黄熱病: 感染爆発を防ぐために必要なこと――MSFの疫学者に聞く

2016年06月06日掲載

黄熱病の予防接種を受ける少年

アンゴラで発生した黄熱病がコンゴ民主共和国にも拡大したと見られる問題で、さらなる感染拡大が懸念される事態となっている。病気を媒介するネッタイシマカはアフリカの他の地域やアジアにも生息しており、放置すれば世界的な流行を引き起こす恐れさえある。

黄熱病のワクチンは半世紀以上前に開発されているが、通常は需要が限定的であるため、備蓄で対応しており、大量供給体制がとられていない。また、製造には非常に手間がかかり、急な増産要請には対応が難しい。

すでにワクチンの備蓄の少なさが大きな問題視となっている。国境なき医師団(MSF)の疫学者、ミシェル・ヴァン・ヘルプに現状について聞いた。

記事を全文読む

黄熱病にはどのような特徴がありますか。

黄熱病はウイルスで感染する出血性疾患の1つで、媒介者はネッタイシマカです。潜伏期間は数日と短く、インフルエンザやマラリアなど他のウイルス性疾患に共通した症状が出る場合があります。症例の約80%は軽症で完治しています。無症状の場合もあります。

しかし、症状が第II期に進むと黄だんが表れます。肝臓が影響を受けるためです。その他の臓器もウイルスによって損傷していた場合、鼻や歯ぐきから出血したり、下血したりすることがあります。この第II期の死亡率は高く、約25%から30%に達します。

黄熱病の対策にはどのような医学的ツールがありますか。

集団予防接種会場にワクチンを運ぶスタッフ

黄熱病は、19世紀末から20世紀初頭にかけて世界各地で大きな被害をもたらしました。一方、ワクチンの研究開発が急ピッチで進められ、1950年ごろには有効性の高いワクチンが普及するようになりました。集団予防接種が始まり、流行は大幅に減りました。

ところが、20世紀末には、一部のアフリカ諸国で黄熱病の集団予防接種の優先順位が下がっていました。そのため、2000年のギニアなど新たな流行がみられるようになってしまったのです。そこで、市販のワクチンの供給不足に取り組むための国際的な連絡調整グループ(ICG)が編成され、毎年600万回分の戦略的備蓄を維持する体制がとられています。

ただ、黄熱病を発症した場合には、特効薬はありません。現行の治療は、個別の症状に対処しながら患者自身の治癒力での回復を待つ対症療法です。第II期の患者からウイルスが消失し、感染の恐れがなくなると、次に肝臓の壊死を防ぐことが重要となります。

2015年末にアンゴラで確認された流行にはどのような特徴がありますか。

黄熱病は近年、森林地帯や水場の周辺で確認されていました。しかし、アンゴラでは、首都ルアンダで発生しました。何十年も症例が確認されておらず、ウイルスを保有している蚊も確認されていなかった地域でした。

森の中で感染したり、ウイルスに感染している蚊の卵が付着していたりして、気づかないまま首都に持ちこまれたのかもしれません。当初、感染者数は限定的でした。しかし、その後、首都の市場など往来が盛んな地域を経由し、感染地域が拡大しました。

症例が報告され、流行への対策が始まった頃にはすでに、感染者数も感染している蚊も増えていました。感染は国内全域に広がり、旅行者を通じて中国やケニアでも症例が確認されました。さらに、隣国のコンゴ民主共和国へと拡大していったのです。

アンゴラ国外への流行拡大はどのような危険が予想されますか。

ウイルスを媒介する蚊の駆除の様子

複数の要素が絡んでいるため、予想は困難です。感染した旅行者の症状が“感染期”にあたるかどうか、旅行者の帰国先にウイルスを媒介する蚊がいるかどうか、などの要素です。例えば、2016年3月に北京で確認された患者のケースでは、気温が低く蚊の活動時期ではないことや、ネッタイシマカの生息数がわずかであることから、リスクは極めて低いとの見解が出されています。

また、別の要素として、蚊がウイルスを保有しているだけなく、その蚊も発症しているかどうかがポイントになります。ただ、発症していない蚊にさされても大丈夫かというと、必ずしもそうであるとは限りません。さらに、感染した蚊の卵から感染するというパターンも考えられるのです。

大流行に至る過程は、実は緩慢です。蚊はあまり遠くへ移動しないからです。病気を拡大させているのは主にヒトです。徐々に症例が増えているこの時期に行動を起こす必要があります。コンゴ民主共和国でMSFと保健省が行っているような集団予防接種や、蚊の成虫・幼虫の駆除活動などを進めなくてはなりません。また、症例が1件でも確認された場合には、患者の移動経路を突き止め、その地域で予防接種を実施するとともに、半径150m以内で蚊の駆除を行う必要があります。

黄熱病の感染地域ではないもののネッタイシマカが生息している地域で流行する恐れはありますか。

リスクを考慮しておくことは重要です。最悪のシナリオを考え、弱点や障害物はないか点検する必要があります。特にワクチン製造は重要です。

黄熱病ワクチンは通常、大量に必要とされるものではありません。また、製造は大変手間がかかります。そのため、急な増産要請には対応できない懸念があります。600万回分のワクチンがすでにアンゴラで使用されました。

MSFは、市販のワクチンの入手、ワクチンの寄贈の受け入れ、集団予防接種用に備蓄されているワクチンの取り崩しなどで対応しています。さらに、1回分の投与量を減らして分割する方法も検討の余地があると思います。ある研究では、黄熱病ワクチンは有効性が非常に高いため、5分割しても有効だったとの結果が報告されています。ただ、分割したワクチンの免疫効果がいつまで続くのか、という点は別の研究で調べる必要があります。

黄熱病の感染爆発は、流行を放置しない限り起こり得ない現象です。症例の確認直後から警戒と監視を続け、迅速に対応することで感染爆発を確実に防ぐことができるのです。

関連情報