ベラルーシ:「チャンスは一度きり」。患者が命を託した最後の希望とは......

2017年09月25日掲載

2年にわたる闘病の末に超多剤耐性結核となったユーリさん。MSFの治療を受け、1年かけて病気を克服した。 2年にわたる闘病の末に超多剤耐性結核となったユーリさん。
MSFの治療を受け、1年かけて病気を克服した。

ミンスク市中心部にある、大きな公園。夏の強烈な日差しが照りつけるが、ユーリさん(38歳)は分厚いジャケットを脱ごうとしない。

「そよ風で風邪をひくのではと心配なんです。馬鹿みたいかもしれないけれど……」

ユーリさんは、ベラルーシで国境なき医師団(MSF)が運営する結核プログラムで治療を終えた最初の患者だ。公園で遊ぶ子どもたちの声で時折さえぎられながら、私たちは川の横にあるベンチに腰掛けて話をした。

「この治療は僕に残されたラストチャンス。だから自分の健康を気遣って、この"ラッキー"な機会を無駄にしないと心に決めたんです」

風邪のはずが……

2013年。ユーリさんの病気が見つかった。

「なぜか食欲がなくなり、力が出なくなりました。体重が落ち、周囲からも『やせたね』と言われました。発熱し、風邪だと思って総合病院に行きました。レントゲン検査の結果、肺に開いた小さな穴が見つかりました」

そこでこう告げられたという。「何の病気だか分かりますか?あなたは疑い例です」

ユーリさんはここで会話を止めた。結核という言葉を避ける。病気が分かって以来、人前で話すのを怖がる。自分自身の命や健康状態というよりも、他人の反応が気がかりだった。

「全てが終わったと思いました。世間に病気のことが知れたら、差別されます。入院してからもずっと病気のことは伏せ、もしもの時は、家族が検査を受けられるように、家族だけに自分の状況を伝えていました。何があるか分かりませんから……」

薬が効かない……

治療開始から1年。最初の治療が失敗に終わった。ユーリさんの結核は、市販の医薬品に耐性があったのだ。

「20錠もの薬を出されたときには、目の前が真っ暗になりました。大量の薬を1度に飲めば、すごく気分が悪くなるのは言うまでもありません。吐き気がして力が入らなくなり、いつも気分が悪い状態です。こう感じたのは僕だけでなく、他の患者も同じでした。朝に薬を飲んだ後は、夕方まで誰にも会えません。皆ベッドで横になっているからです。あちこちで患者が吐き続けます」。ユーリさんは話を続ける。

検査で「結核菌ゼロ」と診断され、回復の兆しが見えても、数ヵ月後には再び陽性反応が出た。

望みを失いかけていたとき、担当医師からMSFの新しい治療プログラムの話を聞いた。2015年夏から開始したこのプログラムは画期的な結核の薬を用いている。endTBプロジェクトが提供する新薬だ。ユーリさんはすぐに参加を決めた。

唯一の治療法に望みをつないで

半世紀ぶりに開発された薬剤耐性結核の新薬「ベダキリン」 半世紀ぶりに開発された
薬剤耐性結核の新薬「ベダキリン」

このとき、闘病生活は既に2年にわたり、超多剤耐性結核(XDR-TB)を患っていた。結核治療に用いられる2種類の薬のいずれにも耐性ができているため、治療は長く困難だった。

「主治医は『チャンスはこれきりだ』と言いました。病気が進行し、肺の穴も広がってきていたのです。既存の薬は効かず、容体は悪化する一方でした」

治療が始まった。「ポート」という装置を皮膚の下に埋め込み、連続して静脈注射する。ベダキリンなど数種類の薬だけで、容体はすぐ快方に向かった。

「検査やレントゲンの結果には看護師や医師も『すごい、素晴らしい!薬がとても効いているね』と驚きました。抜群の効き目でした。10月の検査では『結核菌ゼロ』。異常なしでした」

ユーリさんのように選択肢が尽きた患者には、新技術と医薬品の併用がもっとも有効な治療法だ。場合によっては、これが生死を分かつ。

「この治療を受けなければ、今ここでこうやってお話していることもなかったでしょう」。ユーリさんは淡々と語る。「2年もかかる治療は消耗します。でも何とかなりました。救われたことに感謝しています」

結核治療に新たな光

MSFのミハイル・クミズ医師(右)とソーシャル・ワーカーのロマン・クチコ。 MSFのミハイル・クミズ医師(右)と
ソーシャル・ワーカーのロマン・クチコ。

「MSFのプログラムは最も治療困難な状態に進行した結核患者を対象にしています」。MSFのミハイル・クミズ医師は話す。「治療に何度も失敗した結核患者には、体内の菌株が市販薬への耐性を獲得し、超多剤耐性結核(XDR-TB)が起こります。この患者にとっての最後の希望が、約50年ぶりに開発された結核新薬であるベダキリンとデラマニドなのです」

グローバルファンド「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」による資金援助のおかげで、2015年半ば以降、ベラルーシ保健省はこれらの結核新薬をかなり自由に使えるようになった。だが、治療が必要な人全員には行き渡らず、医師は厳しい選択を迫られることになる。

世界保健機関(WHO)が発行した『世界結核報告書2016(Global tuberculosis report 2016)』によると、ベラルーシは多剤耐性結核(MDR-TB)が広くまん延する国にランクインしている。MSFは4ヵ所の結核治療施設で保健省を支援し、低減に向けた取り組みを続ける。毎月約70~75人の患者が、カウンセリングといった心理面の支援や、ソーシャル・ワーカーによるサポート、食べ物や乗車券といった、社会面の支援を受けながら治療中だ。「endTBプロジェクト」は世界15ヵ国、MSF、国際保健医療団体「パートナーズ・イン・ヘルス、インタラクティブ・リサーチ・アンド・ディベロプメント」と資金拠出機関「UNITAID」で結ばれたパートナーシップ。より毒性が低く、有効性が高い結核治療薬や治療法を目指している。MSFが治療した患者のうち、endTBプロジェクトから供給された結核新薬を投与されたのは60人ほどに上る。

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