イタリア: 「子どもの権利」を奪われたまま、少年は「成人」となった

2016年07月21日掲載

イタリア・シチリア島ラグーザ州にある緊急収容センターで、国境なき医師団(MSF)は中東やアフリカから到着した難民・移民を対象に、心理ケアを提供している。MSFのアウレリア・バルビエリ心理療法士は、その活動の中である少年に出会った。

収容センターの公用語である英語のほかフランス語も話せた彼は、収監されることを恐れて年齢を実際よりも上に偽り、成人男性の集団の中で孤立していた。彼の心理ケアを担当したバルビエリが、難民・移民に対して「子どもの権利」が守られていない実態について証言する。

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実年齢を言えなかったわけ

地中海で救助される保護希望者たち 地中海で救助される保護希望者たち

少年に初めて会ったのは2015年の9月初旬です。緊急収容センターで働くソーシャル・ワーカーから紹介されました。当時、収容センターには心理療法士がいなかったのです。情緒不安定で明らかに悩んでいるとの話でした。

会ってすぐに、申告年齢よりも若いと分かりました。少年っぽさが残る彼の周囲は皆、成人男性です。後日、収監されることが怖くて年齢をごまかしたと打ち明けられました。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の兆候

彼がイタリアに到着して4ヵ月が経ったころ、イタリア内務省管轄の現地委員会が行っている保護希望者の面接の順番が回ってきました。その場でようやく本当の生年月日を申告することができ、処遇の再検討が行われ、法律顧問を選任して申請手続きを円滑に進める決定がくだされました。

私から提出する報告書では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の明らかな兆候がみられると強調しました。これまで誰も気づかなかったようだが、繰り返し起こる頭痛、記憶障害、不眠、感情反応の低下、恐怖体験のフラッシュバックなどがみられると。

そして世界から隔絶された

事態は改善しませんでした。彼の心の健康は数ヵ月で少しずつ、でも明らかに悪化していきました。周囲から孤立した状態で生活せざるをえず、他人とコミュニケーションをとることが極度に難しかったためです。
2回目の面接や、選任されるはずの法律顧問に関して何も知らされないまま時間だけが過ぎていったことが、心の健康状態に大きな影響を及ぼしました。保護申請が受理される期待はますます薄れていきました。

収容センター内で起きた複数の暴力事件によって、状況はさらに悪化しました。事件後、収容センターのスタッフは収容者との接触を禁じられたからです。少年は世界から隔絶されてしまいました。健康で文化的な最低限度の生活が保証される公的サービスを受けることもできず、見捨てられたままひとりぼっちでした。

保護申請は受理されたが……

私は少年の件について地域の行政に問い合わせ、彼の法律顧問と社会福祉協会に連絡をとりました。それからさらに何ヵ月も待ってから、ようやく次の面接が決まりました。

少年が収容センターから保護希望者を受け入れている「SPRARセンター」に移されたときには、イタリア到着から1年が経っていました。その間に彼は18歳を迎え、法律上の「成人」となっていました。

MSFは証言する

私がなぜこのような詳細をお話しているのか。それは、この少年が「子どもの権利条約」で規定された権利をはじめ、子どもに与えられるべき権利が完全に奪われていたという事実を証言するためです。

保護を受ける権利だけでなく、健康・医療への権利、教育を受け、通学する権利も侵害されていました。この少年は安全な滞在先を与えられることなく、成人用の収容センターに1年も留置されたのです。少年にとってそこは、常に暴力や危険と隣り合わせの環境でした。

言葉、年齢、文化など、あらゆる面で周囲の男性たちと違っていた少年は、収容センターで孤立し続けた結果、精神状態がさらに悪化しました。

そして、今は「成人」として処遇されています。"子ども"に与えられるべき心理ケアなどの機会もなく、教育を受ける権利なども行使できず、"子ども"として保護され助言を受ける権利を奪われたまま、「成人」となったのです。

参考:中東やアフリカから渡欧して保護を希望している人びとは、紛争、拷問、迫害などの過酷な体験から心的外傷を負い、苦悩しています。心身の健康を取り戻すためには心理ケアが欠かせませんが、残念ながらその重要性は顧みられていません。診療を通じてこうした実態を把握したMSFは、証言活動の一環として報告書『NEGLECTED TRAUMA』(英語版)を発表しました。ぜひご一読ください。

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