パキスタン: 赤ちゃんとお母さんの命のために――MSF助産師の活動報告

2015年12月29日掲載

ニュージーランド出身のアミ・ルコンプ助産師は、国境なき医師団(MSF)からパキスタンに派遣され、「女性の病院」で6ヵ月活動した。病院での母子保健・産科医療の活動と並行し、地域へのアウトリーチ活動(※)もサポート。貧困層や社会から疎外されている人びとが、母子保健・産科医療を受けられる環境づくりに力を注いだ。活動を終えて帰国したルコンプ助産師に、現地の状況とMSFの取り組みについて聞いた。

  • 医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動

赤ちゃんとお母さんの命のために/アミ・ルコンプ(助産師)

MSFの病院で生まれた新生児を抱くアミ・ルコンプ助産師 MSFの病院で生まれた新生児を抱く
アミ・ルコンプ助産師

パキスタン北部に位置するペシャワールは、人口300万人とも400万人ともいわれる大都市です。医療機関は複数あるのですが、貧困層や社会から疎外された人びとが受診しやすい環境とは言えません。MSFはそうした人びとを対象とした「女性の病院」を運営しています。

また、アウトリーチ活動の範囲をさらに広げ、以前よりもずっと広い地域を回るようになりました。連邦直轄部族地域(FATA)に近い場所でも活動しています。この辺りは紛争が何年も続いているために医療体制がとても弱いのです。

ペシャワールや周辺地域には国内の紛争を逃れてきた避難者が大勢います。また、隣国のアフガニスタンから逃れてきた難民も多く滞在しています。そうした女性たちの多くは、母子保健・産科医療を受けられていません。費用をまかなえなかったり、病院までの移動が危険だったり、診療があること自体を知らなかったりなど、理由はさまざまです。

広報と研修も大切です
研修で使用している新生児の人形 研修で使用している新生児の人形

そこで、ペシャワール周辺に設置している「基礎医療ユニット」から、MSFの紹介、活動内容の紹介、診療はすべて無償であることなどの情報発信を行っています。また、基礎医療ユニットからMSFの病院までの交通費も負担しています。

一方、現地のスタッフを対象とした研修も行っています。母子保健・産科医療分野のハイリスク症例に関する内容です。質の高いケアを普及させる必要があるためです。MSFの病院を会場とし、3日コースの研修を毎月受けてもらっています。

講師はベテランの現地スタッフで、医療分野の海外派遣スタッフが監督しています。研修内容は講義(2つの現地語と英語で行われます)、症例紹介、シナリオ・セッション、病棟での実習です。安全かつ適切な出産のために、産前健診の重要性について講義もしています。

出産が週に100件も!

活動はとても密度が濃く、大変やりがいがありました。私は、研修スタッフ、病院の中間管理職、ケア担当などいくつもの役割をこなしました。現地スタッフも勤勉で、研修が行き届き、医療技術も十分備わっています。

この国で歩む人生は決して楽ではなく、そのためなのか誰もが強い個性を持っていて、症例報告での議論が白熱したこともあります。まだ若手の私は、受け入れられるまでに他の人より長く時間がかかったかもしれません。でもそれは、アフガニスタンに限らずどの国でもそういうものなのでしょうね。

病院では、MSFの海外派遣スタッフは9人を含む150人が活動しています。常勤の婦人科医が4人いて、いずれも女性です。そのほか、医師が5人います。手術室もあり、パキスタン人の麻酔科医と婦人科医もいますので、帝王切開も可能です。ただ、1週間に約100件の分娩があり、限界寸前になることもしばしばでした。

救えたかもしれない命

また、困難な課題にも直面しました。ペシャワールでは、妊娠中の女性たちが医師の処方なしで危険な薬を調達して使用することが常態化しています。こうした行為が、妊娠期間中の合併症や、未熟児出産、閉塞分娩の原因となっているのです。

最悪の経験として印象に残っていることがあります。四つ子を妊娠している女性が来院したことがありました。妊娠7ヵ月以前でした。産前ケアを不定期にしか受けられておらず、女性は胎児の月齢を知らなかったようです。また、女性はどうも、陣痛促進に利用されるホルモン剤「オキシトシン」を使い、自宅出産を試みたようでした。

けれども、妊娠7ヵ月以前の四つ子は、生まれてきて、生き延びていくには小さすぎました。その日、女性とそのご家族は、避けられたかもしれない四つ子の死を経験することになってしまったのです。

間一髪!そして生まれたのは……?
お母さんは双子だと思っていたが……! お母さんは双子だと思っていたが……!

パキスタンのように、情勢が不安定で衛生環境も整備されていない地域を抱える国では、"死"や"障害"は"よくあること"として受けとめられがちです。乳幼児死亡率が高く、女性は多産です。 一方、MSFの活動が奏功した成功体験もたくさんありました。ある日、大きなおなかの女性が夫と義母に付き添われ、連邦直轄部族地域(FATA)のハングー郡から車に4時間揺られてやって来ました。双子だとのことでMSFの病院を紹介されたのです。彼女はすでに4人の子どもを持つお母さんでした。

来院時、女性は疲れ果て、脱水症状をおこしていて、切迫早産の危険がありました。すぐに入院して治療を開始し、2週間後、無事に出産のめどが立ちました。そして生まれたのは、双子ではなく三つ子だったのです。出生体重は1.5kgから1.7kgの間で、男の子2人と女の子1人でした。小さくてもみな健康な赤ちゃんで、MSFの新生児室に3週間入院したあと、無事に退院することができました。

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