ギリシャの入国管理センターの現状――MSF医師の証言

2013年07月11日掲載

ギリシャ北部の入国管理センター内の移民・難民を対象とした国境なき医師団(MSF)のプログラムで、2ヵ月に渡り活動したミルトス・バシリアデス医師。MSFは、身柄を拘束されている状況で病気にかかったり持病が悪化したりして苦しんでいる人びとに、医療・人道援助を提供している。バシリアデス医師に、過酷な環境に置かれている人びとの現状について聞いた。

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ギリシャ北部の入国管理センターにおけるMSFの活動参加に際し、直面した問題とは?

今回の活動は性質的に障害物競走のようなものでした。特筆すべきものをご紹介しましょう。入国管理センターで身柄を拘束されている人びとの多くは、いら立ちや怒りを感じていました。拘束状態が18ヵ月間も続くと知らされたこと、そして、かなり長い期間、保健医療スタッフの訪問をまったく受けられずにいたことが理由です。

人びとの間には不信と疑念が渦巻き、活動当初はなかなか協力を得られませんでした。忘れてならないのは、彼らが戦争、暴力、拷問、強姦、人身売買、極度の貧困の犠牲者だということです。

薬の配給にも問題がありました。薬剤師でも看護師でもなく、警察が配給を行っていたためです。患者の中には、毎日のように服薬を逃す人もいました。また、暖房がない部屋で生活している患者の呼吸器感染症などを、薬だけで治療するのは簡単ではありません。

一方、ギリシャが直面している深刻な経済危機が保健医療体制に影響し、保健医療ニーズが充足されにくいという問題もありました。ギリシャ人か移民かにかかわらず、社会保障の対象となっていない人への影響は特に大きなものです。実際に、地元の保健医療施設との連携が、資金不足のために非常に難しいということがたびたび起こりました。

入国管理センターにいる人びとの出身地は?

大多数がアフガニスタン、パキスタン、シリア、バングラデシュ、ソマリアの出身です。 ただ、治療した人の中には、モロッコ、スーダン、エリトリア、コンゴ、コートジボワール、マリ、そのほかさまざま国の人びとがいました。

彼らの滞在環境は?保健医療は保証されているのでしょうか?

入国管理センターのフェンス越しに
MSFスタッフと話をする人びと

滞在環境は非人道的です。私は、暖房完備の入国管理センターを見たことがありません。衛生状態は劣悪で、お湯は使えず、室内は薄暗い状態です。移民はほとんど屋外に出られず、新鮮な空気も吸えません。こうした環境要因が、病気への感染症リスクを高めるのです。

書類上は、保健・医療が保証されています。しかし、現実には、常駐の保健・医療スタッフがいなければ移民が医療を受けることは難しく、場合によっては不可能です。警察には通訳者もいないため、患者は事実上、健康問題を説明することもできません。

常駐スタッフがいて通訳を手配できたとしても、医療を受けられるかどうかは警察次第です。しかし、警察は医療の専門家ではないのでこの問題に的確な対応ができません。それが過ちの生まれる隙を作り、人命を危険にさらすのです。重症患者を見分ける役割を警察官に任せるべきではありません。

滞在者にはどのような医療ニーズがあるのですか?

人命にかかわる深刻なケースも含め、あらゆる医療問題に直面しました。慢性疾患や先天性疾患を抱える人もいました。しかし、診療を受けることなく過酷な環境にさらされたことで、体調が悪化していました。命を失う恐れさえあったのです。

私たちの直面した健康問題の大半が、拘束状態と直接・間接に関わるものでした。主な診療対象は、対人感染しやすい疥癬(かいせん)などの皮膚病、粗末な食べ物や食物アレルギーによる胃腸の症状、暖房の不備と過密状態が原因と思われる呼吸器感染症、筋骨格系の痛みでした。

そして、非常に多いのが精神的な問題です。精神的な問題は、悲哀感、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、大うつ病性障害、精神病まで多岐に渡ります。こうした症例にとって、拘束状態は有害です。

MSFはどのような援助をしていたのですか?

疥癬の感染制御のほか、あらゆる健康問題に対応しなければなりませんでした。複数の医療チームで毎日、移民の検査と治療を行いました。各患者との意思疎通を助けるMSFの"異文化仲介"担当者の存在は不可欠でした。また、患者に地域の病院を紹介することもたびたびありました。

暴力や拷問の被害者を診療することも多かったです。彼らは自身のつらい体験を語って聞かせてくださいました。MSFの心理療法士はさまざまな方法で人びとを援助しました。

また、深刻な慢性疾患を抱えた移民もいました。医療的観点から、そうした移民の即時釈放を当局に求める活動も行っていました。釈放後は、専門医が紹介されるまで容体の経過観察を行いました。

あなたが直面した一番の困難や課題は?そしてその理由は?

今回のプログラムは、私にとっては初めての体験でした。それまでの経験で、人びとの苦難は目のあたりにしていましたが、今回は状況が非常に特殊です。皆、暴力や貧困から逃れてきて、拘束状態に置かれています。

最大の問題はフラストレーションでしょう。"異質"な人びとに対する各国政府・住民の応じ方へのいら立ちです。同センターでの援助継続はときにとても困難です。病気になったり、病気が悪化したりするのは、拘束されていることが最大の理由です。そして、拘束される人は増え続けています。レンガの壁に頭を打ち付けるような思いです。このフラストレーションと向き合うことが、MSFや医師として活動するための必須条件だと思っています。

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