脅威にさらされる医療援助――対策は各国の責務

2013年06月10日掲載

MSFインターナショナル会長の
ウンニ・カルナカラ医師

国境なき医師団(MSF)インターナショナルのウンニ・カルナカラ会長と、赤十字国際委員会(ICRC)のペーター・マウラー総裁は、医療援助活動が脅威にさらされている現状に対し、「援助提供者を標的にしたり、援助を阻害したり、悪用したりする行為を防ぐ責任は、主として国や紛争当事者にある」とし、対策を徹底するように求める論説文を連名で発表した。両団体の活動地では、医療施設・スタッフへの襲撃や医療援助の阻害などが相次いでいる。

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医療活動の場は、安全・中立でなければならない

MSF病院で打ち合わせをする
カルナカラ医師とスタッフ(南スーダン)

病院内に武装グループ、不安がる患者。敵の特定と捕捉のために利用される保健医療施設。無人の診療所、損壊した病院。救急医療は追いつかず、医療スタッフは患者を治療したために報復を受ける恐れもある。患者を搬送しようにも負傷者のもとにたどり着けないか、さもなければ、検問所で長時間の足止めをくらう。凝り固まった敵意と対立が、特定の人びとへの大切な医療援助を阻む。

国境なき医師団(MSF)と赤十字国際委員会(ICRC)は、医療援助活動の悪用と傷病者治療の阻害を意図したあらゆる行為を強く非難する。患者である限り"敵"とは見なせない。傷病者である限り"戦闘員"ではない。医療倫理は、すべての保健医療スタッフに「すべての患者を受け入れること」と「医療行為を第三者の介入から守ること」を義務付けている。

医療スタッフは公正に行動し、医学的根拠にのみ基づく治療の提供を優先しなければならない。そのためには、彼らの活動の場、すなわち、搬送車、移動診療所、診療所、病院は安全で中立な空間でなければならない。

医療援助への攻撃がもたらす影響

しかしながら、シリアからコンゴ民主共和国まで、また、バーレーンからマリやスーダンに至るまで、そうした中立不偏が軽視されているように思われる。民間人が重い代償を払い、大勢の人が医療を受けられずにいる。

2012年12月から今日まで、ナイジェリアとパキスタンにおけるポリオ・ワクチンの予防接種活動中に殺害された人の数は合計29人。両国は、現在もポリオが流行している3ヵ国のうちに数えられる。

保健医療施設・スタッフに対する数々の暴力的な行為は、被害者の死と遺族の悲痛という直接的な結果をもたらしただけではない。予防接種を受けるはずだった多くの子どもたちが、ポリオと小児麻痺のリスクにさらされ続けることになったのだ。各保健医療機関・団体は活動を見直し、医療提供に関する懸案事項に安全問題を加えなければならなくなった。

"脅威"の全容解明と状況改善を目指す

この問題の全体的な規模に不安が募る。傷病者の医療を受ける権利が何らかの形で侵害された事例の大半が、公にならないからだ。間違いなく大勢の人が、医療の欠如した環境で今も、病気やけがに苦しんでいる。しかし、保健医療スタッフ、政府、国際団体の目に届かず、関知されていないのだ。

MSFとICRCは、医療に迫る脅威の全容と影響を明らかにしたいと考えている。最終目標は、活動の現場に本質的な変化をもたらし、すべての人が場所を問わず、必要な医療を不安なく受けられるようにすることだ。

保健医療スタッフに求められる医療倫理と公正性

保健医療スタッフ(診断・予防・治療や、管理・監督・事務・輸送に携わるスタッフ)の行動も状況を左右する。地域社会と政治・軍事勢力に確実に受け入れられることは、一触即発の環境で活動するための必要前提条件だ。そのためには、医療倫理と公正性の順守を明示する言動が求められる。

MSFとICRCの活動地の中には、ひどい暴力が横行している状況下でも、医療施設の安全が維持され、医療そのものも保障されてきたアフガニスタンのような実例もある。これが単なる例外としたくないのであれば、そして、医療の保護に対する責任感を全当事者に喚起させようと考えているのであれば、一致団結して包括的な努力を行う必要がある。

医療活動を明確に示すMSFロゴや赤十字・赤新月のようなシンボルは、医療行為の尊重と保護を促すものでなくてはならない。それが悪用されたり、無視されたりするのであれば、どれほど土のうを積み上げたところで、患者と保健医療スタッフの守りにはならないだろう。

各国は国内法を通じた対策強化を

本当に難しいのは、医療援助を阻む行為そのものの抑止策を見出すことだ。援助提供者を標的にしたり、援助を阻害したり、悪用したりする行為を防ぐ責任は、主として国や紛争当事者にある。保健医療スタッフの職務遂行には支援が必要である。各国は、医療援助活動を保護するために、国内法を通じたあらゆる対策を講じ、これを確実に実践していかなければならない。

傷病者の保護はジュネーブ条約の心臓部にあたる。保健医療施設とその職員に対するさまざまな形態の暴力は、非常に深刻でありながら、顧みられずにいる人道問題の1つだ。医療行為は戦闘員・非戦闘員の別なく提供されるべきである。医療を必要とする人は、無条件にその対象とされなくてはならない。

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