カンボジア:"結核大国"に挑む――MSF看護師の選択

2014年07月21日掲載

MSFのヘレン・ティンドール看護師マネジャー MSFのヘレン・ティンドール看護師マネジャー

国境なき医師団(MSF)のヘレン・ティンドール看護師は、2013年10月からカンボジアで、結核対策の看護師マネジャーとして活動している。彼女は「始めからカンボジアに特別な思いがあったわけではないんです」と率直に打ち明ける。しかし、結核有病率が世界で最も高い国の1つであるカンボジアを、今は「離れがたい」と感じている。

ティンドール看護師は「アフリカに行くんだろうなと思っていました。MSFに登録するための面接でも『アフリカで活動したい』と伝えていました。でも、提示された国はカンボジア……自分自身を納得させて承諾しました。断ろうとは思いませんでしたから」と振り返る。

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「結核?聞いたことはありますよ」

MSFから結核対策のパンフレットを受け取り説明を聞く人びと MSFから結核対策のパンフレットを受け取り
説明を聞く人びと

コンポンチャム州の病院に赴任したティンドール看護師は、さまざまな窮状を目にすることとなった。極貧と表現するしかない生活、さまざまな資源の欠乏、予防可能な病気で亡くなる人びと……。

ティドール看護師が管理する外来・入院患者用の区画のうち、入院用の区画はさらに2つの空間に分割されている。一方は結核感染の確定診断がおりた人、他方は感染疑いの人や子どもの患者向け。つまり、子どもの患者は成人患者から隔離することになっているのだ。

ティンドール看護師は、薬剤耐性結核(DR-TB)対策プログラムにもかかわっている。多くの患者は自宅療養だ。健康教育も彼女の仕事。学校や集落を訪れ、結核について周知を図る。結核の流行が広範囲に及んでいるカンボジアでは、有病率が口10万人に対して約800人と、世界で2番目に高い。健康教育は非常に重要だ。

「結核の流行が深刻なので、誰もが多少の知識を持っています。ただ、それは基本的な知識にとどまっています。よくある反応は、『結核?聞いたことはありますよ。咳が出るんですよね』という声です。そこまでなのです」

結核と貧困の密接な関係

MSFによる結核の集団検査を待つ村人たち MSFによる結核の集団検査を待つ村人たち

貧困が深刻な社会問題となっているカンボジアでは、栄養失調も結核の流行に深刻な影響を及ぼしている。

「結核は貧困や栄養失調と関係性が強い病気です。栄養失調になると、免疫系の機能が低下し、結核を発症しやすくなります。発症すると食欲がなくなり、さらに衰弱します。50kgだった体重が35kg、さらには30kgになり、子供の成長は著しく阻害され、実年齢よりも5歳は幼く見えるようになります」

その一例が、ティンドール看護師の着任当初に出会った13歳の少年だ。「7歳くらいだと思っていました。それほど栄養が不足していたのです。呼吸をするたびに皮膚がろっ骨の隙間に落ち込んでいくのが、目で見てわかるほどでした。毎日、巡回で少年のもとへ行きました。しかし、ある日、彼の姿はありませんでした。助からなかったのです。とても悲しい結果でした」

しのび寄る多剤耐性結核

貧困と人的・物的資源の不足から、感染症対策の難しさや、徐々に増加している多剤耐性結核(MDR-TB)の問題が垣間見える。

ただ、先進国と途上国の治療方法は対照的だ。先進国でMDR-TBに罹患した人は、少なくとも6ヵ月隔離され、身体から結核菌が駆逐されるのを待つ。その確認は検査施設で行う必要がある。

一方、カンボジアでは、危険な容体を安定させることを最優先として、治療支援は患者の生活の場を中心に行われる。患者は帰宅できるメリットがあるが、医師の指導により家族には近づけず、食事や睡眠も家族と離れて取る。

カンボジアでの任期を延長

これらの困難があるものの、MSFのカンボジアでの活動も、そしてティンドール看護師の活動も続いていく。アフリカでの活動を望んでいた彼女だが、先日、カンボジアでの任期延長を申請し、受理された。

「全体的な見通しは明るいと思います。2012年の世界保健機関(WHO)の発表では、カンボジアの結核有病率は直近10年で半減しています。国際的には依然として最悪の水準ですが、減少傾向は続いています。MSFも一定の貢献を果たしていると思います」

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