キルギス:住民間の強い不信感が人びとへの医療を妨げる―コーディネーターへのインタビュー―

2010年07月08日掲載

キルギス

キルギス南部における国境なき医師団(MSF)のコーディネーター、アンドレイ・スラブスキー医師が、数百人が亡くなった住民間の衝突から2週間が経過したオシ市の状況について語った。

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現地では依然として緊迫した状況が続いているのでしょうか?

オシ市のフードマーケットへ行く途中に暴行を受けた男性を診察するMSFスタッフ。 オシ市のフードマーケットへ行く途中に
暴行を受けた男性を診察するMSFスタッフ。

住民の間には、依然として緊迫した気配が広がっています。先週の初め、MSFが支援しているオシ市の病院では、1日で25人の負傷者を受け入れましたが、その患者の多くは殴打されていました。依然としていろいろな噂が飛び交い、恐怖に拍車をかけています。しかし全般的には、状況は沈静化しつつあります。6月27日の日曜日には国民投票が無事に行われ、ウズベキスタンや国境周辺に避難していた人びとも、その多くが戻ってきました。戻ってきた人の多くは、自分たちの家が焼き払われているのを目の当たりにしています。

人びとが最も緊急に必要とするものは何ですか?

医薬品と医療器具の配給を行っている様子。ジャララバート市にて。 医薬品と医療器具の配給を行っている様子。
ジャララバート市にて。

人びとは何もかも失ってしまいました。ですから、基本的にはすべてのものが必要です。家を失った人びとは、隣人の家に身を寄せたり、学校で生活したりしています。このように過密な住環境では、清潔な水もなく、基本的な衛生環境も整っていません。こうした状況に対処するためMSFは、せっけん、タオル、シャンプーなどが入った衛生用品キットのほか、調理器具、毛布、貯水容器などを各家庭に配布しました。また、人びとが医療を受けられるようにすることも重要です。そこで私たちは、オシ市とジャララバート市全域で12ヵ所の医療施設を支援し、医薬品と医療器具の寄贈と医療スタッフに対する指導を行っています。さらに私たちは心の傷の問題も目にしています。オナディルの診療所で活動するMSFの医師たちは、精神疾患に苦しむ患者の増加を目の当たりにしています。私たちがオナディルの診療所に到着したとき、そこで働く医療スタッフから多くの妊婦が流産したと聞かされました。これもまたストレスが引き起こした悲劇的な結果であると言えるでしょう。

心の傷は深く、癒えるのには時間がかかりますね?

私たちが出会った人びとの多くは、依然として深いショック状態にあります。母親たちによれば、子どもたちは夜眠ることができず、外で遊ばなくなり、少しの物音にもおびえて、すぐに家の中に逃げ込んでしまうと言います。先週、私たちは国境付近の村スラタシュに赴き、キルギスに戻る途中の数千人の国内避難民に診察を行いました。私たちは多くの人びとが泣きながら国境を越えてくるのを見ました。私たちが「気分はどうですか?」と声を掛けると、みんな涙ながらに語りだしました。看護師は足に重傷を負った老人を手当てしました。私が付き添って、オシ市郊外のオナディルにあるMSFが支援する診療所に向かう途中、彼は私に語りました。火事で焼けてしまった家を4年かけて建て直していたところ、今回の暴動でまた家を壊されてしまったと言うのです。彼は赤ん坊のように泣き出しました。しかし突然、断固とした表情で私に言いました。「大丈夫、またやり直せばいいのです」。このとき私は、彼は何があってもこの地を離れず、ずっとここにいる覚悟なのだとわかったのです。

暴動後の住民間の雰囲気は、どのようなものでしょうか?

