シエラレオネ:エボラ出血熱に終息宣言――回復者が抱える健康問題とは?

2015年11月09日掲載

MSFスタッフから健康問題について説明を受ける元患者たち MSFスタッフから健康問題について
説明を受ける元患者たち

西アフリカで流行しているエボラ出血熱について、流行地域の1つであるシエラレオネで、2015年11月7日、終息が宣言された。エボラの新規感染が、ウイルスの潜伏期間の2倍にあたる42日間、報告されなかった場合に、終息したとみなされる。2014年3月以来、MSFは西アフリカで1万287人のエボラ患者を治療している。

しかし、隣国のギニアではいまなお流行が続いている。西アフリカで1万1000人以上の命を奪ったこの病気について、私たちはまだ知らないことが多い。ウイルスの残存期間は?エボラは"風土病"となってしまうのか?回復者が抱える健康問題とは?国境なき医師団(MSF)の公衆衛生専門家であるアーマンド・スプレッチャー医師に聞いた。

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エボラが、西アフリカで依然として脅威だと考えられているのはなぜでしょうか。

MSFの健康診断を受けるエボラの元患者 MSFの健康診断を受けるエボラの元患者

シエラレオネでは終息宣言が出たものの、ギニアでは今も新たな症例が確認されています。ギニアの首都コナクリにあるMSFのエボラ治療センターは、10月下旬に、妊婦1人を含む新規患者3人を受け入れました。妊婦から生まれた赤ちゃんもエボラに感染していましたが、今のところ命は無事です。

2人の患者については、どの経路で感染したのか、いわゆる"感染鎖"がわかっています。フォレカリアの町で患者が亡くなったケースとのつながりがあります。しかし、もう1人の感染鎖はまだわかっていません。

現在、感染経路の監視体制の弱さが主なリスクとなっています。ギニアでは、患者と接触した人で、追跡対象になっていない人が233人いるとみられています。ある患者は相乗りタクシーを利用したことがわかっていますが、現地の保健当局は、その運転手や乗客を特定できていません。

こうした事情から、完全な感染制御は非常に難しいのです。シエラレオネで終息しても、隣のギニアで続く限り、新規感染の危険は消えません。西アフリカでは今後も、警戒と迅速な対応能力の維持が必要だと思われます。

エボラが西アフリカの風土病になる恐れはありますか。

ウイルス性疾患が風土病になってしまう場合、2つの経路が考えられます。1つは、性交渉による感染経路を持ち、ウイルスが長期残存するケースが多い場合です。性行動が活発な年齢層の男性で、エボラから回復した人の多くは、1年前にエボラに感染しています。性交渉による感染例が多数発生しているとすれば、患者数はさらに増えていたはずです。しかし、エボラではこうした状況は確認されていません。

もう1つの経路は、エボラウイルスが新しい宿主に適合した場合です。例えば、HIVやはしかの自然宿主がヒトに近い動物だったため、ウイルスが変異を繰り返す過程でヒトの感染症になったと考えられています。一方、エボラはコウモリが起源と考えられています。ヒトとの適合率はそれほど高くなく、他の病原ウイルスに比べ、変異も速くありません。

また、エボラ感染の仕組みそのものが、風土病にはなりにくいとみられます。わずかな接触だけで簡単に感染拡大することはありません。インフルエンザのように、街を歩いているだけで感染することはないのです。

流行の原因となるのは、安全管理がなされていない埋葬やエボラ患者の看護です。危険性が理解され、社会的なつながりが末端まで特定できれば、エボラの感染鎖は断ち切れます。過去のエボラ流行地域では、そのようにして感染制御が行われてきました。

ウイルスは患者が回復した後も体内に残るのでしょうか。

記録されている2万7000症例の中には、免疫系の活動が比較的弱い精巣、脳、目などの部位にエボラウイルスが潜り込んだ長期残存症例がわずかながら見られます。ただ、脳や目などから他人の身体にウイルスが広がる可能性は高くないでしょう。精巣内の精子は例外で、ウイルスを他人に感染させやすいと考えられます。しかし、こうした症例そのものがまれです。多数の新規感染を引き起こすほどの規模はありません。

少数の長期残存症例は、回復者に残るリスクを示唆しています。しかし、現時点でそのリスクの程度は測れません。いずれにしても、回復者が抱えるリスクにとらわれることは大きな誤解につながり、総合的な疫学的監視への関心と注力がそがれてしまう恐れがあります。

回復者からの感染の可能性だけに焦点を置くのではなく、監視体制の維持が重要です。科学は今こそ、エボラ回復者のためにあるべきです。

エボラの回復者に健康問題は見られますか。

目の疾患を調べる検査を受ける元患者 目の疾患を調べる検査を受ける元患者

西アフリカには回復者が1万5000人いるとみられています。多くの人は今も、心身の健康問題を抱えています。関節痛、慢性疲労、聴覚障害、目の疾患などが挙げられます。目の疾患は早急に専門ケアを受けないと失明の恐れがあります。エボラに感染した体験、治療センターで過ごした体験、ウイルスへの恐怖などが、重度の抑うつ症状、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、反復的な悪夢やフラッシュバックなどの精神保健問題を引き起こすこともあります。

ところが、回復者たちは保健医療を受けづらい環境に置かれています。保健医療従事者の間にも、対応への不安が残っているためです。また、職を失った回復者にとって保健医療の利用は経済的にも困難です。回復者と家族が無償で良質なケアを滞りなく受けられるよう、保健管轄局はじめ全関係者による対策の見直しが不可欠です。

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