ケニア:安全な難民受入れの実例を世界に示す契機に

2016年05月20日掲載

空から見たダガレイ・キャンプ 空から見たダガレイ・キャンプ

世界最大規模の難民キャンプである、ケニアのダダーブ難民キャンプ群。5月6日、ケニア政府はこのキャンプ群を閉鎖するという発表を行いました。難民たちは、戦争で荒れ果てたソマリアに帰国するか、欧州への渡航という危険な旅に賭けるしかないのでしょうか。欧州での難民への非人道的な対応も問題化する中、ケニア政府がこれまで行ってきた、難民の受入れと保護を継続することがいかに大きな意義があるか、ダダーブのオペレーション・マネージャーを務めるケネス・ラヴェルが語りました。

ケネス・ラヴェル(MSFオペレーション・マネージャー/ダダーブ)

ダガレイ・キャンプのMSF病院で生まれた赤ちゃん ダガレイ・キャンプのMSF病院で生まれた赤ちゃん

5月6日、ケニア政府はダダーブ難民キャンプ群を閉鎖するという多くの人命を脅かす決定を発表した。これは約32万5000人の難民に、直接的で甚大で長期にわたる影響を及ぼしかねない。ケニア内務次官のカランジャ・キビチョ博士は、世界の難民危機に対する国際社会の手薄な対応について公に懸念を表明している。私たち国境なき医師団(MSF)も、国際社会の対応が甚だしく不十分だという指摘には全く同感だ。

多くの西欧諸国は、戦争、抑圧、絶望的な状況を逃れて来る難民に背を向ける一方、ソマリアや南スーダンなどから来た何万人もの難民の保護を、ケニアのような国に期待し続けている。こうした「いつまでも変わらぬ二枚舌」が受け入れられないことは理解できる。その一貫性のなさは、欧州連合(EU)・トルコ間の合意署名で極めて鮮明になった。欧州は、庇護申請権が認められない恐れのある国に難民の支援を委託しようというのだ。

ケニアの政府と国民は、四半世紀にわたり、ダダーブ難民キャンプ群の数十万人の人びとに避難の場を提供してきた。ケニアはこの事実を誇ってしかるべきだろう。そして、今こそ、EUをはじめとする国々の中途半端で非人道的な政策に追随せず、その保護の伝統を重んじ、継続するべきだ。ケニアは、紛争を逃れて来る人びとに対する人道的な待遇について、西欧諸国を含む各国を率先し、模範となることができる。

少数の人間の行為のせいで大勢が罰せられてはならない

ケニア政府は、ダダーブ難民キャンプ群が治安上のリスクだと言っている。MSFの医療チームも、ケニアを襲ったテロ行為の結果を直に目撃している。2015年4月には同国保健省と連携し、凄惨なガリッサ大学襲撃事件の被害者に援助を提供した。ケニア政府には確かに、国民の安全を守り保護する責任がある。しかし、同国が署名している難民条約のもとでは、その責任範囲に、戦争と紛争を逃れて来た人びと、そして、避難生活を続ける人びとも含まれる。

ダダーブに住む32万5000人の人びとが、少数の人間の顕著な行為のせいで罰せられてはならない。ソマリアの紛争の猛威は25年余りに及び、難民にとって安全で尊厳の守られる帰国の条件はいまだ全く整っていない。2013年に署名された自発的帰国に関する三者合意は、当時は前進と見なされたが、その履行は主にソマリア国内の混乱のために滞っている。

解決策を探る政治的意志の欠如

ダダーブ難民キャンプ群はそもそも、現在の人口ほど多くの人の受入を想定しておらず、今は過密状態で運営資金も不足。ソマリア国境に近いため、ソマリア国内に広がる情勢不安の影響も受けやすい。再三の要請に反し、大規模難民キャンプの代替案も模索されず、難民自らがその代償を払っている。

解決策を探る政治的意志は全く欠如していて、これまでに他国への移住を提案された難民もごくわずかだ。キャンプ群の肥大化にもかかわらず、より安全な場所に、より良好な生活条件の、より小規模なキャンプを新設する可能性も探られてこなかった。難民が自立したり、キャンプ外の生活に溶け込んだりする機会もほとんどない。そうした選択肢には資金と、政治的努力が要求されるが、それが国際社会の支援を受けつつ模索されなければ、ダダーブの難民は戦争で荒れ果てたソマリアに帰国するか、北に向かい、欧州への渡航という危険な旅に賭けるほかなくなるだろう。

過去25年、ケニアは難民受入れにおいて主導的な役割を果たしてきた。キャンプ群閉鎖という今回の決定を見直せば、同国政府は難民の待遇について、また他に行き場所のない人びとへの安息の場の提供について、世界に規範を示せるまたとない機会を得るだろう。

MSFはダダーブ・キャンプ群を構成するダガレイ・キャンプで医療活動を継続し、100床の病院1軒と診療所2軒を運営。2015年は、18万2351件の外来診療を行い、1万1560人を病院に受け入れた。

ダダーブの活動にはいずれの国の政府の資金提供も受けず、全額を民間からの寄付でまかなっている。

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