シリア:MSF日本の黒﨑会長、現地での援助活動を報告

2013年05月22日掲載

国境なき医師団(MSF)日本は、2013年5月21日、シリア国内での活動を終えて帰国したMSF日本会長の黒﨑伸子(外科医)、沢田さやか(ロジスティシャン)、白川優子(手術室看護師)による記者報告会を開催。参加した報道関係者(約20人)に、日々の活動の様子や患者が置かれている状況などについて報告した。

MSFは現在、北部イドリブ、アレッポ、ラッカ、ハサカ各県で合計5ヵ所の病院を運営している。政府認可は得られていないが、緊急援助の必要性が高いと判断したためだ。2013年4月末までの、救急・外来診療件数は3万7400件で、そのうち外科手術は2095件だった。また、内戦の影響で病院に行けない人びとが多数いるため、予防接種(8527件)や分娩介助(749件)なども提供。活動内容を拡充している。さらに、シリア周辺国に滞在している難民のへの援助活動も行っている。

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忘れられない女の子――黒﨑医師

MSF日本会長の黒﨑伸子(外科医)

黒﨑医師は2013年4月~5月にかけ、イドリブ県の病院で活動した。銃声が昼夜を問わず聞こえ、ヘリが飛び交う状況。大半が爆撃などの外傷患者で、毎日数例~数十例の手術を行った。武装兵が運び込まれて来ることもあったが「患者とスタッフの安全を守るため、病院内への武器持ち込みは固く禁止していました」と話す。

宿舎では1室を4~5人で共有し、夜中でも呼び出しに応じてかけつける日々。中でも、生後4ヵ月の女の子の患者が印象に残っているという。爆撃で右足に大けがを負い、搬送されてきたときにはすでに血の気がなかった。しかし、近くによると呼吸をしている。すぐに緊急手術を開始した。女の子は右足を失ったものの、一命を取り留めた。

黒﨑医師は「両親は同じ爆撃で亡くなったそうです。それまで母乳で育っていた子だったらしく、MSFの病院で初めて哺乳瓶からミルクを飲んだのですね。手術から3日後ぐらいだったでしょうか。にこにこと笑っていました……」と振り返る。

若者たちの絶望――白川看護師

白川優子(手術室看護師)

白川看護師の活動地もイドリブ県だった。時期は黒﨑医師より早い2012年9月~12月。医療スタッフが不足しており、手術室の経験が少ないシリア人スタッフを研修しつつ、手術室の管理・運営や病棟との連携も担当する忙しさだったという。

病院には内戦で負傷した若者が何人も搬送されてきた。白川看護師は「アレッポの大学で勉強していた若者が、夢を絶たれてベッドで絶望している姿を何度も見ました。ベッドで意識が戻った時の第一声は『家族はどうした、友人はどうした』。自分だけが助かったことを知った人も少なくありません」と話す。子どもだけが運ばれてくることも多く、名前も年齢もわからないまま手術をしたケースも多かったという。

情勢悪化で一時撤退――沢田ロジスティシャン

沢田さやか(ロジスティシャン)

一方、沢田ロジスティシャンは、2012年12月~2013年2月にアレッポ県で活動。学校を改装した病院での医療提供や、避難民キャンプでの衛生改善などを行った。ロジスティシャンとは、物資の確保・管理・搬送、衛生システムの構築、チームの安全管理など技術・運営面で医療活動を支える役職だ。

活動地は前線地帯に近く、毎日のように空爆が聞こえた。日中の移動は2人以上、夜は車での移動が義務づけられていた。病院が標的にならないように屋根をオリーブの木で覆い、窓ガラスにプラスチックシートを張って保護する対策も行った。

しかし、情勢は次第に悪化。晴天時の空爆だけでなく、曇天・雨天時にはミサイルが飛び交うようになった。2012年12月末、医師・看護師など数名を除く外国人スタッフに国外退避の指示が出され、周辺国を拠点にして活動を続ける体制に変わった。

沢田ロジスティシャンは「現地スタッフとの信頼関係ができつつあった中、彼らを残して周辺国に撤退せざるを得ない状況につらさを感じた」と振り返る。情勢はさらに深刻化し、2013年1~2月には、MSF病院の近くにミサイルが着弾する事件が3回起きたという。

過酷な状況下で助け合う人びと――国際社会の後押しが急務

シリア国内のMSF病院の手術室

こうした過酷な状況は現在も続いている。ただ、人びとは助け合って困難を乗り越えている。白川看護師は、血液確保をその一例に挙げる。

活動地では一般的に、輸血用血液の確保が難しい。特にシリアは、国内唯一の血液バンクを政府が管理しているため、さらなる困難が予想された。しかし、実際には、MSFが輸血用血液の入手に困ることはなかったという。白川看護師は「近隣住民や避難者が積極的に献血に応じてくれたためです」と説明する。

黒﨑医師も「近隣の病院や医療従事者との連携が進み、患者の容体に応じて役割分担するなどのネットワークができています」と話す。ただ、シリア国内と周辺国にあるシリア人難民キャンプにおける緊急援助のニーズは依然として高い。黒﨑医師は「市民の医療ニーズに対応するには、シリア全域に公平な援助を届ける人道援助提供者の能力拡大と、国境および戦線をまたぐ国際援助に対し、国際社会が後押しをしていくことが急務となっています」と訴える。

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