その質問に答えるのは簡単ではありません。しかし、医療サービスの現場から見る限り、住民間には強い不信感があり、その結果多くの人びとが基礎的な医療を受けられないでいます。キルギス当局は、南部地域へ医療援助を送るために尽力していますが、実際多くの人びとにそうした援助は届かないでしょう。ウズベク系住民の間には、主にキルギス系と見なされる政府のサービスに対する恐怖と不信感が依然として残っています。さらに医療施設に武装した兵員が現れることで、ウズベク系住民は専門医療を受けるのをますます恐れるようになっています。このような状況の中で、MSFの医師たちも病院への搬送を拒む患者の問題に何度か直面しています。ナリマン病院では、ベッドに寝ていた糖尿病の男性患者が2度も武装兵員に捕らえられ、病院から連れ出され殴られたと聞きました。私たちはこうした事態を関係当局に報告し、武装兵員に対して医療倫理に敬意を払うよう申し入れをしました。これで事態が好転するよう私たちは願っています。

こうした状況でMSFはどんな役割を果たすことができますか?

75歳の患者に診察するMSFスタッフ。オナディルにて。 75歳の患者に診察するMSFスタッフ。オナディルにて。

MSFの役割は、援助を必要とする人びとのもとに赴くことです。最近の暴動と、その結果生じた不信感と恐怖は、もともと存在した医療ニーズの問題を悪化させました。小さな診療所には収容しきれないほどの患者が殺到し、その一方で、キルギス当局による診療施設は、多くの住民にとっては近づきがたいままです。そこでMSFは、援助をほとんど受けていない医療施設を中心に、支援をしていくことにしました。たとえば、MSFの医師と看護師が現地スタッフとともに働いているオナディルの診療所もその一つです。MSFが支援するすべての医療施設のスタッフとの連携をはかり、患者を移送するときには安心させるために付き添っています。また、私たちはすべての患者が継続して医療を受けられるよう努力していきます。しかし、それはまだ長い道のりです。

MSFのキルギス南部での活動

MSFはオシ市とジャララバート市の各地域で、医療と心理ケア活動を続けている。また、暴動によって何らかの影響を受け、避難民となった多くの人びとに救援物資を配布している。

オシ市の南東に隣接する人口5万人のオナディルで、MSFの医師と看護師たちは、同地区の診療所に着任した最初の1週間で、負傷者の包帯交換を169件行い、535件の診察を行った。心の傷の問題に加えて、ここで見られる主な疾患は、呼吸器感染、高血圧、そして下痢である。またMSFは、診療所内に手術設備を設置し、水・衛生活動にも取り組んでいる。

この数日間で、暴動から避難していた数千人の人びとが、元の居住地域に戻ってきた。多くの家は焼き払われていて、近所の人や親戚の家、あるいは学校に身を寄せる人たちもいる。また、主に女性と子どもではあるが、恐ろしさのあまり元の居住地域に戻ることができず、ウズベキスタンとの国境付近に留まっている人たちもいる。

国境付近の村スラタシュにあるMSFの診療地点では、元の居住地域に戻る途中の86人が診察を受けた。

オシ市とジャララバート市のいくつかの地域および国境付近の数ヵ所で、MSFは現在までに衛生用品キット(せっけん、シャンプー、タオル、そのほかさまざまな衛生用品を含む)714個、毛布1898枚、調理器具149セット、貯水容器470個、高たんぱくビスケット450箱を配布した。

多くの人びとは過激な暴力を目の当たりにして、深いショック状態にある。MSFの心理療法士4人は、キルギス南部全域で大規模な心理ケアプログラムを提供している。心理療法士たちは、各患者に対する診察を行うとともに、地域の人びとへのグループサポートにあたる現地のカウンセラーに研修を行っている。

そして医師、看護師、心理療法士、ロジスティシャン(物資調達、施設・機材・車両管理など幅広い業務を担当)各1名からなるもう1つのMSFチームは、キルギス南部のさまざまな地域でニーズ調査を行っている。

現在までにMSFは、12ヵ所の医療施設に、医薬品、医療物資、手術器具を寄贈し、支援を行っている。

64人のMSFスタッフ(海外派遣スタッフ38人、現地スタッフ26人)が、現在キルギス南部でMSFプログラムを運営している。これらの各チームは、複数名の医師、外科医、看護師、心理療法士、ロジスティシャン、水・衛生活動専門家によって構成されている。

MSFは2006年から、キルギスの刑務所や拘置所で結核治療プログラムを運営している。

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