんと食事をとれているかチェックしていました。食べないと傷は治りませんから。こまめに包帯を取り替え、傷口が細菌に感染しないようにも注意しました。入院して2週間経ったころ、彼女が食欲を失い食事をとれなくなったことをお母さんから聞きました。そこで、高カロリーの特別な栄養治療食を用意。ピーナツバター味のペーストで、通常は栄養失調の子どもにあげるものです。ロコリさんはこれが気に入り、私に会うたび欲しがりました。

笑顔が戻るのには数日かかりました。初診の日、記録用にカメラで撮影した写真をロコリさんに見せてみたものの無反応で、話してくれるのは「足を動かすと膝下の大きな傷が痛む」ということくらいでした。

後日、携帯電話に入った写真を再び見せてみると今度はとても興味を示し、にっこりと眺めながら、現地の言葉で家族に何か話しかけていました。それ以来いつも「写真を撮って」と頼まれ、撮った写真を見せてあげていました。順調に回復しているかのように見えました。

快方に向かっていたころ、最悪の事態が

回復したロコリさん(左から2番目)とその家族 回復したロコリさん(左から2番目)とその家族

入院から2週間半が経ち、合併症もなく順調に回復してきていたころ。夜に病棟の見回りをしていると、ロコリさんが遠くを見るような目つきでベッドに横たわっていました。様子がおかしいのは明らかでした。嘔吐(おうと)し、汗が額から流れ落ちていました。39.9度の高熱でした。急いで前日に巻いた包帯を見ると、最悪の事態が起きていました。傷の一つが感染していたのです。血液に病原菌が侵入していたため、すぐに3種類の抗生物質を処方しました。その時できる唯一の治療法でした。

翌日には持ち直し、本当に安心しました。病床に起き上がって私にほほ笑んでみせ、数日後には歩き回ったり普通に食べたりできるようになりました。今では、私を見るたびに笑顔になり「元気?」と声をかけてくれます。写真を見るのも撮ってもらうのもお気に入りで、私の髪に触ったり、おもちゃ代わりに私のラジオで遊んだりしているんです。

MSFは南スーダン全域で大規模なプロジェクトを展開。2013年12月から続く紛争で避難生活を送る人びとや医療が届かないへき地に医療援助を行っている。ピボール郡で運営する診療所では外来診療と入院治療を行い、産科医療と救急医療も提供している。

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