バングラデシュ:「1歳の娘の目の前で殴られ......」命をつなぐカウンセリングの現場から

2017年10月24日掲載

「夫に何度も殴られたのに、尽くしました」。MSFの女性クリニックを訪れた患者、サリハさんの言葉だ。

国境なき医師団(MSF)はバングラデシュの首都ダッカの南部にあるスラム地区で、女性を対象に診療とメンタルケアを提供するクリニックを運営している。カウンセリングは、性暴力やドメスティック・バイオレンスの被害者にとって、ときに命綱になる。

サリハさんが自身の壮絶な体験を語り、声を上げる大切さを訴える。

幼少期から続くDV。学校もやめさせられ……

子どものときからこの町に住んでいます。ここの暮らしは嫌いです。汚くて、埃っぽくて、臭いから。

人生はずっと、つらく苦しかった。父は暴力的で、私をしょっちゅう叩きました。「どこへ行くんだ? 誰と? 誰と話している?」。いつも疑い深く、母に対しても、他の人に話しかけただけで、殴っていました。

私は既婚で、夫は私を愛しています。他の人みたいに酒を飲むこともないし、悪い人ではないんです。でも、些細なことで怒り、理由もなく叩きます。

結婚当初、私はまだ学生でした。夫は、学校を続けていいと言っていました。でも、授業が始まると夫は私の兄たちに何度も電話をかけて言いました。「あいつは1日中、学校にいるぞ。役立たずだから、そちらに連れて帰ってくれ」。それで、退学するよう兄に言われたんです。本当にショックでした。私は学ぶことが大好きで、勉強を続けたかった。

最初は反抗しました。家を出て、別々に暮らし始めました。でも、兄たちから家に帰るよう諭されました。夫のことを穏やかな人だと思っていたのです。家庭内での彼の言動について話したことはなかったので。

私は夫の元へ戻りました。何度も殴られたのに、尽くしました。言いなりだったんです。身の回りの世話をし、家事をこなす一方で、精神的なプレッシャーにさらされ続けていました。

ダッカ南部のスラム。活動を伝えるため、MSFスタッフが足を運ぶ
ダッカ南部のスラム。活動を伝えるため、MSFスタッフが足を運ぶ

暴力はエスカレートする

夫はいつも叩き、ののしりました。腹を立てると、家の外に私を放り出しました。午前3時に閉め出されたことも……。泣きながら懇願し続け、ようやく家に入れてもらえました。

睡眠薬を飲んだり、手首を切ったり、首つり自殺を試みたりするようになりました。結婚生活が原因であることは両親に伏せていました。彼はたいてい「悪かった」と後から謝ってきました。そうして時が過ぎていきました。

1人目が生まれた後、夫の両親と同居し始めました。姑は私の長所には目もくれず、欠点ばかりを見つけて指摘してきました。息子に対し、妻にきちんと接するように教えたこともありませんでした。口に出すのもためらわれますが、義母は私が食事をとることすら許しませんでした。義父が市場から持って帰ったたくさんの食べ物を、義母は私に見られないよう隠していました。

カウンセリングをするMSFの臨床心理士
カウンセリングをするMSFの臨床心理士

記憶障害を発症。無理心中が頭をよぎり……

初めてクリニックに来たとき、私は激しい体の痛みを抱えていました。夫にひどく殴られて、歩くのもやっとでした。診察と治療を受けて薬をもらいました。2回目の診察で、私の抱えている問題について聞かれました。そのときは家族のプライベートについて他人に打ち明ける気にはならず、「もうここには来ません」と言いました。

でも家に帰れば重圧にさらされ続け、そのせいで何もかも忘れるようになってしまいました。5分前に起きたことも忘れる。携帯を置いた場所すら覚えていない。さらに症状が悪化して、子どもの食事も忘れてしまうほどでした。精神状態は悪くなる一方でした。

ある晩いつものように夫から殴られている最中、「わが子を殺して、自分も首を吊ろう」と思いました。もう生きていけない。こんな残酷な人たちのところに子どもを残していけない。実の両親に託すこともできない。子どもと一緒に死ぬのがベストな選択肢に思えました。

ここで暮らしている限り、状況は変わらないことに気づきました。まともな治療を受けに行かなければ、さらに問題は深刻になる。

精神的トラウマを治療するため、このクリニックに通い始めました。毎日のけんかを克服するための勇気をもらい、今は心が軽くなりました。夫の虐待にどう対処すればよいかを学びました。抗議することを学びました。もう虐待されることはありません。

夫と別れたらどうなるのだろうか、実の両親がかくまってくれるだろうか、といった不安は今、ありません。職を持ってお金を稼いでいますし、夫と別れても問題ありません。

このクリニックには本当にお世話になりました。お金では全てを解決することはできません。ここで治療を受け、私の抱えていた問題を解決できました。

周りの人にも、ここへ来るよう勧めています。私が住む地域やその周辺で暮らす女性の大半は毎日夫に殴られ、ドメスティック・バイオレンスの被害を受けています。

心理ケアのグループセッションを受ける若い女性
心理ケアのグループセッションを受ける若い女性

前を向いて生きていくために

過去に起きたことを忘れようと努力しています。ただ全てを忘れたい。でなければ前に進めないから。

夫に夢中だった時期もあったけれど、そんな気持ちはもう消え去りました。私は、娘たちと自分自身の人生を生きていきます。娘たちには、いい人生を送ってほしい。

夫は、子どものいる前で私を叩くのが常でした。顔を平手打ちされたとき、まだ1歳だった娘は、私の顔をじっと見ていました。そして、ぶたれて泣いていた私の涙を、小さな手で拭ってくれました。「こんなに幼いのに……」と胸がすごく痛みました。大きくなったとき、この子は何を知ってしまっているのだろう。私の子ども時代と同じように育つのだろうか。子どもたちには、あの雰囲気の中で育ってほしくない。

バングラデシュでは、女性は結婚したら実家に戻れず行き場がない、だから辛くても耐えなければならないと言われてきました。

私は違うと思います。女性たちは闘う力を持っている。なぜ夫たちの横暴や抑圧を黙って我慢しなければならないのか? なぜこの理不尽な状況から脱け出さないのか?

女性の考え方を変えることはとても大切です。男性は女性を支配し、女性は男性からの迫害を黙認している。女性は前に進み出て、力を男性に見せる必要があるのです。

  • 患者のプライバシー保護のため、詳細を一部変えました。

ダッカ南部のスラム地区、カムランギルチャルのウィメンズ・クリニックでは、性暴力や親しいパートナーからの暴力被害者に医療と心理ケアを提供している。2016年だけで535人の患者を治療し、2017年は診療数が増えている。

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