シリア:内戦下の妊産婦、そして助産師であるということ

2013年04月19日掲載

内戦が続くシリアで、国境なき医師団(MSF)は国内に3ヵ所の仮設診療所を設置し、負傷者や内戦の影響で病院に行けない人びとに治療を提供している。さらに、母子保健・産科医療を活動の一環に加えた。ベルギー出身のMSF助産師で、母子保健プログラムに立ち上げからかかわったキャシー・ヤンセンスに話を聞いた。

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母子保健プログラムの立ち上げにかかわる

私がシリアへ派遣されることになったのは、国内の仮設診療所の1つで、母子保健プログラムを立ち上げるためです。着任当時、診療所には女性の医師がいませんでした。そのため、私は幾つもの担当業務と大量の仕事に向き合うことになったのです。

着任時はまだ、母子保健の活動が始まったばかりで、物資も輸送中でした。割り当てられたスペースは、病院内の1室と医療用ベッド1台だけ。急いで、分娩台1台の調達を申請しました。

しかし、妊婦は分娩台の納入など待っていられません。病院の入り口まで来た彼女たちを追い返すわけにもいきません。正常分娩なら設備が整っていなくてもそれほど問題はありませんが、難産の場合は特殊な医療器具が不可欠になります。数週間は、その場にあるものでしのぐほかありませんでした。

必要は発明の母!点滴袋で作ったものは?

出産間近の女性を落ち着かせ、
分娩介助をするヤンセンス助産師(右)

実際、やってみれば何とかなるものだと自分でも驚いています。

一番の問題は、早産児のための特殊な器具がなかったことです。院内の寒さは凍えるほどでした。お母さんの胸の温もりが、体温低下の著しい赤ちゃんを温めるよい方法だとされています。

ですが、この方法はシリアでは普及しておらず、お母さんたちもあまり積極的ではありません。新生児の体温維持に苦労した末にひらめいたのが"湯たんぽ"でした。点滴用の袋を電子レンジで温め、小型の湯たんぽにしたのです。

間もなく、妊婦以外にも大勢の女性に治療の必要があるということがわかりました。女性の医療スタッフが来たことは瞬く間に周知され、診療所に女性が押し寄せるようになりました。

内戦が始まって以来、女性は医療を受けづらくなっていくばかりでした。周辺地域では、MSFの診療所が唯一の医療施設だったのです。来院した女性たちの多くにとって、私は助産師というだけでなく、相談相手でもありました。

診察を受けて健康上の問題がないことがわかった帰り道には、内戦が続いているものの、彼女たちの不安がいくらか和らいでいたのではないでしょうか。

女性に配慮した専用病棟を設置

内戦で医療が受けづらくなっている状況下、
MSFはさまざまな手段で援助活動を行っている

助産器具が届くと、診察室を院内の反対側の角部屋に移し、女性専用病棟を設けました。以前の部屋は救急病棟の正面にあり、プライバシー保護には適切とはいえませんでした。救急病棟は男性の出入りが多いため、女性の患者は落ち着かないのです。

部屋を移動したことでプライバシーの問題は解消されました。診療環境が大幅に向上されるとともに、救急医療のためのスペースもわずかながら拡大しました。

女性専用病棟では、患者と医療スタッフとの交流は飛躍的に進展しました。女性たちは目だけを出した"ブルカ"姿で来院します。しかし、診察室に入ると重ね着した衣服を脱ぎ、打ち解けた様子を見せるのです。

私がまた新たな任務でシリアに戻りたいと思う理由の1つが患者との交流です。それは素晴らしいものでした。

日勤・夜勤が連続する日々

交流は楽しいものでしたが、仕事はやはりとても大変でした。夜間に出産する女性も多く、日勤シフトのあとに夜勤シフトが連続する状況が"普通"になっていました。

日中の時間の多くを診察に当てていましたが、分娩介助に呼ばれることもしばしばでした。シリア人の助手2人が私を支えてくれましたが、医学的知識はないため、専門的な助産技術など望むべくもありません。

2人にはたくさんのことを初歩から教えなければなりませんでした。診察も分娩も2人に任せきりにはできません。常に診察に立ち会いながら、陣痛の始まった女性がいるという連絡を受けるたびに診察室を飛び出し、また戻ってくることの繰り返しでした。

そういうわけで、仕事量は多く、疲労困憊しました。それでも、何かしらのことが原動力になるものです。女性たちからは大いに感謝され、抱きついてきて繰り返し「ありがとう」と言われました。

幼い子どもたちが犠牲となる現実

一方、子どもが救急病棟に送られるときは胸が痛みました。2~3歳の幼い子どもが激痛のうちに亡くなっていったり、けがで障害が一生残ったりするのです。罪のない幼い子どもたち……。紛争悪化の影響だとすれば、なおさら受け入れがたい現実です。

それでも、また機会に恵まれれば、私は喜んで赴任するでしょう。MSFでの仕事は、意味があり、素晴らしい活動です。運営チームも素晴らしい人びとです。

MSFは現在も、私が活動していた診療所を拠点に、活動を拡大中です。その結果、治療を受けたシリアの人びとから、尽きることのない感謝の言葉を贈られています。

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