南スーダン:医師が見た難民キャンプの「現実」とは?

2013年07月03日掲載

南スーダンのバティル難民キャンプで、国境なき医師団(MSF)のディアドリ・リンチ医師が活動している(2013年6月現在)。彼女はアイルランド出身の医師だ。同キャンプには、隣国スーダンの武力衝突や暴力を逃れた3万8000人が避難している。リンチ医師に、キャンプでの生活や、難民とMSFチームの直面する困難について聞いた。

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接着剤のような泥土と化す大地

着任前から、現地の状況をある程度、想像していました。ですが、この目で見た現実と、過酷な環境、そして生活条件に圧倒されました。

バティルの所在地は、世界で最も新しい国である南スーダンの北東部、上ナイル州マバン郡にあり、スーダンとの国境沿いです。乾季の地表は不毛で、粉末上の粘土に覆われています。

キャンプが置かれているのは洪水の氾濫原で、雨が降った後は分厚い接着剤のような泥土と化します。濁った水たまりを格好のたまり場とするのは、さまざまな病気と蚊です。

24時間体制で医療援助

南スーダンの難民キャンプで活動する
ディアドリ・リンチ医師

MSFの野外病院では、バティルとゲンドラッサの両キャンプの難民を対象に、24時間体制で医療を提供しています。難民キャンプの生活環境は、人びとを不健康な状況に追いやります。MSFが野外病院で提供している援助は、新生児の看護、一般小児疾患、妊産婦ケア、一般的な成人医療、栄養対策プログラム、心理ケアまで広範に及びます。

対応患者は週平均1000人。大人も子どももおり、診療対象の病気は肺炎、下痢、脱水症、栄養失調などです。南スーダンで流行しているカラアザール(内臓リーシュマニア症)の患者もいます。寄生虫感染症としては、マラリアに次ぎ世界で2番目に多い死因となっています。MSFはさらに、結核、ブルセラ症、腸チフスなどその他の感染症の患者にも対応しています。

このところ、はしかの子どもたちを治療しました。6月第3週には、流行抑止のため、キャンプ内ではしかの集団予防接種も行っています。生活環境のせいでけがを負った人の治療もしています。料理中に火傷したり、ヘビにかまれたり、サソリに刺されたりした患部の感染症も多いのです。

MSFの移動診療チームはキャンプの状況に通じており、子どもたちの栄養状態の全体的な改善を確認しています。MSFがキャンプで行っている活動が確かな効果を及ぼし、小児死亡率は前年同期に比べ、大幅に低下しました。キャンプ滞在者の健康は明らかに向上していますが、この環境では今後も脅威にさらされ続けるでしょう。

「スプーン1杯の砂糖がほしい」

MSFがバティルで運営している野外病院

これから数ヵ月の雨季の間、キャンプの滞在者は非常に無力な立場に置かれます。テントやビニールシートでは豪雨をしのげません。洪水も予想され、MSFもさまざまな病気の患者への対応に追われるでしょう。

ここでは、心の痛むことも多くあります。子どもが亡くなる場面を目のあたりにすることもあります。最近の例では、重症のカラアザールと栄養失調の治療にあたった7歳の女の子が特に思い出されます。最善を尽くしましたが、病気には打ち勝てませんでした。彼女は頑張り屋で亡くなる数日前も、薬を飲むためにスプーン1杯の砂糖が欲しいとスタッフに告げていました。看護に携わったスタッフ全員が彼女のことを覚えています。

妊産婦が亡くなる様子も、とてもつらいものです。妊婦のE型肝炎の死亡率は約20%です。母親を亡くした多くの幼い子どもたちを親類が世話しています。E型肝炎の流行はキャンプ内で大きな不安を呼び起こし、実際に滞在者の健康にも著しい影響を及ぼしました。

ある青年の決意と挑戦

MSFは、診療所スタッフとして大勢の難民を雇用しています。アハメド(24歳/仮名)という病棟のアシスタントがおり、診療で患者のケアを補佐しています。聡明な青年で、素晴らしい同僚です。彼は2012年、奥さんと3人の子ども、両親、兄弟姉妹とともにスーダンの青ナイル州を離れました。既にこのマバン郡に移った親類がおり、彼らも何週間も歩いて、青ナイル州の戦闘を逃れてきたのです。

アハメドが感情的になるのは、住んでいた村が襲われた際に銃撃された近親者のことを話すときです。自身の見た悲しい出来事を話すのもつらいと言い、村にとどまった親類や友人のことを心配しています。

アハメドは今後も勉強を続けたいと望み、看護学校に通おうと決心しています。彼には将来の計画と夢があるのです。ただ、当面はこのキャンプに腰を据え、自身と家族のために前進しようとしています。彼とその若い家族が置かれた現状をどう受け入れているのかと尋ねてみたところ、こんな答えが返ってきました。

「『このキャンプではいろいろなことが何て大変なんだろう』と考えたところで、つらさが10倍増しになるだけです」

彼は生活を立て直すために、前向きでいようと努めているのです。私にとってアハメドは、どんな困難にも動じず、落ち着いていて柔軟な精神の象徴です。

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