ゴミ袋の小屋で暮らす人たち――MSF医師が見たロヒンギャ危機

2017年11月22日掲載

重い下痢がロヒンギャの子どもを襲う 重い下痢がロヒンギャの子どもを襲う

国境なき医師団(MSF)はミャンマーからバングラデシュに逃れたロヒンギャ難民への緊急援助を広げている。このプロジェクトで医療活動マネージャーを務めるオーストラリア人医師、エヴァン・オニール(救急・小児科医)は「心の傷が刻まれた顔には表情がない」と報告する。

排泄物に座る女の子

汗が滴り落ちないように注意しながら、そっと手を差し伸べ、発熱した子どもの脈をとるMSF医師。MSFのロゴ入りTシャツの色あせた白と、母親のニカブ(イスラム教の女性用ベール)とのコントラストが鮮やかだ。背筋をまっすぐに伸ばして腰掛ける姿は、この診療所を支えているしなやかな竹のようだった。

竹材を組んだウチパラン診療所で母子を診察する地元医師 竹材を組んだウチパラン診療所で母子を診察する地元医師

女の子の脈は速いものの、微熱があるうえ、地元ベンガル人医師に外国語でゆっくりと話しかけるオーストラリア人への恐怖心を考えれば、速すぎるということはなかった。

女の子はぽろぽろと涙をこぼしながら、ぽってりとした唇で経口補水塩(ORS)をおいしそうにすする。ORSは、やっかいな下痢の苦痛を和らげてくれる。この子が身もだえし、地元医師は安心した。深刻な脱水症ならこんな風には泣けないからだ。女の子がぴちゃぴちゃ音を立てるのを見て私はほほ笑み、医師は聴診器に手を伸ばした。

まず肺の音を聴くために触診を始めると、女の子はびっくりして、まぶたをさらに涙で濡らした。医師が腹部を優しくひと押しする。どんな便が出ているか尋ねる必要はなかった。部屋の反対側にいる私にも見えるからだ。女の子は排泄物が溜まった中に座り、その下に敷かれたカラフルで柔らかな布がお尻を覆う。私は汗を拭こうととっておいた予備のタオルをその布の代わりにと差し出す。お母さんはそれを丁重に断り、毅然と布をたたむ。

これ以上の説明は控えたいと思う(医師なら、“本日の一皿”を説明するウェイターのようにうんちを饒舌に説明できるのだけど……)。重症患者は道の向こうにあるMSFの入院施設に引き継ぎ、胃管や静脈注射で補液をすることになっているが、幸いこの子を搬送する必要はなかった。通訳を介した簡単な会話でも、今日診た中では軽めの症例だと分かった。

ひどい下痢が続く間の体力維持に必要なORSだけを処方し、今後は飲用水も届ける予定だ。回復するためには清潔な水が欠かせない。あふれた仮設トイレがあるような不衛生な場所でくんだ水にORSを溶かしても効果がないのだ。

MSFはこの小さな診療所で、今日もきっと大勢の患者を診察する。「きゃあきゃあ」「うーうー」と声を上げながら笑う赤ちゃんを迎えることは私たちスタッフの楽しみだ。

しかし、ごろごろという声しか出せない子がいたら、スタッフはすぐに動かなければならない。大勢に対応し、必要なものを配ることは、短距離走のようなもの。下痢がまん延し、ほとばしる排泄物は過酷な境遇を映し出す。ここではこれが即座に命取りになりかねない。

虚空を見つめる人びと

何十万ものロヒンギャの人たちが住まいを追われた。地元住民の理解もあり、難民はバングラデシュ南部の町はずれに滞在している。創意工夫を凝らして竹を見事に扱い、母国オーストラリアではゴミ袋として使うようなビニールをかぶせて仮設の小屋を建てる。そして、まるでフットボールリーグの優勝決定戦に立ち並ぶファンのように、米などの必需品の配給に辛抱強く列を作る。

しかし、そんな粘り強さでキャンプを建てている間、虚空を見つめている。遠くを見やり、心の傷が刻まれた顔には表情がない。行列に並ぶことは感情のはけ口でもあるのだ。

朝、MSFスタッフが診療所に到着すると、蒸し暑い中100人を超える人びとが粘り強く待っていた。救急患者をより分ける。残念ながら、数が多過ぎて全員は診ることができず、待てる人には翌日まで待ってもらうほかなさそうだ。刻一刻と変化する状況にあっても、清潔な水や衛生的な環境が整えば多少は安定するだろう。膨大なニーズへの対応は、今ようやく始まったばかりだ。

ロヒンギャ危機に対応中の筆者 ロヒンギャ危機に対応中の筆者

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