パレスチナ:兵士が突然、家に......(下)

2013年04月09日掲載

イスラエル・パレスチナ間の紛争に加え、パレスチナ人の党派間でも暴力的な争いが絶えない現状。自宅に突然、武装兵が侵入し、家族を連れされたり家財を破壊されたりした経験を持つ人も少なくない。国境なき医師団(MSF)の心理ケア・コーディネーターであるマリア・クリストバルは、「人びとの心理的な対処メカニズムも限界に達しています」と話す。MSFは心理・社会面の支援を行う専門家チームを結成し、人びとの苦悩を少しでも緩和するために活動を続けている。

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専門的支援で苦しみを和らげる

パレスチナでMSFの心理ケア・プログラムを行っているのは、パレスチナ人および外国人の心理療法士、ソーシャルワーカー、医師などさまざまな分野で構成したチームです。心理・社会面の専門的支援を通じて子どもと家族の苦しみを和らげ、暴力の影響に打ち勝つ手助けをすることが目的です。

同時に、今後の困難に向き合う強さを養う試みもしています。人びとの生活環境は暴力と脅威に満ちており、これからも続くとみられるからです。こうした支援は、個人、家族、グループの単位で提供されています。

圧倒的な絶望感といかに向き合うか

子どもが心理ケアの一環で描いた絵では、
武装兵らしき人物に家が取り囲まれている

一方、分断されたエルサレムの東側でも同様の活動プログラムを立ち上げました。地政学的要因から争いの続く場所です。東エルサレムでもやはり、子どもたちが利権と政治的圧力で編まれた網に捕らわれ、最も弱い立場に置かれています。MSFのプログラムに助けを求めてくる若年層には、不安傷害や問題行動が共通しています。

個人の自己同一性(アイデンティティ)は、行動範囲、家族、社会的身分、尊厳などを基礎として維持されています。武力紛争によってアイデンティティーの基礎が破壊されてしまった――この現実を受け入れるには、大変な苦労や苦痛を伴います。

不安、悲しみ、罪悪感、焦燥感といった感情をMSFの患者もたびたび表します。私たちはまず、こうした感情が生まれるのは自然なことで、体験した出来事に対する当然の反応だと理解できるように患者をサポートします。それから、安全で人目に触れない空間で体験を分かち合い、苦痛を和らげるための行動療法(精神療法に対して、行動そのものを変化させることを目指す療法)の方向性を決定するのです。

パレスチナ自治区での活動は、状況が複雑なため、困難に満ちています。イスラエル・パレスチナ間の紛争に加え、パレスチナ内部でも党派間の争いがあるのです。長年の占領状態により、医療や雇用にも恒常的な影響が生じ、社会的暴力や家庭内暴力も深刻化しています。人びとの心理的な対処メカニズムも限界に達しています。現在は、圧倒的な絶望感といかに向き合うかが日々の課題となっているのです。

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