エチオピア: 安全な出産で母子の命を守るには?

2015年07月28日掲載

ドロ・アド病院でMSFの診察を受ける母子 ドロ・アド病院でMSFの診察を受ける母子

「夜眠れないこともあるんですよ。運ばれてきたお母さんの死を防ぐ方法はなかったのかと考え続けてしまって」と、国境なき医師団(MSF)のアイーシャ・アケッロ助産師は打ち明ける。

エチオピアのソマリ州リベン県で、国境なき医師団(MSF)が母子保健・産科医療を提供しているドロ・アド病院。アケッロ助産師が、ベッドに腰かけたラビヤ・オスマンさん(23歳)に心をこめて話しかける。ほかのベッドでは、生まれたばかりの赤ちゃんの隣で横になっているお母さんたち。ラビヤさんはひとりきりだ。やつれた青い顔で物思いにふけっている。

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自宅から病院までは200mだが……

ラビヤさんがおずおずとアケッロ助産師を見てうなずく。2日前に自宅で出産した。閉塞分娩で何時間もかかったが、自宅出産の際に付き添う伝統的な分娩介助者はなすすべがなかった。ラビヤさんは出血多量で意識を失った。赤ちゃんも助からなかった。

彼女の自宅は、病院からわずか200mの距離にある。搬送されてきた時はすでに意識不明の重体で、血圧も低下していた。どうにか出血を止めたが、重度の貧血に陥っている。付き添いの家族に輸血の必要性を訴えたが反対された。アケッロ助産師は「ラビヤさんが意識を取り戻してから、何時間も、ご本人とご家族の説得を続けましたがだめでした」と肩を落とす。

意思決定に時間がかかる理由

病院出産の安全性を浸透させることが母子の命を救うことにつながる 病院出産の安全性を浸透させることが
母子の命を救うことにつながる

この地域ではラビヤさんのようなケースが珍しくない。病院で輸血や帝王切開を受けることに反対する女性は多く、処置を受ける決意をした時にはすでに手遅れになっていることも珍しくない。胎児が助からなかったり、母体が危篤に陥っていたりするのだ。

この地域では自宅出産こそが病院出産よりも安全だとの意識が根強く、その結果、出産に関する正しい地域の普及が遅れたり、病院出産への恐怖心が生まれたりしていると、アケッロ助産師は考えている。さらに、決定権がすべて男性にあることが、事態をさらに難しくしている。意思決定に加わる人が多く、結論が出るまでに時間がかかるのだ。その時間があれば母子の命を救えるのに!

アケッロ助産師は13年以上の経験を持つ。MSFでの活動歴は7年に及ぶ。これまで、南スーダンのほか、ウガンダ、ナイジェリア、スーダン、エチオピアへ赴任した。エチオピアでは、南部での活動を経て、現在のドロ・アド病院のプログラムに参加した。

これまでの経験した活動地の中でも、エチオピアのリベン県の妊婦死亡率は高い部類に入る。アケッロ助産師は「病院で安全に出産できることを知らず、助けられたかもしれない症状で亡くなる女性たちを見ると本当に悲しくなります」と話す。

地域の分娩介助者を通じて健康教育

地域の分娩介助者から健康教育を受けることで住民の意識も変わりつつある 地域の分娩介助者から健康教育を受けることで
住民の意識も変わりつつある

MSFは2014年12月、地域の伝統的な分娩介助者を健康教育担当スタッフとして養成するプログラムを開始した。11名を採用して研修を行い、ドロ・アドの11村に1人ずつ配属した。この活動が始まってから、病院での出産は急増している。以前は月平均18件~20件だったが、現在は50件~70件で推移しているのだ。ドロ・アド病院では、3月が54件、4月が70件、5月が51件となっている。

健康教育担当スタッフは、産前・産後ケアや出産時に、母親に付き添って病院へ行く。病院では健康教育チームの一員として母親をサポートする。この取り組みが普及し、さらに多くのお母さんが病院に来るようにと、アケッロ助産師は心から願っている。

エチオピアのソマリ州リベン県に位置するドロ・アドの人口は約13万人。MSFはこの地域で2009年から活動している。また、エチオピア政府や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と協力し、ソマリアからの難民を対象とした医療・人道援助を、ブラミノとヒロウェィンの両難民キャンプで提供している。

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