ジンバブエ:HIVとともに生きる子どもたち

2014年12月01日掲載

国境なき医師団(MSF)のアン・セルベルイ医師(30歳)は、ジンバブエのエプワース地域で子どものHIV/エイズ患者を担当している。患者はすべて20歳未満。その多くが孤児で、HIV陽性であることを理由に偏見にさらされてきた。この少年少女たちは今、患者支援グループ参加し、尊厳の回復に努めている。セルベルイ医師が活動について報告する。

エプワースでは2014年、20歳未満のHIV陽性者165人が抗レトロウイルス薬(ARV)を開始した。しかし、15歳未満の子どもはこのうちの8%に過ぎない。同地区は首都ハラレ郊外の半都市的な場所だが、大半の住民が貧困ライン以下の生活水準だとみられる。HIV検査における陽性率は20%弱で、国平均の15%よりも高い。MSFは数ヵ月かけて、青少年のためのHIV検査・ARV治療普及を重点的に呼び掛けていく。

印象深いまなざしの少女

MSFの患者支援を受けている子どもたち MSFの患者支援を受けている子どもたち

MSFは、HIV陽性の10代の患者とグループ・ディスカッションを行っている。私が主宰する集まりは、12歳未満の子どもたちが相手だった。緊張と興奮。患者とじっくり話す最初の機会となる。私と心理療法士が質問票とテープレコーダーを準備し、ピア・カウンセラー(※)が通訳として帯同した。

  • 対象者と同じ悩み・障害を抱え、克服のためのアドバイスをするカウンセラー

ディスカッションの参加候補の子どもたちと1時間ほど遊んでから、カウンセラーを介して関心があるかどうかを尋ねた。残念ながら手を挙げたのは女の子1人だけ。ほかの子たちは外でサッカーをする方がいいということだった。私たちは彼女と一緒に始めることにした。

「ウリ・セイ?」(元気?)。「ンディリ・ボー」(元気です)。「マコレ・マンガニ?」(何歳?)。「ンディネ・"イレブン・イヤーズ"」(11歳)。かわいい子だった。角型の顔に優しい微笑み。印象深いまなざし。明るく活発で、なんでも知っているという目。しかし、幸せそうな目ではなかった。

「支援グループに通うのは楽しい?」。少女が現地の言語ショナで答え、それを受けてカウンセラーが訳す。「楽しいと言っています。いつも楽しみだそうです」

「どんなことが楽しいの?」。彼女はよくしゃべる子だった。人見知りかと思っていたが、はきはきした口調でいろいろと話してくれた。

つらい体験を押し込めて

通訳が伝える。「ほかの子たちと一緒にいられることだそうです。今までの出来事を思い出さずに済み、つらい記憶もよみがえってこないからと。自宅での体験も忘れていられると言っています」

その答えに不安を感じ、家庭環境を尋ねた。予想通り、家族構成は母親と義理の父、父親が違う兄弟姉妹が3人。実の父と2人の年上の兄弟は彼女がまだ幼いころに亡くなっていた。この話題を掘り下げてみたいと思ったが、用意していた長い質問票を一通り消化しなければならない。

「HIV感染はどうやって知ったの?」。「8歳のころ母親に連れられてこの診療所を訪れたそうです。全身がただれていた状態だったと。HIV検査の結果は陽性。ただ、母親から『誰にも言わないように』と口止めされたとのことです」

「そのときどう感じた?」。「つらくて悲しかった。そして、母親にこう尋ねたそうです。『どうしてウイルスが私の身体に入ったの?どうして病気になったの?』母親からの答えはなかったそうです」

「ほかにこのことを知っている人は?」。「おばだけだそうです。義理の父と兄弟には話せず、教会も周囲の人も知らないと」

打ち明けられる相手がいるということ

「ほかの子と違う扱いを受けることは?」。「おばの家ではほかの子と同じですが、自宅ではほかの子が贈り物をもらうときも、常に仲間外れだそうです」。少女はいつしか顔に手を押し当て、泣き始めた。「さあ、こちらに来て」。長いすの上をにじり寄って来る彼女に片腕を回す。しばらく泣き止まず、顔は両手に覆われていた。

「ほかに差別されたと感じることはある?」。「仕事から帰宅した義理の父を出迎えても、見向きもされないそうです。ですが、ジュリーが『お帰りなさい』というと家族は温かい雰囲気になると。学校の教材を買うお金もこの子だけもらえないそうです」。少女の手を握る様子から、カウンセラーの同情が見て取れた。

「どんな気持ちになる?」。「別に……と。お小遣いを分けてほしいと頼むこともありますが、ほんの少しでも断られるそうです」

「ほかの人にこういう話をしたことは?」。少女は首を横に振った。「話してみてどう?」。「気持ちが軽くなった、と言っています」

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