コンゴ民主共和国:子ども5人を1つのベッドに――はしか大流行の現場から

2015年11月13日掲載

カタンガ州では現在もはしかの感染拡大が続く カタンガ州では現在もはしかの感染拡大が続く

コンゴ民主共和国南部のカタンガ州では、はしかの大流行が続き、子どもたちの命を脅かしている。国境なき医師団(MSF)のマリオン・オスターベルガー医師は、アンコロ病院で2ヵ月にわたり、幼い患者たちの治療を続けている。病棟のベッドが足りず、1床に5人を寝かせたことも。

はしかは現在も国内全域へと拡大を続けており、対策が追いついていない。「目隠しで山火事を消そうとしている気分です」と話すオスターベルガー医師に、現状とMSFの取り組みを聞いた。

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懸命の治療も実らず……

涙があふれ、蘇生室を出た私。目の前には、患者と母親たちと同僚。植民地時代の古い建物の出入り口の階段に座り込むと、ひたすら泣き崩れました。ある特定の患者にこれほど心を揺さぶられる理由は、医師の立場からは容易に説明できません。

小さなアニーが私の腕の中で亡くなったのです。彼女を救うため、私たちは手を尽くしました。アニーは4歳。入院したばかりのことは、いつも不機嫌でふくれっ面。それが私の心をとらえました。

マラリアと栄養失調をはじめ、はしかについて考えられるほぼ全ての合併症にかかり、手を尽くしても熱はさがらず、助けるすべはありませんでした。あらゆる治療を行い、父親が昼夜を問わず病床について看護したにもかかわらずです。

病院は満床、スタッフは24時間体制に

MSFは各集落をまわってはしかの子どもたちを治療する活動も行っている MSFは各集落をまわってはしかの
子どもたちを治療する活動も行っている

病院は満床ではち切れそうなほどでした。患者198人に対し、ベッドはわずか80床。どの病棟も完全に限界を超えていました。はしか専門の集中治療部門が最も深刻で、5人もの子どもを1つのベッドに寝かせていたほどです。スタッフは超人的なペースで、週7日、昼も夜も働いていました。

欧州では、はしかは"軽い病気"と思われています。世界的に見るとはしかは今も子どもの主な死因となっているのですが、その事実が忘れられています。しかし、はしかウイルスはとても感染力が強く、特にマラリアや栄養失調などの他の病気で衰弱している子どもが感染した場合は重症化することもあるのです。

コンゴ民主共和国でも、5歳未満の子どもたちがはしかにかかったときには、ひどい下痢、耳の感染症、肺炎、目の感染症、さらに致命的な脳炎までをも含む合併症がよく見られます。

はしかに特効薬はありませんが、症状の 影響の軽減も、合併症と生涯にわたる後遺症の回避も可能です。下痢の予防、栄養失調への対応、目の損傷を抑えるビタミンAの服用、肺炎などの細菌感染症予防としての抗生剤投与がその方法です。

悪路を5~6時間もゆられて病院に

雨期の長雨で冠水した道路 雨期の長雨で冠水した道路

それにしても、これほど多くの子どもが深刻な容体で来院する事態に、悲しみ、怒り、そして憤慨することさえあります。

MSFが活動しているカタンガ州の面積は日本よりも大きく、スペインと同程度。広大な土地を走る道路は未舗装の悪路が多く、雨期には冠水してしまいます。住民が病気やけがをしても、容易に保健医療を受けられない環境なのです。

MSFの患者にはアンコロの町民もいます。ただ、大部分は郊外の診療所から移送されて来る患者です。MSFは周辺の医療施設(約20ヵ所)の看護師長を対象に、アンコロ病院へ患者を紹介する基準について研修を行いました。MSFの医療は無償で、アンコロへの交通費もMSFが負担します。

大抵の場合、子どもたちは母親とともにバイクタクシーの後部座席に乗って到着します。茂みを抜け、ひどい悪路に揺られる移動が5~6時間に及ぶことも珍しくありません。

子どもたちの生命力の強さに驚き

驚かされるのは子どもたちの生命力の強さです。複数の合併症に侵されて来院した子どもたちを残して退勤する私の心は重く、夜間に無線で「集中治療を監督してほしい」と要請されることも念頭に置きつつ宿舎に戻ります。ところが、夜が明け、また次の夜も明けると、子どもたちは次第に回復の兆しを見せ始め、数日後には危機を脱するのです。

患者を自宅に送り届けるときは特に感動的です。母親たちが歌い、踊り、抱き合い、私たちへの感謝を表してくれるのです。

MSFは多くの闘いを繰り広げ、勝利してきました。そして現在も、予防できるはしかウイルスと日々闘っています。その一方で、これだけの大流行が続いているにもかかわらず、現地では「子どもたちは最近、予防接種を済ませました」と報告されているのです……。

各村で、診療所で、そして病院へ向かう途中で、どれほどの子どもたちがはしかで命を落としたでしょうか。アンコロ病院は落ち着きを取り戻したようです。しかし、はしかは今も導火線の上を進む火のように国内全域へ拡大しています。MSFは時間とも競いながら、この感染症に取り組んでいます。まるで目隠しをしたまま、山火事を消そうとしているような気分です。

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