ギニアビサウ:小児科医療の現状とMSFの援助活動

2016年08月04日掲載

アフリカ西部、大西洋に面したギニアビサウ。世界で最も貧しい国の1つだ。公的医療制度が発達しているとは言いがたい一方、国民の多くは医療を受けられる経済状態にない。

国境なき医師団(MSF)のジャナ・ブラントは、ギニアビサウの活動責任者として9ヵ月間、活動を行った。任期満了を迎えたブラントに、この国でMSFが直面している課題について聞いた。

記事を全文読む

子どもたちを襲うマラリアの危機

バファタ保健区での診療の様子(2015年4月撮影)

ギニアビサウでの活動は小児科診療です。国の北東部にあるバファタ州では、州立病院と農村地帯にある数軒の診療所で活動しています。病気の子どもをすぐに発見できるように地域保健担当者を200人配属しています。このうち40人は、下痢やマラリアの治療や、抗生剤投与が必要な急性呼吸器感染を扱えるように訓練しています。

季節性マラリアの患者数は例年、夏ごろにピークに達し、通常時の2~3倍となります。2015年は8月から11月にかけて大幅に増えました。2016年は、ピークに備えて新たな施設(病床30床)を設置しました。

また、国内初となる季節性マラリアの化学的予防法(SMC)を導入しました。SMCは、マラリア発生率が最も高い時期に治療薬を子どもに与えることで、病気の発生を防ぐ予防戦略です。8月から開始しており、バファタ保健区にいる子ども2万5000人から順次展開していきます。

発熱=マラリア、とみなしてしまう慣習

ギニアビサウでもマラリアは主要な病気の1つです。その結果、発熱している子どもは通常、マラリアかどうかにかかわらず、マラリアの治療を受けています。これはアフリカでよくみられる"慣習"です。

この状況を改善するため、MSFはバファタで調査を行い、疫学的観点から地域医療の概要を明らかにしようとしています。調査結果がまとまり次第、簡単な診断用フローチャートを作ります。最低限の研修しか受けていない医療従事者でも、このチャートを使えば子どもたちの病気が判断でき、症状にあった治療を受けさせることができるようにするためです。

首都の国立病院でも治療できない

国立病院の小児病棟で治療を受ける子ども

首都ビサウの国立病院では、MSFは4ヵ月前から活動しています。拠点は小児集中治療室で、24時間体制をとっています。また、マラリア対策も進めています。

国立病院での活動は大変です。この国では"最後のとりで"のような拠点病院なのに、この国の一般的な医療課題に、他の医療施設と同様、悩まされているからです。その課題とは、例えば、スタッフと機器の不足、スタッフの専門知識の不足、汚職のまん延などです。

何よりも難しいのは、国立病院で受け入れている症例の難しさでしょう。他の医療施設では手の施しようがない症例も多く、中にはギニアビサウでは治療できない症例も含まれています。国内での治療が不可能な子どもたちに残された選択肢は2つ。命を落とすか、国外で治療を受けるかです。少数ですが、医療理事会の審査を受け、他団体の助力も得て、国外に移送されている子もいます。

小児集中治療室での死亡率75%の衝撃

MSFが支援を開始したことで子どもの死亡率は低下している

国立病院の小児集中治療室での死亡率は高い水準で推移しています。MSFがデータ収集を始めた2016年1月時点では、死亡率が75%というとんでもない値でした。MSFの4ヵ月の活動で死亡率は減ってきていますが、6月時点でまだ38%超でした。

患者は新生児が多いのですが、新生児科がよく機能しておらず、全体の死亡率を大きく押し上げる要因になっていました。そこで、産科と新生児診療との連携を強化し、手遅れになる前に来院できる体制を整えました。

小児集中治療室はベッド数22床ですが、十分ではありません。高度に専門的な診療なので、増床するためにはスタッフの増員が欠かせません。しかし、ギニアビサウには技師がおらず、医師の募集も困難を極めています。

救急体制の整備が急務

さらに、患者の多くは首都在住です。国内の人口の3分の1が首都に集中している一方、その他の地域からの来院はわずかです。病院への搬送体制が機能していないことは明らかです。

ただ、大きな進歩もみられます。MSFの活動開始当初は、小児集中治療室の患者のなかにマラリアの子どもが含まれ、助からなかったケースもありました。現在、マラリアで小児集中治療室に搬送されたものの亡くなる子どもはいなくなりました。アルテスネートによる治療が導入された効果も大きいでしょう。さらに救急部門での活動が始まれば状況はさらによくなるはずです。MSFはトリアージ(※)も担当していますから。

  • 重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること

来院しても家に帰される子どもたち

私の活動中の9ヵ月だけでも政権が3回変わりました。今の内閣は6月に組閣され、既に施策と予算を議会に提出して承認を待っています。一方、国際機関は資金援助を止めています。ギニアビサウは外国からの援助にかなりの割合を頼っているのですが・・・・・・。

政情不安は健康に影響を及ぼしています。ここ1ヵ月半も給料が支払われていないため、医療従事者によるストライキが続いています。最低限の診療は行われていますが、それでは足りません。例えば、首都のある病院では160床あたり医師1人と看護師1人しかいない状態でした。そのため、深刻な容態の子ども以外は家に帰している状況でした。

家に帰された子どもは、地域の伝統的治療師か、可能な場合は私立病院を受診しています。国立病院に来院する子どもの数は減りましたが、個々の容体は深刻化し、治療も難しくなっています。

賃金、交通、伝統医療、医療水準……山積する課題

この国の医療不足にはさまざまな原因があります。例えば、賃金制度の問題です。国民の大部分は1日2ドル未満、いわゆる"貧困線"以下で生活しています。交通機関が発達していない問題もあります。農村地帯の住民にとって通院は大きな負担になります。

さらに、伝統医療の存在感も大きく、現在も最初の受診先となっています。最寄りの病院まで行く手段がないからでしょう。病院に行けたとしても、医療スタッフの技術レベルが低く、医薬品や医療機器が完備されているとは限らないという問題もあります。実際に、MSFのもとに運ばれてきたときにはすでに手遅れとなっている子どもは少なくありません。

関連情報