世界結核デー:ケアモデルの確立を目指して――パプアニューギニア

2016年03月23日掲載

患者の胸部X線写真を確認。同僚の松井昂介医師と 患者の胸部X線写真を確認。
同僚の松井昂介医師と

3月24日は世界結核デーです。

南太平洋のパプアニューギニアでは結核が国民の死因で2番目に多く、公衆衛生上の大きな問題となっている。より治療の難しい薬剤耐性結核(DR-TB)も増加傾向にあり、政府は2014年に緊急対策に乗り出した。国境なき医師団(MSF)は、公衆衛生の緊急事態に指定された国内3州のうち、南部の湾岸州および首都ポートモレスビーを擁する首都特別区を拠点に、保健省との緊密な連携の上で結核対策を推し進めている。

首都におけるプロジェクトには、日本からも数名のスタッフが携わっている。医療チームリーダーとして多国籍チームを率いて結核対策に取り組む黒川知子医師に話を聞いた。

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人口密集と根強い誤解

――活動地における結核の問題は?

大都市ポートモレスビーのある首都特別区は、国内の結核症例の4分の1が集まる有病率が最も高い地域です。人口は密集、狭い地域に住居がひしめき、大家族が1つの家に暮らすことも珍しくありません。私が訪れた家庭では6~7人が1つの小さな寝室で寝起きしている例も多くありました。そうした過密した住環境では、結核は家族間で容易に感染が広がり、その結果地域にも広がっていくのです。

患者さんは全国から治療を受けに首都圏にやってきます。地方には十分な医療が行き届いていないからです。地方で働くことを望む医療従事者は少なく、全医療従事者のおよそ8割がポートモレスビーなどの都市部に集中しているのが現状です。

一方、首都圏の医療施設と言っても完全に機能していないことも多く、人員不足も大きな問題になっています。上下水道の不備といったインフラの問題や、医薬品の不足などを理由に閉鎖となる医療施設もあります。さらに、この国における結核の大きな問題の1つには、社会的な認識不足があげられます。結核についての間違った認識――感染者と食事を共にすることで感染する、感染したら完治しない、治療には魔術や妖術が必要、といったさまざまな誤解が根強いのです。パプアニューギニアは、数百もの異なった種族と800に上る言語が混在する多様性の高い国であり、結核に対する認識もその分多く存在しています。

アウトリーチとヘルストークに期待

アウトリーチで訪れた患者とその家族に治療計画について説明 アウトリーチで訪れた患者とその家族に
治療計画について説明

――首都圏におけるMSFの活動は?

MSFは2015年3月、首都特別区北西部のゲレフー病院で結核対策プロジェクトを開始しました。活動はまだ始まったばかりですが、ゲレフー病院は結核患者を地域で一番多く受け入れている病院のため、活動は多忙を極めます。MSFは、同病院で結核の精密検査、診療、感染制御の向上を進め、医療従事者の採用や薬品管理のサポートを行っています。

MSFはまたアウトリーチ活動(※)にも注力しています。患者の自宅を訪問して、カウンセリングや心理ケアを行ったり、服薬の徹底や衛生面の指導、食べ物の支給や通院のための交通費の援助などを行ったりもします。こうした活動により、患者さんが治療計画を守り、治療を継続するための生活環境が改善するなど良い効果が現れています。

  • こちらから出向いて、援助を必要としている人びとを積極的に見つけ出し、医療を提供すること。

一方、「ヘルストーク」という活動も推し進めています。結核に関する正しい知識を広めるための啓発活動で、商店の前で20人ほどを集めて行ったり、時には街の中心部で100人ほどを集めて行ったりすることもあります。会場は屋外ですので、大型トラックに邪魔されたり、うるさくほえる犬を追い払うのに苦労したり、急な豪雨に見舞われたりと、さまざまな困難もありますが、私たちの信念はその程度で揺らぐことはありません。

"患者中心"のアプローチ

ヘルストークで地域住民に結核について説明 ヘルストークで地域住民に結核について説明

――MSFの目下の課題は?

首都におけるプロジェクトは患者を中心に据えたアプローチにより、結核患者さんの治療と管理を改善するケアモデルの確立を目指しています。ゲレフー病院には最近、検査室を新たに設置、現在結核の症例発見と治療結果の評価の改善に向けてスタッフの採用とトレーニングを進めています。パプアニューギニアには、さまざまな理由で結核治療を中断してしまった"デフォルト"患者が多く、MSFは教育や、心理社会的な支援、地域への啓発プログラムなどを通じてこのデフォルト率を下げていきたいと考えています。結核の対策は、患者、地域、全国それぞれのレベルで行う必要があります。MSFの包括的な対策手法が効果を示し、それが結核ケアのモデルケースとなって首都圏の他の病院や全国の病院でも実施されることを目指しています。

具体的にはゲレフー病院での結核対策の強化・安定化が図られた後は、他の結核病院へサポートの範囲を広げる計画です。また、より多くの人びとに正しい結核の知識をもってもらうため、ラジオや新聞など多様なメディアを用いた啓発キャンペーンを行う予定です。

自分自身も"パプア流"に

――自身のプロジェクトでの役割は?

医療チームリーダーとして、首都特別区プロジェクトの医療面を監督しています。責任範囲は多岐にわたり、外国人と現地スタッフからなる多人数医療チームの統率、予算要求の管理、医療データの収集・分析の他、保健当局との対話を通じて結核対策の向上戦略を実行しています。最大の課題は自分の仕事のペースを"パプア流"にあわせることです。これまでの仕事は緊急援助が主体だったため意思決定はスピード勝負。今はこの国の人びとの気質に合わせ、もう少しゆっくりとした時間の流れにあわせるように努めています。

活動は交通不便な地域でも

パプアニューギニアにおけるMSFのもう1つのプロジェクトは、首都圏とは対照的に、多くの患者が孤立した村などで暮らす湾岸州で行われている。交通手段の少ない同地では、診療所に行くまでに道なき道を進まなくてはいけないことや、患者の治療継続を支援するシステムが整っていないために、治療を中断する患者が多く、結果的にDR-TBの症例の増加につながっている。MSFは遠隔地に住む患者が治療を継続できる仕組みづくりに取り組んでいる。

ボートを乗り継ぎ村の診療所へ!


MSFは30年にわたって結核対策に従事しており、治療薬が効かなくなるDR-TBの分野では、世界最大規模の治療団体で、治療・予防環境の改善を求める提言活動も積極的に行っている。2014年、MSFは2万1500人を治療、うち1800人はDR-TB患者だった。

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