イラク: モスルの野外病院にて――MSF医師の現地報告

2017年03月30日掲載

搬送されてきた患者に救急処置を行うスタッフ 搬送されてきた患者に救急処置を行うスタッフ

米軍主導の有志連合軍と過激派武装勢力「イスラム国」との紛争が続いているイラク北部の都市モスルの南にある村で、国境なき医師団(MSF)は2017年2月19日、手術設備を備えた野外病院(外傷病院)を開院した。MSF外科医に、病院に運ばれてくる患者の様子とMSFの取り組みについて聞いた。

本病院の主な施設は、手術室2室、集中治療室1室、救急処置室1室、入院病棟など。チームは、主にイラク人の外科医、その他の医師、看護師で編成され、命にかかわる重症例に対応している。重症度や緊急度などによって治療の優先順位を決める「トリアージ」の区分では、「赤」にあたるケースを受け入れているのだ。待機できる患者(「黄」や「緑」にあたるケース)は他の病院に移送している。

開院から1ヵ月余りで915人が搬送されてきた。763人が紛争関連の負傷で、そのうち190人は「赤」のケースだった。421人は「黄」のケースで、容体を安定させてから他の病院へと移送した。負傷者のうち、15歳未満の子どもが240人、女性が241人だった。

  • 記事内の情報は2017年3月18日時点のものです。

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「MSFでの活動歴のなかで最も過酷」/レジナルド(66歳、外科医、ベルギー出身)

運ばれてくる患者の半数は子どもと女性だ 運ばれてくる患者の半数は子どもと女性だ

私はシリア、リベリア、アンゴラ、カンボジアなど多くの紛争地での活動経験がありますが、今回のモスルのような状況は見たことがありません。手術室に運ばれてくる患者は全て重体で、しかもほぼ毎日、多数の負傷者が一斉に搬送されてくるのです。

患者は年齢も性別もばらばらで、狙撃、迫撃砲の砲撃、空爆、地雷の爆発など、あらゆるパターンの負傷がみられました。患者は命がけで包囲下の都市から逃げてきていることがわかります。

昨日(3月17日)は雨模様だったため、搬送者は20人にとどまりました。天気がよければどっと運ばれてきますが、曇りや雨の日は少なくなります。受け入れ態勢を整えるためには天気予報のチェックが欠かせません。

ある晴れた日の午後、救急車が次々に到着しました。戦闘地域の付近にある容体安定化ステーションは、通常、MSFの病院に警報を出してから患者を送ってきます。でもその日は混乱しており、警報がありませんでした。

非常に厳しい状況でした。治療スペースが足りず、一部の患者は他の病院に移送するしかありませんでした。私は受け入れた患者の治療を続けました。よく晴れた日だったのですが、私はその日、太陽を見ることはありませんでした。1人終るとすぐ次の患者といった具合で、翌朝5時まで手術し続けたからです。最終的に受け入れた患者は約100人に達し、みんな疲れ果てていました。

MSFの外傷病院は、この戦闘地域における"外科の最前線"だということが身にしみました。それ以降、2つ目の手術室を設置してもっと多くの人を手術できるようにしました。

モスルで活動した6週間は間もなく終ります。この紛争で離散した家族の数に衝撃を受けています。「家族でたった1人の生き残りだからこの子を助けて」と懇願していたお父さん、お母さんの多さにも。一方、イラク人の強さ、寛容、献身的な働きぶりに心を打たれました。活動のどれひとつとっても、彼ら抜きには成し得なかったからです。

「できることは何でもしよう。でも……」/アーメド(仮名、イラク出身、整形外科医)

力を尽くしても及ばないことも…… 力を尽くしても及ばないことも……

昨日(3月17日)の朝、家族4人が運ばれて来ました。お母さん、お父さん、2人の小さな坊やです。みな迫撃砲弾を浴びて重体でした。お母さんとお父さんは病院に到着したときにはすでに絶命していました。

私たちは残された2人の兄弟に集中しました。弟は頭のけがひどくて助からず、命を救えたのは9歳の兄だけでした。彼がどうやって助かったのか、そして、これからどうやって生きていくのか。想像もつきません。家族で生き残ったのは9歳の男の子だけなのですから。

同じ日の午後、別の男の子が運ばれてきました。10歳だとのことでした。左脚は迫撃砲の被害でちぎれかけており、搬送中に大量の血液を失っていました。私が整形外科手術を担当し、それは2時間にわたる手術となりました。さらに、別の医師がもう1時間かけて側腹部切開を行いました。しかし、ついに男の子は助かりませんでした。

私はできることなら何でもしています。それでも、及ばないこともあるのです。もしそれがこの場で可能ならば、担当した患者さんたち一人ひとりの写真を撮り、彼らのことを忘れないように語りついでいきたいと思います。

この病院では「赤」のケースに限って手術を行っていますが、本音はもっと引き受けたいと思っています。「黄」のケースと判定されて他の病院へ移送された患者が、どのような処置を受けられたのかという点も確認したいです。ひどい苦しみを受けた人たちのために手を尽くし、役に立ちたいと願っています。

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