シリア:空爆の翌日、破壊された病院で、それでも院長は世界に呼びかける

2017年10月03日掲載

病院を撃つな!」――国境なき医師団(MSF)の訴えをかき消すように、シリアでまた、病院への空爆が強行されました。9月26日明け方、MSFが医薬品・医療物資を送っていたハマー中央病院が破壊されたのです。周辺の医療施設が次々に破壊され、攻撃を免れた施設も休業に追い込まれた中での暴挙です。

2年前の2015年10月3日。MSFは団体史上、最悪の事態に襲われました。アフガニスタンのクンドゥーズ州で運営していた外傷センターが爆撃で完全に破壊されたのです。患者・スタッフの犠牲は42人にのぼりました。

MSFは世界各国の事務局を通じて、あるいは国連の議場で、紛争下の医療活動を守るように訴え続けてきました。それでも繰り返される悲劇。9月の攻撃で破壊されたシリアの病院の院長が、空爆の翌日、心境を語りました。

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地域で最後の病院が……

2011年から内戦が続くシリア 犠牲者大半は民間人だ (2017年7月撮影) 2011年から内戦が続くシリア
犠牲者大半は民間人だ(2017年7月撮影)

9月26日午前6時半ごろでした。地下にある病院やその周辺にミサイルが3発撃ちこまれました。そのうち1発の爆弾が病院の最上階から最下層まで突き抜けました。医療機器を破壊し、手術室、レントゲン室、集中治療室が使えなくなりました。

いつかまた攻撃されることは予想し、対策もしていました。1週間前から周辺の医療施設への攻撃が増え、3つの病院が破壊されたからです。

他の病院は爆撃を恐れて休業し、私たちの病院だけが患者を受け入れていました。その病院が機能を失ってしまいました。再建しなければなりません。各団体に復旧支援をお願いしています。

私たちを突き動かすもの

シリア北部、ラッカ市内の通り 武装勢力間の戦闘でがれきの山となった(2017年7月撮影) シリア北部、ラッカ市内の通り
武装勢力間の戦闘でがれきの山となった
(2017年7月撮影)

爆撃される前の数日間、多くの患者が同時に運ばれてきていました。シリア中部にあるカラート・アル=マディクの町への攻撃が始まった日には、一度に60人、翌日も一度に50人の負傷者を診ました。

最年少は1歳ぐらい。最年長は70歳代。空爆の標的に年齢も性別も関係ありません。私たちはこうした緊急対応の経験を積んでいます。この時も直ちに、助かる患者と助からない患者のトリアージ(※)をしました。

当直スタッフ30人で負傷者50人を受け入れる――これがどれほど大変な仕事か想像できますか。理論上では、スタッフ150人が必要です。

疲れ果ててしまっても仕方がない状況。でも、命を救っているという事実が、私たちを突き動かしています。患者を救えたと実感したとき、私たちは胸をなでおろし、喜べるのです。

医師や看護師だけでなく、病院の全スタッフの共通した思いです。命を救うという行為は簡単ではありません。

  • 重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること。

5年間で10回もの爆撃に

シリアでは病院爆撃が繰り返されている 2016年にはアレッポ市内の外科病院も破壊された シリアでは病院爆撃が繰り返されている
2016年にはアレッポ市内の外科病院も破壊された

この病院は2012年に開業しました。以来、10回以上も爆撃されました。

ハマー市郊外で開業した当初は、手術室と回復室が1室ずつの小さな施設でした。先進的というわけでもなく、地元からの出資と支援で運営されていました。砲撃や爆撃で傷ついた人びとを治療することが目的でした。そんな病院がロケット弾で2回も攻撃され、2013年には破壊されてしまいました。

スタッフをまとめてどこかに移さなければならなくなり、新しい病院を立ち上げました。規模を広げ、複数の専門外科を置きました。大勢の患者が押し寄せても対応できるようにしたのです。

ところが、ここも3回も攻撃されました。2014年の空爆ではついに、施設全体に大きな被害が出ました。

私たちは洞窟に移り、治療を再開しました。そこでMSFの支援を受けるようになりました。地元の医療者たちは、"洞窟病院"で治療を続けつつ、よりよい医療施設を設けようと意欲を燃やしていました。土地を購入し、複数のNGOの支援を受け、着工までこぎつけました。地下3階建ての"地下病院"で、一般的な機能をすべて備えていました。

地下病院での治療は半年以上続きました。患者数は月平均で6000人、手術は500件でした。目、骨、心臓などあらゆる種類の手術をしていました。

ところが、この病院も2016年の空爆で破壊されてしまいました。復旧作業の間、元の洞窟病院へ戻ることになりました。

その洞窟病院がまた攻撃されたのです。スタッフ1人の命が奪われ、修復中の地下病院に引き返すことになりました。

そして今回、その病院がまた破壊されたのです。

院長として最も大切な2つのこと

院長としてとても大切なことが2つあると考えています。患者を受け入れて確実に治療すること、そしてスタッフを守ることです。

この地域では、医療サービスも医療インフラも非常に限られています。以前からそういう状況でした。そこへ内戦が起き、医療が極端に手薄になっています。

ここ数ヵ月は医療者がどんどん地元を離れ、見通しが立たなくなっています。全ては政治と内戦の行方次第です。私たちの務めは、できるだけ患者の治療を続けることです。

こうした状況だからこそ日ごろから準備し、スタッフ全員の意欲と覚悟を保つことが重要になります。緊急事態に呼び出せるように連絡網を作っておき、平時は仕事が終わるとすぐに帰しています。病院内に長時間いることはもはや安全とは言えなくなってしまったからです。

首都近郊のある病院ではたった1人の外科医がYouTubeを頼りに手術を続けた(2017年3月時点)

内戦の第1の犠牲者は"子ども"

がれきと化した町で赤ちゃんを抱く少女 彼女の自宅は撮影場所のすぐそばだ(2017年1月撮影) がれきと化した町で赤ちゃんを抱く少女
彼女の自宅は撮影場所のすぐそばだ
(2017年1月撮影)

空爆を停止する協議が進むことを望んでいます。

私はまだ希望を持っています。「希望のない人間とは何者だ?」という言葉があるように、こんな場所にさえ希望はあります。ただ、誰もが苦しくつらい状況です。考えることといえば、どうやって"死"から逃れ、生きのびるかということばかりです。

世界に何を呼びかければよいのか……これまでもずっと、何度も呼びかけてきましたが、何も変わっていません。

シリア内戦の第1の犠牲者は子どもで、第2の犠牲者は民間人です。この戦争を止めてください。私たちに普通の生活を送らせてください。

シリアでの活動概要

MSFはシリア北部で4つの医療施設と、移動診療を行う3チームを運営している。また、パートナーシップを結んでいる施設が5ヵ所、遠隔で支援している施設が73ヵ所ある。支援している施設がある地域には、MSFが直接入れないところが多い。

活動はいずれも過激派組織「イスラム国」の支配地域以外でしている。イスラム国側からは安全性と公平性について確約が得られていないためだ。また、シリア政府の支配地域でも活動許可が下りず、現地に入れていない。

なお、活動の中立・独立・公平性を保つため、シリアでの活動は、いずれの政府からも資金を受けていない。


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