シリア:恐怖と惨劇のなかでも希望を失わない――シリア人医師の報告

2016年12月12日掲載

爆撃で破壊された診療所の一部と救急車 爆撃で破壊された診療所の一部と救急車

シリアの首都ダマスカス近郊、政府軍の包囲下にある東グータ地域のアル・マルジュ診療所は、国境なき医師団(MSF)が支援している医療施設の中でも特に重要だ。爆撃などでの被害が相次いでいる診療所で、アブー・ヤセル医療部長(仮名、総合医)が、救急車が破壊された事態について報告する。

【アブー・ヤセル医療部長の話】
2016年12月5日、爆撃が診療所の近くまで及び、救急車2台と診療車2台が破壊されました。一大事です。運ばれてきた負傷者を他の医療施設に移送しようとした場合、どうすればよいというのでしょうか。

診療所がある地域は地理的に孤立しています。農村地帯で、自給自足の生活を送っており、貧困が大きな問題となっています。医療・人道援助の対象として考慮されることもなく、国際支援の輸送団が東グータへの立ち入りを認められた場合でも、この地域は対象に含まれないのです。

関連サイト:「病院を撃つな!」キャペーンサイト

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刻一刻と状況が変わる

救急車・診療車の損失で重傷者の移送が危ぶまれる 救急車・診療車の損失で重傷者の移送が危ぶまれる

以前は負傷や症状が重い救急患者を、対応能力のある12~15km先の医療施設に引き継ぐことができていました。救急車が使えない現在、状況が刻一刻と変わる中で重傷者が運ばれてくることが心配です。

患者の搬送の仕方が乱暴になったり、不適切になったりする恐れもあります。救急車は医療活動に必須なので、地元の組織にも調達を手伝ってもらえないかと呼び掛けています。

壁や天井に穴、手術は地下室で

シリア内戦が始まったころから、私はアル・マルジュ診療所に勤務してきました。地域の23自治体が対象の医師会も結成されています。当初、私たちは政府管轄の病院に勤務していたのですが、当局が撤退を決定し、病院職員も去っていきました。

以来、この診療所が機能を維持しているのです。数年間で相当回数の紛争被害に遭っており、その頻度は診療所の中でも特に高いかもしれません。壁や天井には穴が空き、手術は地下階で行うようになっています。

ある専門医の死

およそ2年前、診療所長と同僚1人の命が奪われました。入り口のわきで就寝していたところに砲弾が当たったのです。同僚は難しい救急外科の専門医で貴重な存在だっただけに、大変な損失でした。

それから2年間で、医師2人、清掃員1人、研修責任者1人、看護師3人の合計7人の仲間を亡くしました。そうした苦難もありながら業務を続けているのは、医療の提供が地域の人びとにとって重要だからです。

2015年にも惨事に見舞われました。ある夜、ヘリから投下された爆弾1発が診療所に命中し、複数の救急車、薬局、熱傷治療施設が破壊されたのです。

地元機関とMSFの支援のおかげで、最終的には修復できました。現在、この診療所では、X線撮影、検査室での検査、手術、産科ケアなども可能です。救急車も、今回の被害に遭うまでは24時間体制で運用していました。

忘れられない患者たち

11月、暴力が再び激化しました。「安全」と見なされて避難先となっていた地域が攻撃されたのです。昨日は一家が運び込まれてきました。母親とおばは現在、集中治療室で治療を受けています。子ども2人は亡くなりました。そのうち1人は女の子で、頭部を貫通した傷がありました。治療のしようがなく、今朝亡くなりました。

この一家のような事例への対処は容易ではありません。死傷者の家族や医療スタッフの心はひどく傷ついており、精神保健面の支援がさらに求められます。

大量出血で亡くなった女の子のことも記憶に残っています。そばにいた妹は、姉の死を理解できていませんでした。子どもたちは上空の飛行機の音を聞くと、精神が不安定になります。そんな体験をした子どもたち、大人たち、医療従事者たちに、どれほどの心理ケアが必要とされていることでしょう……。

「次は自分の番かと……」

戦闘機と空爆は恐ろしいものです。亡くなった人びとをしのびつつ、次は自分の番かと考えてしまうのです。私は時折、空爆が静まるまでトイレの通路に1時間ほど隠れていることがあります。

そんな不安の一方で、粘り強さも見られます。スタッフに「休職したければそれでも構わない。有給休暇の取得を認める」と伝えましたが、取得した者は1人もおらず、驚かされました。危険にもかかわらず、皆、勤務の継続を希望したのです。ひどい光景を目にし、砲撃と虐殺を生き延びてきた彼らがそう望むのは、ここが地元で、家族がおり、住民に治療を届けることの大切さを理解しているからでしょう。

恐怖と惨劇のなかでの希望

私たちはまだ希望を失っていません。希望は常にあるものです。ただ、残念ながら、この地で起きていることに明るい兆しは見られません。それでも、今は地域の人びとのために医療の維持が重要です。医療は継続されなければなりません。私たちは今後も最善を尽くしていきます。

MSFはアル・マルジュ診療所を2015年1月から支援してきた。この活動には技術的助言や医療物資の供給のほか、2015年半ばの損壊時の修復費用と資材に関する支援も含まれる。救急診療は月平均約500件に及び、約1万5000人の地域住民に産科・外来診療を提供。救急科は11月、紛争が原因の外傷203件、紛争に起因しない外傷44件、その他の救急症例211件に対応した。

MSFはシリア北部で合計6軒の医療施設を運営している。また、国内全域の病院・診療所合計70軒以上を支援している。さらに80軒の医療施設に臨時で緊急医療物資を寄贈している。支援先施設は現地のシリア人スタッフが運営しており、MSFスタッフは派遣されていない。

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