西アフリカ:なぜエボラがここまで流行したのか?――MSF医師の見解(上)

2014年07月09日掲載

西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネでのエボラ出血熱の流行は、過去に例を見ない規模となっている。国境なき医師団(MSF)が2014年3月以降に治療した感染確定者の数も250人を超えた。

MSFのヒルデ・ド・クレルク医師は過去に6回、エボラ緊急対応に携わってきた。これまではコンゴ民主共和国やウガンダでの活動で、ギニアを中心とした西アフリカ諸国では初めてだ。感染拡大の抑え込みに奮闘しているMSFの取り組みと課題について聞いた。

西アフリカ:なぜエボラがここまで流行したのか?――MSF医師の見解(下)

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西アフリカでエボラ出血熱の新規感染が再び増加に転じましたね。

MSFのヒルデ・ド・クレルク医師(2007年、ウガンダでのエボラ流行時) MSFのヒルデ・ド・クレルク医師
(2007年、ウガンダでのエボラ流行時)

MSFは、感染者と接触した可能性がある人、感染した疑いがある人を追跡する疫学的監視を行っています。2~3週間前の6月上旬時点で、対象としていた村はギニア国内に2ヵ所のみ。調査結果から、流行終息も間近だろう、と期待が高まっていました。

ところが、その後、国内3ヵ所から同時に調査の要請があったのです。状況はわずか5分で急展開しました。調べた結果、複数の症例が隣国シエラレオネとギニアとの国境沿いの村々で見られることがわかりました。

現地の人にとって国境とは、私たちが思い描くような厳重なものではありません。こちらの国境はさえぎるものがなく、人びとが自由に行き来しています。親類が国境のどちら側にもいて、商用や葬儀のための移動も頻繁です。

一方、ギニアでも新規感染が疑われるケースが報告されました。首都コナクリの北200kmの山間部に位置するキンディア州のテリメレ県です。コナクリからも症例報告がありました。

これらの新たな報告を受け、MSFは監視対象とする地域を増やさなければならなくなりました。ギニア南部で最も流行の深刻なンゼレコレ州ゲケドゥ県で、2村から40村に増やし、対象人口は計500人余りとなりました。

追跡調査の疫学的分析でわかることは、次に新規症例が発生しそうな場所です。これには数多くの村が該当しています。MSFがこれまで対策に携わったエボラ流行の中で、流行期間と症例数に関しては最大規模の集団感染になってしまいました。

住民の不信感は、エボラ拡大抑止の活動にどのように影響していますか。

エボラ治療施設で血液検査用のサンプルを運ぶMSFスタッフ エボラ治療施設で血液検査用のサンプルを
運ぶMSFスタッフ

ギニアのある家族は、エボラで15人を亡くしました。ただ、MSFが治療にあたった家長の男性とその奥さんは、幸い2人とも命を取り留めました。家長夫婦は家族内で影響力が大きいので、身内にエボラに似た症状のある人がいたら、速やかに治療を受けさせなければならないと考えるだろうとばかり思っていました。

ところが、数日後、この家族の幼い男の子が病気になったのです。叔母が男の子を連れて別の村へと出ていき、男の子はその数日後に亡くなってしまいました。

家族の一部の人だけに理解してもらっても十分ではなかったのです。感染の連鎖を断つには、MSFが家族全体から信頼を得なくてはいけないのでしょう。これはまさに一大事業です。だからこそ、病気の周知に関する宗教・政治的指導者のいっそうの協力が要となるのです。

MSFは現在、一部地域で敵意を向けられています。ゲケドゥ県では今も、20村が医療チームの入村を拒んでいます。この状況を打開するため、地元責任者との話し合いを重ねています。

エボラに関する正確な情報を、当該国の全域に速やかに伝えることも必要です。これは、エボラへの不安を減らすために欠かせない活動です。また、早めに医療施設で処置を受けること、感染が疑われる場合は移動や他人との接触を控えること、エボラで亡くなった人の適切な葬送の仕方などを周知するためにも不可欠です。

信頼性の高い情報を周知することは、流行抑止策の一部に過ぎません。患者や地域社会が、情報をしっかり受け止めることも求められるでしょう。ウイルス感染の連鎖を断つには、流行地域の住民に知識を伝え、信頼を得ることが非常に重要になると思います。

現在はどのような課題に直面していますか。

新たな感染地が著しく増えていることを受け、MSFは以前よりさらに多くの場所にチームを派遣する必要に迫られています。経験豊富なスタッフがいるものの、際限なく人材を供給できるわけではありません。MSFは世界各地でエボラ以外の緊急事態にも対応しており、人員に限りがあるのです。

MSFは各地で、感染者や感染者と接触した可能性がある人の疫学的監視、疫学調査、健康教育、患者・地域住民の相談受付、検疫、治療、救急搬送、住居の除染、埋葬などをさまざまな活動を行っています。一部の活動はMSF以外の組織・団体も取り組んでいますが、いずれも小規模です。取り組みに対する経験が不足していることもあります。

この緊急事態に対応できるだけの人的資源を確保することが急務です。特に、経験豊富な人材が求められています。今回のエボラ流行を抑え込むには、"洗練"された医療よりも、経験が重要です。MSFがエボラ対応で行っていることは、医学的にはそれほど"洗練"されたものではありません。しかし、感染リスクを避けるために必ず守らなければならない非常に厳格な手順に基づいています。

理想を言えば、現地の人員を増やし、経験豊富なスタッフから2人1組で最低1~2週間の研修、可能であればもっと長期の研修を受けられるようにしたいところです。

活動を進める上で困難だと感じることはありますか。

膨大な仕事量を抜きにしても、スタッフにとって心身ともに極めて大変な環境です。感染者の発見に向かうアウトリーチ・チームは、目的の居住地にたどり着くまで長い距離を移動します。感染者と個人的に知り合いだというスタッフも多く、家族や仲間と引き離されて治療施設に搬送される悲しい瞬間に立ち会うことになるのです。

治療施設で活動するスタッフは、全身を覆う潜水服のような防護服を着なければなりません。着心地は非常に悪く、猛暑の中では耐えがたいものがあります。患者が多く作業時間が長いため、スタッフも熱中症や脱水症にならないように注意が必要です。

精神的にも、極めてつらい仕事です。子どもも含め、大勢の患者が亡くなります。エボラ出血熱の終末期ケアは、患者がおびえていることもあり、心が痛みます。私たちは機会のあるたびに患者を慰め、なだめています。最後に触れ合う人間である私たちに手を握っていてほしいという患者も大勢います。そういった出来事がつらく、精神的にも大きな衝撃となるのです。緊急事態ではあっても、可能な限り人間らしく、優しくあろうと努めています。

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