バングラデシュ:「このままでは数万単位の命が失われる」......MSF日本会長が見たロヒンギャ難民50万人の危機

2017年10月24日掲載

国境なき医師団(MSF)の日本会長、加藤寛幸は、難民問題が深刻化した2017年9月からバングラデシュ入りし、ロヒンギャの避難所を調査。10月1日に南東部コックスバザール近郊のマイナーゴナで診療所を開設し、暴力から避難してきた人びとを治療してきた。加藤会長が目撃したロヒンギャ危機とは――。

患者数は増える一方

クリニックで子どもたちを診察する加藤会長(右から二人目) クリニックで子どもたちを診察する加藤会長(右から二人目)

MSFはクトゥパロンとバルカリの2大難民キャンプに新たに診療所を増設すると同時に、バルカリに新しい入院病棟の開設準備を進めていました。そのすぐ南にあるマイナーゴナというキャンプで私たちのチームが外来診療をスタートしたのが10月1日です。1日目は170人、2日目が200人、3日目は240人、4日目は300人…と患者数は増え続ける一方で、さらなる受け皿が必要とされています。

難民キャンプで活動できるのは日中だけに限られています。そのため、明るいうちに活動を終えられるよう、夕方4時前になると待っている人たちをトリアージ(※)し、重症患者以外にはチケットを配布して翌日来てもらうようにしていました。制限がなければ、もっと多くの患者を診ることができたでしょう。マイナーゴナの人口は約7万人と言われていますので、潜在患者数は非常に多いと考えられます。

現地には、バングラデシュのNGOによる小さな診療所が散在していますが、入院できる施設は非常に限られているため、30~50床を備えた入院対応が可能な病院を設置すべく準備を進めています。

  • 重症度や緊急度などにより治療の優先順位を決めること

感染症の大流行がすぐそこまで迫っている

難民キャンプのテントで眠る幼い子ども 難民キャンプのテントで眠る幼い子ども

現地に到着した当初、MSFの移動診療所を受診する重度の栄養失調の子は必ずしも多くありませんでした。それがここ2~3週間で急速に栄養状態が悪化してきているのを感じます。10月1日にマイナーゴナに診療所を開設して以降、連日、急性重症栄養失調の子どもたちが診療所に連れてこられていました。私たちのチームでは、今後の状況の悪化に備えて入院栄養治療プログラムの準備も進めています。

バングラデシュ軍などが、国際機関や援助団体から届いた支援物資をトラックで搬送していますが、未曾有の事態ということもあり、効率的でスピーディな配給をまだ模索している印象を受けました。配給物資が絶対的に足りていないのと同時に、流動する難民に偏らないように配給することは至難の技でしょう。

水やトイレ、食糧は圧倒的に足りません。難民キャンプ内に井戸を掘り生活用水をまかなってはいるものの、浅い井戸が多く、汚水等による感染がとても心配です。

人口が非常に密集していて、患者を隔離することもできません。このような状況では、いつ爆発的な感染症流行が起きてもおかしくない。MSFは疫学的調査の専門家も派遣し、ブロックごとにアンケート調査を実施しながら状況把握を急いでいます。

急増する難民に支援が追いつかない

雨が降ればぬかるみと化す厳しい環境 雨が降ればぬかるみと化す厳しい環境

現地では国際NGOの調整に最大限の努力を払っているようですが、必要とされている支援はあまりにも大きく多岐にわたっており、また、援助に入るNGOの数が多いこともあり、迅速かつ適切な調整は難航しています。そのため、大規模援助がなかなか実現していないのが実情です。医療ニーズがそこにあって、気持ちばかりは焦るのに、活動を加速できないというジレンマがありました。

ワクチンに関しては、バングラデシュ政府が認可した国産の製剤もしくはWHOから提供されたものによって接種率向上が計られていますが、50万人を超える新たな難民に接種を行うには莫大な人材とロジスティクスが必要です。MSFも接種率向上のために支援していますが、求められるだけの接種率の達成は困難であろうと予想されます。

このままでは、はしかや重篤な下痢症などの命に関わる感染症が大流行する可能性が高く、そうなれば、数万人単位の命が失われることになっても不思議ではないでしょう。

日本社会からも後押しを

バケツやかめを持って水を汲みにいく子どもたち バケツやかめを持って水を汲みにいく子どもたち

MSFは、ミャンマーで長年ロヒンギャの人びとに対する援助活動を続けてきましたが、今年の8月中旬以降、スタッフの立ち入りが制限され、現地での活動を停止せざるを得ない状況に追い込まれました。結果として、ミャンマーでいま何が起きているのか知る術はありません。しかし、立ち入りが制限されている地域で医療へのアクセスを奪われた数多くの人たちがいることは間違いありません。

医療を受けられない状況がずっと続き、バングラデシュに避難してきたときには重症化している患者さんを難民キャンプで数多く目にしました。ミャンマーで活動することが、バングラデシュに避難してきた人たちへの援助にもなる。

一刻も早くラカイン州へ入り活動再開できるよう、国際社会に対して求めていく必要があると私は考えています。

また、バングラデシュやミャンマーにおけるロヒンギャの問題が日本のメディアで取り上げられる機会が激減していることも大変危惧しています。2014年のエボラがそうであったように、多くの命が失われてから慌てるのではなく、取り返しのつかない悲劇が繰り返されないよう、今もっと関心を持ち、できる限りの支援のためにお力をお借りできたらと心から願っています。

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