中央アフリカ共和国:MSF医師が見た戦時下の医療援助

2013年05月27日掲載

中央アフリカ共和国で国境なき医師団(MSF)の緊急対応プログラムに参加したティム・シェーンフェルト医師は、政府軍と大統領打倒を目指す反政府勢力が戦火を交えるシブートで、4週間にわたって活動した。MSFスタッフ10人は、武力衝突が勃発した2012年12月から従業員不在となっている病院で、妊産婦、5歳未満の子ども、重体患者に対して救急医療を提供した。シーンフェルト医師に話を聞いた。

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1ヵ月以上も陸の孤島となった町

私が現地入りしたのは2013年1月下旬です。国土の約3 分の1が反政府勢力の支配下となりました。MSFの活動地・シブートを含む東部もその中に含まれます。シブートから南に50キロの位置に、政府軍と反政府勢力の前線がありました。

政府軍と反政府勢力が相次いでシブートで略奪行為を行い、経済は破綻しています。住民の約90%が、チャド軍や反政府勢力による性的暴力、恐喝、暴行などから逃れるために、ブッシュに身を隠していました。

首都バンギとシブートを結ぶ道路は1ヵ月以上も封鎖されていました。そのため、私たちが病院に到着した時には、医療物資はほとんど何も残っていませんでした。唯一の医師も看護師や助産師と共に首都に避難していました。

この地域の人口は約4万人です。人びとは1ヵ月間、厳しい状況に置かれていました。そのため、医療ニーズが高まっていました。子どもたちはマラリアや赤痢で命を落とし、女性たちは原始的な環境での出産を余儀なくされていました。絶望的な状況で、緊急事態でした。そこで、MSFは大規模な人命救助活動を開始したのです。

診療開始、100人以上の患者の列

シブート近郊でMSFが支援している医療施設

診療開始日には、100人超の患者が待っていました。生後2ヵ月から5歳未満の患者の多くは、マラリアや重度栄養失調にかかっていました。中には、脊椎結核が進行し、下肢が麻痺している患者も1人いました。

そんな中、大勢の戦闘員を乗せたトラックが、突然、病院に到着しました。スピードを出し過ぎて衝突事故を起こし、7人が負傷したというのです。1人は私が診察している間に亡くなりました。他の6人も到着時は昏睡状態でした。通常より速いスピードで点滴を行い(急速輸液)、脳損傷の治療をしたことで命を取り留めました。

中には「仲間が死んだら殺すぞ」と脅す戦闘員もいました。私たちは司令官にMSFの活動を説明しました。すると司令官は、戦闘員たちが興奮して手に負えなくなる事態を防ぐために、「私服」警備員2人を病棟に配置しました。全体的に、反政府勢力の指導者は非常に協力的で、MSFの活動に理解を示しました。

やけどの娘と乳飲み子を連れて

2週目に入った頃、3歳の女の子を診察しました。その子は胸部、腹部、大腿部など身体の20%にⅢ度熱傷を負っていました。母親や妹と共にブッシュの奥に身を隠していたところ、たき火に近寄り過ぎて服に火が燃え移ったとのこと。女の子は火がついたまま走りまわり、母親がなんとかつかまえて火を消し止めたということでした。

母親はまだ18歳ぐらいだったでしょうか。乳飲み子を背負い、やけどの娘を抱きかかえて、MSFの病院まで徒歩でやってきました。反政府勢力に見つかる恐れがある道路を避け、やけどの娘には食べ物と飲み物を、赤ん坊には母乳を与えながら、ブッシュの中を50kmも歩き通したのです。

到着時、女の子は発熱していませんでした。Ⅲ度熱傷では、細菌に対する皮膚の防御機能が失われた結果、感染症にかかるケースが少なくありません。女の子が発熱していなかったということは、おそらく何らかの伝統的治療法を駆使し、やけどを治療しながら歩いてきたのでしょう。現在、この女の子の状態は良好で回復に向かっています。偉大なお母さんのおかげです!

胎児はすでに……?帝王切開を実施

私たちは、驚異的な回復力を示す患者を何度も目にしました。例えば、妊娠6ヵ月の早期陣痛で搬送されてきた若い女性。助産師の説明では「胎児はすでに亡くなっているようだが、排出されない」とのことでした。

帝王切開が必要です。急いで手術を始め、赤ん坊を取りだすと、なんと小さな泣き声が聞こえてくるではありませんか!新生児検査台に赤ん坊を乗せると、約1.3キロの小さな女の子が、目を開いたり閉じたりして必死に呼吸をしようとしているのがわかりました。

まだ充分に発達していない肺は膨張せず、呼吸をするたびに胸部が陥没するのです。見ているのも辛く、手元にあった大人用の蘇生バッグとマスクを使ってこの子の肺を膨張させてみることにしました。右肺は、ゆっくりとですが膨張させることに成功。しかし、左肺はなかなか膨張してくれません。

看護師の提案に従い、臍静脈(さい・じょうみゃく)からヒドロコルチゾンも投与しました。30分間静かに圧力をかけ続けた結果、ようやく左肺も膨張しました。酸素吸入器もなく、あるのは室内の空気だけ、という状況で成功したのです!

肌に赤みが戻り、自然呼吸も出来るようになったので、赤ん坊を病棟に連れていくことができました。3日後、この女の子は母乳を飲み、熱もなく、両方の肺がしっかりと膨張していました。信じられない気持ちです!

すべての人を治療できないジレンマ

人手・物資が限られている状況下、
治療対象を限定せざるを得ない場合がある

このプログラムで活動中、最も苦痛に感じたのは、明らかに治療が必要な患者に「ノー」と言わなければならない時でした。シブートでの医療援助は、5歳未満児、妊産婦、暴力被害者、緊急治療が必要な患者(生命に関わる病状の患者)を対象としていました。

MSFの活動地まで30キロも歩いて来た患者の多くは、この対象枠に当てはまらない人びとでした。1日に何度も、私はそうした人びとに援助対象ではないことを説明しなければなりませんでした。

MSFの活動に参加している医師にとって、来院した人に「治療対象ではない」と伝えるのは難しいことです。MSFに参加した理由は、世の中の"レ・ミゼラブル"な状況にある人を助けるためです。援助が行き届いていない人びとに向かって「あなた方を治療するのはMSFではない」と改めて説明するためではないのです。難しいだけでなく、やるせない気持ちになりました。ただ、(緊急性が高い人の治療を優先するために)治療対象者を制限する必要があることも理解しています。

最後に

プラス面としては、MSFが現場で証言活動をすることで得られた成果を、リアルタイムで目撃できました。例えば、反政府勢力によるレイプ、暴行、略奪、恐喝などの犯罪行為や、人びとがブッシュでの避難生活の過酷さに苦しんでいることを、反政府勢力の指導者たちに示したことで、状況が明らかに改善されたのです。指導者たちは、戦闘員に規律を守らせる努力を行うようになりました。先に説明したように、これは決して簡単なことではないのです。

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