サヘルの栄養危機対策に公衆衛生・開発援助の視点を

2012年04月27日掲載

マリー=ピエール・アリエMSFフランス事務局会長 マリー=ピエール・アリエ
MSFフランス事務局会長

アフリカ・サハラ砂漠南縁に広がるサヘル地帯。貧困、紛争、干ばつなどが原因で慢性的な食糧不足に陥っている。農作物の端境期にあたる5~7月は栄養失調の患者数がピークに達する。いわゆる“サヘルの危機”だ。しかし、危機の実態はどこまで正確に伝えられ、考察されているのだろうか。国境なき医師団(MSF)のフランス事務局会長で医師のマリー=ピエール・アリエが、サヘル地帯の現状と課題を指摘し、新たな対策を提唱する。

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各国で異なる“危機”の実態

MSFスタッフと母親につきそわれて集中栄養治療センターに搬送される子ども(ニジェール) MSFスタッフと母親につきそわれて
集中栄養治療センターに搬送される子ども(ニジェール)

サヘル地帯で新たな栄養危機が予想されている。警鐘が繰り返され、広く援助を求める声が続いている。そうした声は私たちに何を伝えているのだろうか。

サヘル地帯では毎日600人を超える子どもたちが栄養失調で亡くなっている。西アフリカの8ヵ国で、2011年に計50万人超の重度栄養失調児が治療を受けた。栄養失調のピークは農業の端境期にやってくる。この地域では、貧しさ、保健医療の不足、食糧の不平等な分配が常態化している。

そこに天候、政情、財政などの副次的な要素が加わると、例年よりも過酷な状況になるとだろうといわれている。その規模はまだ予測がつかないものの、周期的・構造的な危機としてサヘル地帯の子どもたちを脅かしているという。

しかし、こうした訴えがすべてを物語っているわけではない。複数の国が栄養危機の対策に取り組んでいるが、危機の予測能力や管理能力が国によって大幅に異なる可能性があることは語られていない。また、財政、輸送、物資調達、安全上の制約なども地域によってさまざまだ。

たとえばマリでは、2012年3月のクーデターに端を発する政情不安、いまも続く北部の紛争、拉致の危険性などから、地域住民への医療・人道援助活動は困難を強いられるだろう。

治療・予防が進展、小児死亡率が低下

栄養失調が病気であることや、治療プログラムが飛躍的に発展していることも十分には語られていない。現在では、栄養不足の子どもの治療を母親にまかせ、窮屈な入院治療を避ける方法が採られている。

治療対象となる子どもの数も増えている。ニジェールはその好例だ。2004年に治療した子どもは数千人に過ぎなかったが、2011年には30万人が治療を受けている。栄養失調の子どもが増えたというわけではなく、治療の可能性が広がったことを意味している。

予防にも最新の研究結果が反映されている。ミルクを主原料とする栄養強化食を幼児に配布することで、栄養失調を予防し、小児死亡率が大幅に減少している。

ニジェールの5歳未満の子どもの死亡率は、2011年が2005年の3割減だった。治療法と予防法の進歩が貢献したと言える。サヘル地帯では過酷な状況が続いているが、栄養失調との闘いは確実に進展しているのだ。

公衆衛生の一環として長期的対策を

助けを訴える声と警告を発する声が繰り返されている中、援助団体や各国政府・国際機関にはサヘル地帯の栄養危機には新たなアプローチが必要との共通意識が生まれている。

栄養失調の対策は長い間、危機的状況にある地域の災害医療の一環だと位置づけられ、子どもたちを対象とした“人道援助”が大前提とされてきた。

しかし、2011年のニジェールにおける生後6~23ヵ月の子供たちの栄養失調発生率が30%に達するとなれば、これはもはや人道上の問題にとどまらず、公衆衛生の問題である。緊急医療援助は対処療法としては必要だが、それだけでは十分と言えない。長期的に持続できる対策を講じなければならない。

2012年、緊急人道援助が再び展開されようとしている。援助資金の出資者と人道団体の参画は繰り返し起こる栄養危機への唯一の対応手段であり、もっとも重要なものだろう。しかし、同時に、持続可能な長期計画への移行にも着手しなければならないのだ。

公衆衛生として栄養失調の対策を行うには、乳幼児を想定した基礎保健医療に組み込み、医学的・栄養学的方法を適切かつ効果的に実践することが求められる。予防接種とセットにすることも一案だ。こうした構想に立脚すれば、予防医療と資金調達の新たなモデルができるだろう。

MSF、新治療・予防モデルの開発に着手

いま、明るい兆しが見え始めている。地元産の安い栄養治療食の流通、治療・予防の非医療従事者への引き継ぎ、低コストの食糧流通システム、開発をきっかけとした支援者からの資金の再流入などが実現している。

MSFのサヘル地帯での活動は、今後は2本立てになる。チャド、セネガル、モーリタニアなど栄養失調が深刻化する恐れのある地域で、命の危機に瀕している子供たちをケアする活動を続ける。同時に、治療・予防モデルの開発を進め、援助の質を落とさずに、簡単でだれでもできる方法を確立する。

2012年はサヘル地帯にとって、分岐点になるかもしれない。開発援助のアプローチに人道援助を結びつけることで、栄養失調とそれに付随する人道危機が解消される希望が持てるようになる。そうなれば、数百万人の子どもたちにとって耐えがたいこの現状が、めったに起こらない不幸な例外となる日がくることだろう。

(ル・モンド紙オンライン版2012年4月13日に掲載)

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