コロンビア:「このままでは自殺するしかなくて......」無料電話がつなぐ命がある

2017年08月23日掲載

ブエナベントゥラの住民の多くが暴力の被害を受けている ブエナベントゥラの住民の多くが
暴力の被害を受けている

「暴力は伝染する」。そう語るのは国境なき医師団(MSF)の心理療法士ブリリト・マルティネス。コロンビアの港町ブエナベントゥラで活動する。

子どもたちの住むところ。殺人は日常だ

治療セッションで少女と対話する心理療法士ブリリト・マルティネス 治療セッションで少女と対話する
心理療法士ブリリト・マルティネス

私がMSFの心理療法士としてブエナベントゥラで働き始めたのは1年半前です。内戦そのものによる暴力以外の影響、いわゆる「その他の暴力的状況」の影響に取り組むことが目的でした。

犯罪組織による住民の強制立ち退き、失踪、殺人、性的虐待、都市の暴力――。内戦の残した傷跡の一部です。

ある日、ブエナベントゥラのMSF事務所に、女性が3人の息子たちを連れてきました。三男もう3年も学校に通っていませんでした。長男が望むのは、銃を手に入れてどこかの武装勢力に加わることだけ。次男はしょっちゅう物を盗み、民家に侵入して目についた物を手当たり次第に奪ったり、近所の子どもの持ち物を取って帰ってきたりしていたのです。そして、母親は明らかに抑うつ状態でした。

母親が話を続けるうちに、一家が3年前に住まいを追われていたことがわかりました。末っ子が学校に行っていない期間と同じだけの年数です。

その後、一家は「カサ・デ・ピケ(切り落としの店)」と呼ばれる場所で生活していました。失踪者が連れ込まれ、殺害されたり、手足を切り落とされたりする場所です。子どもたちはそんな建物の隣に住んでいました。日常的に人が殺され、外出するたびにほぼ例外なく遺体を見かける地区です。

暴力が暮らしの一部に

この母親は、ただもうどうすればいいかわからず、MSFの診療所を訪れました。心理学的な治療を受けることになるとは想像すらしていませんでした。暴力を過去に追いやれば、すべての悪いことが消えてなくなると考えていました。

ブエナベントゥラでは暴力が常態化し、多くの人にとって暮らしの一部となっています。これが定められた生き方と納得してしまっています。

特に女性はその影響をとても強く受けており、診療所を訪れる患者のほぼ全員が性的虐待を受けています。その加害者が家族の一員や被害者と面識のある人物だった場合、幼年期から繰り返し行われていることが多く、少女がひとりで外出するようになる10代になっても続きます。

母親も被害に遭います。子どもを殺され、さらわれる。一家を皆殺しにされる。無一文のまま住まいを追われる――。夫がいなかったり、凄惨な虐待を受けたりする母親たちもいます。暴力は家の外だけではありません。自宅の中、家庭内にも存在するのです。

この町では圧倒的多数の人が、日々やっていくだけで精一杯です。今日の食事をとれるかどうかもわかりません。こうした環境では心理ケアなどに気持ちを割いてなどいられないのです。

無料電話プログラムで寄り添う

息子をギャングに殺された母ヌリさん。それ以降、パニック障害などに苦しんでいる。 息子をギャングに殺された母ヌリさん。
それ以降、パニック障害などに苦しんでいる。

もう一つ問題があります。医療インフラと保健医療人員が不足しています。例えば、ブエナベントゥラには精神科医が一人もいません。精神面でのケアが必要な場合、車で2時間半をかけてカリ市まで行かなければなりません。ブエナベントゥラの住民の大半が交通費を捻出できず、包括的な治療を受けられないままでいます。

MSFは通話無料のケア・プログラムを提供しており、ほとんどの患者が、このプログラムを利用しています。対人で治療を受ける患者もいますが、電話の方がはるかに多いです。診療所に入る姿を他人に目撃されて、被害者であることを知られたくない女性もケアを受けられるからです。

MSFは、この電話によって、苦しさのあまり自らを傷つけることしか考えられなくなってしまった人びとの命も救っています。多くの人がこう言います。

「他にどうしようもなくて、こちらに来ました。このままでは自殺するしかなくて……」

そんな状態から抜け出すことができたら、きっとその人がまた別の誰かを助け、そうして助けられた人がさらに誰かを助ける。そうして次へとつながっていくでしょう。つまり、MSFが1人援助するたびに、その家族や隣人、周囲の人たちも間接的に援助していることになるのです。

コロンビアは2016年11月、コロンビア革命軍(FARC-EP)と政府の半世紀にわたる紛争が終結したものの、革命軍以外の武装勢力や犯罪組織はまだ活動を続けている。統治が行き届かないことや貧困が暴力を生む温床となっている。人びとの生活や健康に深刻な影響を及ぼしている都市もある。

国境なき医師団(MSF)は2014年からブエナベントゥラとサン・アンドレス・デ・トゥマコという2つの港町で暴力の被害者に心身のケアをしてきた。そのうちブエナベントゥラは、中央アメリカと米国への主要な麻薬密輸経路の一つとなっている。市民の65%が極貧状態の暮らしで、基礎的な公共サービスも受けられない。

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