マラウイ:新天地を求める人の行く先に......

2015年08月07日掲載

絶望的な貧困や暴力から逃れるために南アフリカを目指したが…… 絶望的な貧困や暴力から逃れるために
南アフリカを目指したが……

エチオピアなどアフリカの各地から、マラウイを経由して南アフリカ共和国への入国を試みる人びとが後を絶たない。絶望的な貧困から逃れたいと願い、まともな生活を夢見る彼らの目には、南アフリカが夢をかなえられる場所だと映る。

しかし、マラウイに足を踏み入れた人の多くが不法入国で逮捕され、収監されている。60㎡に200人以上が詰め込まれるなど刑務所の環境は苛酷を極め、体調を崩す人も多い。不法入国者には本国への帰還が命じられるが、その費用は自己負担なので到底払えない。

進むことも帰ることもできず塀の中に留め置かれている彼らの実情を知るため、国境なき医師団(MSF)の文化人類学者がマラウイの首都リロングウェにあるマウラ刑務所に調査に向かった。マウラ刑務所では、MSFが2014年から医療・人道援助を行っている。

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鶏舎のような空間で

1人あたり0.5㎡にも満たないスペースで日中を過ごす 1人あたり0.5㎡にも満たないスペースで日中を過ごす

最悪なのは夜だ。大勢の男たちの体から出る熱がはっきりと感じられてとても息苦しい。彼らはコンクリート床の部屋に詰め込まれている。1人あたりのスペースは平均0.5m2に満たない。1日のうち15時間も、 鶏舎のニワトリのように隙間なく並ばされたまま座ってうなだれ、時折、隣の肩にもたれかかったりして過ごす。

これがマウラ刑務所の現実だ。800人収容の想定で建てられたこの刑務所に、現在は2650人が収監されている。中には、南アフリカ共和国に向かう途中で不法移民として逮捕された300人ほどが含まれている。

これらの人びとは、移動性の高まった現代世界の象徴ともいえる。暴力、不平等、慢性的な貧困から逃れようと移動し続けているのだ。何の保証もないまま、南アフリカでのまともな生活が送れると信じ、祖国を離れた。そして今、マラウイの刑務所に収監されている。

「ここでは人間扱いされないんだ」

マウラ刑務所の中庭 マウラ刑務所の中庭

6月の晴れた日の朝、不法移民との判決がくだった人びとの生活環境を調査するため、マウラ刑務所に向かった。日の光が彼らの現実をわびしく照らす。同じ場所には、暴行・傷害・殺人などの罪で長期刑に服している者もいる。マラウイ人で受刑者の1人であるトーマスが、広さ60㎡の監房内にある黒板を示し、「ここには204人が詰め込まれています」と教えてくれた。

彼に紹介されたエチオピア人のグループに話しかける。日光浴をしていた30代のアベバが「ビタミンDを補給しているのさ」と冗談を言ってみせる。エチオピアのドゥラメから来たのだという。「俺たちは犯罪者じゃない!でも、ここでは人間扱いされないんだ」

外国人受刑者の大半はエチオピア人だ。不法入国による拘束者数は数年で増え続け、人道的な見地から懸念されている。刑期は3ヵ月とされることが多いが、実際の拘束期間はもっと長い。

栄養失調になる人も

収監者に配給される食事「ンシマ」 収監者に配給される食事「ンシマ」

マラウイの法律では、不法移民との判決を受けた人は本国への帰還を命じられる。しかし、その行政手続きが遅れ、帰還が進まないのだ。しかも、帰還にかかる費用は本人が負担すると定められている。経済力が弱い彼らにとってまったく矛盾した対応だ。

壁によりかかっている青年が言う。「南アフリカに行く夢のために何年も働いた結果がこれです。難しいだろうとは思っていたけれど、刑務所に入れられるとは思ってもみませんでした。アフリカ人はみな兄弟だと信じていたのに……」。真っ直ぐな視線を向けてくる。これまで真実だと信じてきたことが揺らいでいると訴えるかのように。

青年3人が屋外で豆の文句を言っている。「見ろよ。ろくなものじゃない。火が通ってないし腐ってる」。「みんなそのまま食っていますよ」と別の青年がフォローする。食事は1日1度だけ。トウモロコシの粉を練り固めたンシマが一皿配られる。空腹は満たされるが栄養には乏しい。たまに出てくる豆はごちそうだ。収監者の栄養状態はあまりにも悪く、中程度から重度の栄養失調患者18人がMSFの治療を受けた。

「帰ったとして、何ができる?」

毎週水曜の運動時間に、男性にはサッカー、女性にはバスケットボールが認められる 毎週水曜の運動時間に、男性にはサッカー、
女性にはバスケットボールが認められる

エチオピア人には南アフリカが"希望"に思える。「故郷では土地が足りなくってね。家族が多すぎるんだ」とアベバは兄弟の数を指折り数える。「南アフリカで2~3年も働けば家を買えるさ。エチオピアじゃ20年働いても何も買えないよ」。

別のエチオピア人は付け加える。「エチオピアでは、土地持ちの家の人間でなければ仕事をもらえないんだ。俺の家族は何も持っていなかったよ」。出国する以外に選択の余地はなかった人びと。生きる最後の望みが南アフリカだったのだ。

エマヌエルが破れた財布を取り出した。中には彼のお守りが入っている。3つの電話番号が書かれた1枚の紙だ。「南アフリカにいる友達です」

刑務所の中庭で、アベバはサッカーをしている他の収監者をじっと見つめている。「国に帰りたいか、ってあいつに聞いたことがあるんだ。そしたらこちらを向いて、年の割に何かを知りすぎた感じの笑みを浮かべたよ。『帰れないよ。エチオピアに帰ったとして、何ができる?俺らはもう働けない。どんな仕事に就くにも無理なくらい体を壊しているんだから』だってよ」

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