パキスタン: 母乳の代わりに紅茶?――乳幼児の栄養失調の背景に

2017年08月03日掲載

MSFの栄養治療プログラムから新生児科に移され
1歳を迎えた三つ子の赤ちゃん
MSFの栄養治療プログラムから新生児科に移され
1歳を迎えた三つ子の赤ちゃん

パキスタンのバロチスタン州東部の町、デーラ・ムラド・ジャマリ。そこに位置する郡立拠点病院で、国境なき医師団(MSF)は栄養治療プログラムを展開している。この活動に参加しているトゥファイル・アーマド医師に、現地の栄養失調の実態とMSFの取り組みについて聞いた。

MSFに参加して4年になります。病院の栄養治療科で、栄養失調児、低体重児、病気の赤ちゃんなどを毎日診察しています。生まれたばかりの赤ちゃんに紅茶やはちみつ、ハーブティーを与えますか?あるいは、「赤ちゃんが母乳を飲むと病気になる」と言って母乳育児を拒否する母親に出会ったことはありますか?おそらくないでしょう。でも、デーラ・ムラド・ジャマリでは日常茶飯事なのです。(「全文を読む」につづく)

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食糧不足ではないのに栄養失調に

MSFのトゥファイル・アーマド医師 MSFのトゥファイル・アーマド医師

バロチスタン州東部は、パキスタンの中でも特に栄養失調が深刻な地域です。パキスタン人口保健調査(2012~2013年版)によると、子どもの約45%に慢性栄養失調か発育疎外がみとめられ、11%は急性栄養失調ですぐに治療が必要でした。

そうした国平均と比べ、ナシラバード郡とジャファラバード郡の状況はさらに悪いのです。MSFの栄養失調プログラムに参加したとき当初は本当にショックを受けました。

食糧不足になっているわけではないのに、栄養失調の子どもが非常に多かったからです。その主因は地域の健康習慣でした。

母親は農作業に追われて子どもの世話に充分な時間をとれません。しかも、毎年のように妊娠しているため、低体重児で産んでしまうことが多いのです。

低体重児だった場合、その母親は妊娠の間隔を空けるようにアドバイスされます。ただ、その通りにならないことが大半です。赤ちゃんに母乳を飲ませないことも多く、そもそも授乳の方法を知らないこともあります。母乳の代わりに、紅茶、ハーブティー、衛生管理が徹底されていない粉ミルクなどを与えているのです。

こうした習慣が改められる日が来ることを願っています。よい健康習慣とはどのようなものか、もっと多くの人びとに知ってもらう必要があります。MSFはこの分野でも懸命に活動しています。

初めての子どもが三つ子で低体重児

「わが子を治療している気分になる」と話すアーマド医師 「わが子を治療している気分になる」と話すアーマド医師

思い出すのはわが子が生まれた時のことです。妻は最初の妊娠で、しかも三つ子でした。私が仕事で不在のときに合併症が起き、妻は別の町の病院に運ばれて出産しました。妊娠31週の早産でした。

女の子を1人と男の子を2人。出生体重は低く、それぞれ1.42 kg、1.26 kg、1.13kgしかありませんでした。この3人の低体重の赤ちゃんの生存がどれほど大変なことか、医師としてよく理解していました。そのため、死んでしまうのではないかと不安でした。

しばらくして、子どもたちはMSFの新生児室に移送されました。バロチスタン州東部でこうした低体重児を受け入れられる医療施設がほかになかったのです。私はMSFの活動で、気づくとそこに移送されてきた低体重のわが子を治療していたのです。

治療は26日間続きました。一進一退はありましたが、それでも日を追うごとによくなっていきました。母乳が一番です。母乳育児が赤ちゃんの体重増加を助けるのです。私の三つ子も危機を脱し、健康になっていきました。現在は生後16ヵ月です。母乳を飲み、他の子と変わらないほど健康になりました。

「全ての命を救いたい」

私の子どもたちは、超低体重で生まれた赤ちゃんも助かるという実例です。親は子どもを守らなければなりません。病院に行く必要があるときはぐずぐずせずに連れて行くこと、母乳育児を心がけること、離乳は生後6ヵ月まで待つこと、安全でない健康習慣をやめること、などが重要です。

MSFの栄養治療プログラムを受けて生き延びようとがんばっている新生児を見るときはいつも、わが子が生まれたときのことを思い出し、わが子を治療しているような気分になります。

全ての命を救いたい。そう思います。

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